第235話「ヤバい二人」
シオの衝撃的な暴露から数分間ほど経過して、同じ秘密というか趣味をもっている少女二人は意気投合して話をしていた。
まぁ、話と言っても互いに部屋のテーマと化してしまっている兄と妹に対する、熱い思いを語っているだけなのだが。
「お兄ちゃんを語る上でやっぱり外せないのは普段強くて優しいところもそうなんだけど、やっぱり戦いが絡んでないときの完全にリラックスして気が抜けきっているのが可愛いのよ。こうなんというか癒し系っていうか、マスコットキャラみたいな感じで抱きしめてお持ち帰りしたくなる事が何度もあってすごく大変なのよ」
「わかる、ラセツも似たような感じで普段は超がつく真面目で皆から尊敬されているのだが裏ではおねーちゃーん疲れたよーって全力で甘えてくるのが可愛くてオーヨチヨチとつい甘やかしてしまうというか母性がくすぐられて産みたくなる気持ちになんど自制心を失いかけたことか」
誰かタスケテ、オレはこの二人の世界が理解できないよ。
部屋の片隅で存在感を主張したくなくて体育座りをする自分は、癒やし論とから母性論?みたいな会話をしている少女二人に背を向けて途方に暮れていた。
何かあったのではないかと心配して部屋に突入した気持ちは、もはや遠い理想郷の彼方に消え去っている。
代わりに胸の内を支配しているのは、一刻も早くこの地獄みたいな状況から解放されることであった。
高飛車っぽいセツナのイメージは粉々に砕け散って、もはや妹大好きマンで再構築されている。うん百合は大いに結構だ。
ラセツがこの部屋の存在を知っているのかは分からないが、知らなかったのだとしたら絶対に秘密にしたほうが良い。
じゃないと国を再び飛び出して、第二弾の追跡クエストが開始される可能性が高いと思うから。
推しに対する熱い情熱と考えれば分からなくは無いのだが、妹の部屋がこれと似たような状態なのだと想像すると、何とも言えない気持ちが胸中に広がる。
……普段家のソファーで脱力してるときに、やたら膝枕してくれたり
危うくお持ち帰りされそうになっていたのかと思うと、今更だけど恐ろしく思う。
いや、嫌いになることは絶対にないんだけど。愛が重いというかなんというか。
そんな妹のトークに負けず劣らずセツナの本音も闇が深かった。
妹成分を補給するために昨日帰宅してから、ずっと部屋に
というか完全に病んでるような気がするので、此処は聞かなかった事にして一足先に皆のところに帰ったらダメでしょうか?
何だかロウのお悩み相談をしていた方が一億倍マシな気がしてきたので、そっと立ち上がり部屋から逃げようとするのだが……。
「お兄ちゃん、どこに行こうとしてるのかな?」
「ちょっとまて、うちの部屋の事を
「そんなことしないよ! 見なかったことにするから、ここは見逃して欲しいなー!」
「あ、良いこと思いついたわ。ラセツ姫の成分が足りなくて力が出ないのなら、お兄ちゃんをコスプレさせて代わりにしたら良いんじゃない?」
「は?」
代わりにはならないだろ、一体何バカなことを言ってるんだこの妹は。
好きな人の代わりは、この世のどこを探してもいない。
現にセツナもすごく微妙な顔をしている。流石にそれはチョットって雰囲気が、口にしなくても伝わってくる程だった。
無言でオレを見たセツナは、うんうん唸りながら胸の前で腕組みをする。
シオの提案に答えるために、口を開いた彼女が発した第一声は、
「うーむ、ラセツの代わりに愛でるには弱さが足りない。……ちょっとこのベッドで、リラックスして気を抜いてみないか?」
「オマエは一体何を言ってるんだ」
ベッドを軽く叩いて誘うセツナに、思わず真顔でツッコミを入れた。
だが彼女は本気らしく、この国でレベル50以上の〈忍者〉しかなる事のできない新職業〈武者〉のスキルを発動。
