第138話「竜の庭園の決戦②」


 戦闘が始まって400秒程が経過する。


 巨体から繰り出される大鎌による連撃と突進攻撃、不意をついた尻尾の打撃もことごとく避けていくエマ。


 流石はプロゲーマーの世界トップレベルのチーム〈戦乙女ヴァルキュリア〉のメンバーの一人といったところか。

 見切りと身のこなしは見事なもので、終始回避に徹底する姿は感心させられる。


 一方で抱えられているシンは「ぬわぁぁぁぁぁ!」と情けない悲鳴を上げていて、時折ときおり空中に投げられた後に回収されるという、何だか気の毒になる扱い方をされていた。


 例えるのならば、曲芸のサーカスという言葉がピッタリだろう。


 広範囲を焼き払うブレス攻撃を〈リフラクトリィの大木〉の背に退避して防いだエマ達を尻目に、地面を走るソラは〈アイス・ソニックソードⅤ〉で瞬間的に加速。


「これで、一本だ!」


 〈魔竜王〉ベリアルの装甲が薄い下腹部を横一閃。

 先ず一本目のHPが全て消失した。


 二本目に入る事で、ようやくシンとエマの二人のターゲティングが解除される。


 魔竜の視線がソラに向けられると、シノは直様すぐさまA隊に〈挑発〉スキルの使用を指示。

 指示を受けた騎士達が前に出て、ソラを狙う大鎌を盾で受け止めた。


 次のボスモンスターの第二形態は、全身の鎧の部分が更に分厚くなり、ボロボロの翼が再生して空を飛べるようになった。


 この場を離脱して城を狙われたら厄介だと思っていたが、一定の高さまで飛翔すると〈魔竜王〉は止まり忌々しそうに上空を見上げた後に庭園の上を滞空たいくうする。


 城に向かわない事から察するに、どうやら敵はこの庭園というバトルフィールドからは、抜け出すことが出来ない様子。


 その昔のアクションRPGゲームで空の覇王というドラゴンタイプのモンスターがいて、戦闘中に空を散歩するように飛んでは、中々地上に戻ってこない上にブレスを雨のよう降らせて、プレイヤーを困らせたモノがいた。


 それと同じように一定時間〈魔竜王〉は空からブレス攻撃を、地上にいるソラ達に降り注ぐ。


 だが冒険者達は全員〈リフラクトリィの大木〉の背に逃げる事で、何もない場所では凶悪なその攻撃を全て防ぐ事に成功。

 オマケに地面に残るはずの炎も、辺り一面植えられている〈リフラクトリィの芝生しばふ〉によって全て吸収されて養分となって消える。


 やがて滞空時間の限界に到達した〈魔竜王〉は、ゆっくりと降下して地面に戻ってきた。


 その無防備な姿に魔術師達が水の上位魔術〈タイダルウェイブ〉を叩き付け、HPを一気に2割ほど削る。


 更に待っていましたと言わんばかりに駆け出したアタッカーの部隊が、時間差で〈アイス・ソニックソード〉で装甲が薄いお腹と足の関節部分をすれ違いざまに合計六回切り裂いた。


