第154話「変わり者のクラスメート達」
正体を明かしても、クラスメート達から反応は返ってこなかった。
いきなり現れた銀髪碧眼の美人の正体が、実は同じクラスメートの冴えない普通の日本男児なんだと言って、直ぐに信じてもらえるわけがない。
ご都合主義の物語とは違う。
これが普通の反応だ。
そういった意味で考えると、オレの姿が変わって詩織がすぐにこの容姿を受け入れてくれたのは、例外なケースだと思う。
現実的な話をするのならば、現在クラスの人達は恐らくテレビのドッキリとか、そういう企画モノだと思っているかも知れない。
実際に彼らは、どこかソワソワしていて何かを待っているような雰囲気を
さて、どうしようこの状況。
反応が無さすぎて実に困った。
沈黙が教室内を支配し、廊下では蒼空のカミングアウトを聞いた学生達が「上條って、あの上條!?」と大騒ぎになっている。
イケメン二人と一緒にいるせいか、オレ──上條蒼空の名前は、クラス外でもそこそこ知られていた。
もちろん好意的なものではなく、なんであのイケメン達と仲が良いんだろうと、疑問に思われている程度の認識だ。
話はあっと言う間に広がって、窓には何だかホラーみたいな感じで、オレを見に来た生徒達がびっしり張り付き。
そして駆けつけた教師達によって、自分たちの教室に戻るように注意される。
内は静寂、外は大騒ぎ。
そんな混沌とした状況の中で静寂を破ったのは、不意に立ち上がって、立ち尽くす蒼空の目の前まで歩いて来た一人のクラスメート。
彼女の名前は
前田はオレの正面に立つと、その端正な顔で真っ直ぐに見つめてくる。
一体どうしたのだろう。
オレの発言に対して、前田は疑問を抱いているのか、いつになく真剣な表情だ。
少しだけ緊張して額からダラダラ汗を流し、何を言われても耐えられるように、心の準備をしておく。
まるで猛獣の
前田はゆっくりと両手を広げて、それから───
「上條くん、とっても可愛いッ!」
突然、抱きしめてきた。
は?
と、言葉を出す事もできずに、女の子の独特のフローラルな香りに包まれた蒼空は硬直してしまう。
それを皮切りにして、彼女が謎の爆発を見せた事によって他のクラスメート達が勢いよく席から立ち上がると、一斉に弾かれたように動き出した。
「委員長の理性が
「やっぱり可愛いもの好きの委員長は、真っ先に逝っちまうわな」
「良いなぁ! わたしも今の上條君を思いっきり抱きしめたい!」
「ふふふ、委員長と銀髪美人のからみ合い……我が生涯に一片の悔い無し!」
「おい、
「幸せそうだからほっといてやれ、どうせ先生が来るまでには復活するだろ」
「おはよー、上條君。綺麗な銀髪だね。普通にポニーテールにするだけなんてもったいないから、後で色々と触らせてもらっても良いかな?」
「あ、
多方面で様々な反応をするクラスメート達。その中で正面の席に座っているギャル系の仲居が、抱きしめられているオレに、いつもの軽い感じで話しかけてくる。
先程とは打って変わって、お通夜みたいなムードだった教室内はとても
クラスメートの男子達は「いけないと分かってても好みすぎる!」だの「あーもう、あんなに可愛いとか罪深すぎるわ!」とか頭を抱えて不穏な言葉を天井に向かって叫んでいた。
一方で女子達はわらわらとオレの所に集まってきて「小さくて可愛い!」だの「お、お姉ちゃんって呼んでもらっても良いかな!?」と興奮気味に詰め寄る者達が続出する。
ガッチリと抱きしめる委員長から、なんとか逃れようともがきながら一部始終を見ていた蒼空は、もはや何がなんだか分からない。
さっきまでの沈黙は何?
何で自分は今、委員長に抱きしめられているのだ?