すると背後にセツナが、もう一人現れた。
これは自身のステータスの半分程度しかない分身を、一体だけ作り出すスキル〈
羽交い締めにされるけど、ステータスは低いので直ぐに振り払う。
だがコンマ数秒の隙に距離を詰めてきたセツナとシオが、オレの身体をしっかりとホールドしてきた。
付与スキルで強化するが、乙女力という奴なのか全く微動だにしない。
「ぎゃー! こんなムリヤリでリラックスなんてできるかぁー! ていうか、妹の癒やしを求めてるならラセツを探しに行った方が良くないか!?」
どう考えても間違っている二人の選択に、声を大にして正論をぶつける。
だがシオは「まぁまぁ、お兄ちゃんもプールで少し疲れたでしょ?」と言って全く取り合ってくれない。
セツナも力を入れて探すためにも、五分だけ愛でさせてくれとかわけの分からない言い訳をしている。
孤立無援とはこの事か、せめてクロを連れてきていたら……。
最後にオレは、パーティー全体チャットで十分くらい遅れる旨を送る。
後に浴衣を着せられて、王室御用達の気持ちの良いベッドで五分間二人に愛でられる体験をしたオレは、
危うく二人の母性に、バブみを感じてオギャる寸前まで理性が崩れかけるのであった。
◆ ◆ ◆
四之村に向かう道中、馬車の中でオレは何も無い荒れ果てた荒野を眺めていた。
「お姫様、なんだか昨日よりスッキリした顔してるね」
「ああ、そうだな……」
「ソラ君は何だか、ずっと顔が赤いけど大丈夫なのじゃ?」
「イノリ、気にしないでくれ……」
二人が満足して解放された自分は、ギリギリのところで理性を保つ事ができた。
危うく冒険者ソラではなく、赤ん坊になる所だったので本当に良かったバブバブ。
最大乗員数十人の馬車の中は、今まで利用した中でも一番広い。
端っこの方ですっかり仲良くなったシオとセツナは、二人だけの世界を構築している。
その隣にイノリ、オレ、クロの並びで座り、対面にはシンとロウが二人だけで座っている。
視線が合うとロウは、急に先程のプールでの一件を謝罪してきた。
「すみません、自分でもあそこまで平常心を失うとは思いませんでした」
「気にするな、オレなんてたまに理性崩壊寸前まで追い詰められてるからな」
「オマエは理性の崩壊と再生は、クソゲーと神ゲーでなんども繰り返してるだろうが」
シンのツッコミに、今まで沢山あった色々な出来事が脳裏に浮かぶ。
オレ自身がゴルフボールになってアスレチックみたいなステージでゴールを目指す脳みそクラッシャーものから、孫の手装備でオートエイムの銃弾を避けながら敵を殴り倒していかないといけないないモノまで色々なゲームをプレイしたものだ。
いやはや良く自分を保っていられるものだ、と少しばかり感心してしまう。
まぁ、オレの苦労話はともかくロウは〈スカイファンタジー〉の思い出をとても大切に思っている。
あの時の悔しい思いが未だに強く残っているのは自分も同じだし、ああやってずっと抱えずに吐き出してくれた方が多少はスッキリすると思うので、彼のことを悪く思うことはけしてない。
「ま、ロウも時には爆発したら良いよ。後で気持ち良いくらいに爆発できるゲームを贈っとくからさ」
「ふふふ、それは謹んでお断りします」
「なんで!?」
「オマエの贈ってくるゲームは、マジで七割くらいロクなのがないからな。……どうせ花火とか爆弾になって弾けるんだろ」
「シン、何故わかった!?」
あっさり看破されて狼狽えていると、親友二人は可笑しかったのか笑い出す。
そんな会話を続けていたら、オレ達を乗せた馬車はあっという間に四之村に着くのであった。
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