分からない。
全く分からないことだらけだが、一つだけわかることがある。
それは彼等が、今のオレの姿を受け入れているという事。
嬉しさよりも先に、なんでと疑問に思う中。蒼空の隣で微笑ましい顔をして、クラスメート達を眺めている二人の親友が答えた。
「おまえ、夏祭りで小鳥遊ちゃんに振り回されて周りが見えてなかったんだろうけど、あの時にクラスの殆どの奴らに見られてたんだぞ」
「後日みんなに呼び出されて、ボクと真司で蒼空の事を説明させてもらいました。もちろん世界がこの状況ですからね。あっさり信じてもらえましたよ」
「あー、なるほど?」
確かに言われてみればそうだ。
あの日は真司と志郎に銀髪碧眼の少女になった事をカミングアウトする事と、浴衣姿の黎乃と楽しむので頭がいっぱいで、正直に言ってクラスの人達も祭りに来ることは完全に失念していた。
良く知っているイケメン二人が話題の銀髪の外人と一緒にいる所を見たら、それは皆から呼び出されるよなと納得する。
でもそれなら、皆が既に知っている事をオレに教えてくれても良かったのでは。
そしたら、緊張なんてしなくて済んだのに。
少しばかり仲間外れにされた感じがして、ムスッとした顔をして二人を問い詰める。
真司と志郎は実に申し訳無さそうな顔をして、女子達に囲まれている蒼空に謝罪をした。
「悪かったよ。でもこいつ等に、蒼空には黙っててくれって頼まれたんだ」
「本当は話しておきたかったんですけどね。どうやら皆さん、蒼空を驚かせたかったみたいで」
「そういうサプライズは、心臓に悪いからやめてほしいんだけど」
恨めしい目をした蒼空に、二人の親友は苦笑した。
まぁ、聞いている限りでは真司と志郎には全く非はない上に、しっかりサポートをしてくれていたので、この辺りで許すべきだろう。
二人に追求するのをやめると、自分を抱きしめている前田が満足したのか手を離し、一歩後ろに下がって皆を代表して言った。
「ふぅ、上條君、びっくりした?」
「……うん、驚いたよ」
「ごめんね、上條君の話を聞いてあげたら、私が直ぐにネタばらしをする予定だったんだけど……」
前田は何やらプルプル震えて、オレを見る瞳に
「私、私ね……思っていた以上に上條君が可愛すぎて! 自分を、自分を抑えられないのッ!」
「委員長!?」
退路がない蒼空に対して、前田は再び胸に抱きしめ、自身の欲望を全力で開放した。
「可愛すぎるぅ! 上條君、今日はうちに泊まりに来ない? 今の上條君に似合いそうなお洋服が、一杯あるんだけど!?」
「委員長、高宮君達にそういう話はしちゃだめって言われたでしょ」
「上條君、委員長についていくと着せ替え人形にされちゃうからダメだよ」
いつの世も思いを爆発させた女子というのは実に凄まじいもので、抱きしめるその力は万力の如く。
親友の二人含めてクラスメートの男子達は助けられないと判断して、離れて眺めることしか出来ない。
そんな女子達に囲まれて中央でもみくちゃにされながら、蒼空が身体に色々と当たるものについて意識しないようにしていると。
教室の扉が勢いよく開かれて、スーツ姿で身長の高い日本人形みたいな髪型の女性が入ってきた。
彼女の名前は
クラスの皆からはサッちゃんと呼ばれている担当教師だ。
皐月は教室内を見渡すと、殆どの生徒達が自分の席に座っていない現状に対して、眉間にシワを寄せる。
「こら! 朝のホームルームの時間だよ、全員自分の席につきな!」
教室の全体に届くほどの声量で
実に残念そうに離れた前田を見送り、蒼空も自分の席に座ると、たった一言で場の騒ぎをおさめた女教師と視線が合う。
校長達から事前に説明を受けている彼女は、聞いたとおりに姿が変わっているオレに対して、困ったような顔をした。
しかし、特別に何か言うことはない。
視線を外した皐月は次に廊下の方を見ると、外にいる人物に対して教室に入るように
言われて入ってきたのは、神里高等学校の女性用の制服を身に纏う、もう一人の銀髪碧眼の少女だった。
可憐なその容姿に、蒼空以外のクラスメート達は言葉を失う。
皆の注目を浴びながら、少しだけ恥ずかしそうに頬を赤める白銀の少女。
彼女が教卓の横に立ち止まると、皐月が口を開いた。
「今日から勉学を共にする新しいクラスメートだ。彼女は中学1年生だけど、冒険者権限と入学試験に合格して、特例で神里高校に入る事になった。
年上ばかりで同年齢のいない学校生活は不安だと思うけど、幸いにも上條が親戚らしいから何かあったらアイツを頼ってくれ」
「た、
………あ、噛んだ。
正真正銘の銀髪碧眼の美少女の出現に、クラスメート達のテンションは最高潮に達して、学校全体に響き渡る程の大歓声となった。
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