 中々な防御力で厄介ではあるけど、脅威度的にいうのならば、そこまで怖くはない。


 本来は全てのプレイヤーにとって、難関であったはずのブレス攻撃を庭園の存在によって完全に攻略された〈魔竜王〉ベリアル。

 〈アストラルオンライン〉のトッププレイヤー達にとってヤツは、最早ただ図体がデカくて大鎌を振り回すだけのモンスターと成り果てた。


 オマケに敵の唯一の強みであった、多くの者が初見の大鎌によるスキル攻撃は、全てソラがレベル2の〈洞察〉スキルで予備動作から事前に読み取る事が出来る。


「回転三連撃が来るぞ、防御崩しの効果を持ってるから、受けじゃなくて回避に専念しろ!」


 指示を受けた冒険者達は、すぐに〈魔竜王〉から距離を取り、攻撃の届く危険域から離脱。

 一回、二回、三回目の回転が終わると同時に、第二攻撃部隊が前に出て渾身の〈アイス・ストライクソード〉を胴体に突き刺す。


 それによって〈魔竜王〉の2本目のHPは半分を下回り、後5回ほどのアタックで最後の一本に入るところまでやって来た。


 完全に全ての動作が封殺されている魔竜は苛立ちから咆哮ほうこうして、大鎌を大きく振りかぶる。


「広範囲強撃が来るぞ。この距離じゃ逃げ切れない。B隊は出だしを盾で弾いて、キャンセルしてくれ!」


 ソラの指示に従い、B隊の騎士達が前に出た。

 〈挑発〉で狙いを自分達に向けさせて〈ファランクス〉と30秒の間、地形に関係なく踏ん張る事と、敵の攻撃でノックバックや怯んだりしなくなる複合スキルの〈イモウビリティ〉を発動。


 大きく空気を吸い込み、横薙ぎの一撃を構えた大盾で受けた。


「「「ド根性ッ!」」」


 気合を込めて踏ん張り、大盾で受けた大鎌をそのまま力技で弾き返す。


 正に自分達の全てを一つに束ねた、見事な受け技。

 これにはソラの近くにいるロウも「素晴らしい受けです」と感嘆の声を上げた。


 盾の扱いに関しては右に出る者はいないロウの称賛に、シノが微笑を浮かべる。


「〈ヘルアンドヘブン〉では常に連携を念頭において訓練しているからな。その成果が出てるようで何よりだ」


「シノさんの所と私の団、常にお互いをカバー出来るように立ち回ってるから、安心できるのも大きいわよね」


「ああ、それもこれも〈グレータードラゴン〉相手に、対ボスの演習をしていたのは無駄では無かったということだ」


「ええ、これからも積極的に取り組んでいきましょう、シノさん」


 シノの言葉にシオが同意するかたわらで、他の攻撃隊が〈アイス・ソニックソード〉でボスに突撃して、一撃離脱する。


 〈魔竜王〉が反撃しようとすると、遠距離から魔術師がレベル2の〈アクアランス〉を顔に向かって放ち行動を遅延ディレイ、攻撃隊が離脱するまでの時間を稼ぐ。


 〈魔竜王〉の大鎌は、大体振りかぶる動作があるので、落ち着いて対処すればディレイを入れるのは容易だ。


 レイドメンバーも数回のやり取りで慣れてきたらしく、ソラが指示しなくとも事前に動けるようになってきている。


 このまま安定して攻略出来るか。


 ソラ達が連携して〈魔竜王〉ベリアルのHPを一気に削り二本目も消失。


 遂に残り一本という段階に入った時の出来事であった。





『グオオオオオオオオオオオオオオッ!』





 魔竜が天に向かって咆哮ほうこうすると、突然全身が内側から燃えだした。


 しかもそれまで真紅だった炎の色は漆黒に変わり、鎧の形状は更に禍々しく、翼は二枚一対から六枚一対となる。


 当然だが変化は見た目だけではない。

 〈洞察〉のスキルが見抜いた敵のレベルは、100から測定不能に。 


 最後に額から3つ目の瞳を開いた〈大災害〉の魔竜は、大鎌を手に改めてソラ達と相対する。


「〈リヴァイアサン〉戦である程度予測はしていたけど、これが〈ベリアル〉の真の姿か……」


 感じる圧は先程とは比較にならない。


 今までのは軽い前哨戦ぜんしょうせんで、此処からが本当の戦いだと言わんばかりの威圧感に冷や汗が流れる。


 するとソラの呟きに応えるかのように〈ベリアル〉は、大きく息を吸う動作を見せた。


 視線で照準されたと判断した第三攻撃隊のメンバー達が、慌てて〈リフラクトリィの大木〉の後ろに隠れる。


 今までの〈ベリアル〉ならば、それで防ぐことが出来た。

 だが今目の前にいる〈ベリアル〉は先程まで戦っていた個体とは全くの別物だ。


「木で受けるな、避けろッ!」


 嫌な予感がしてソラが叫ぶと、漆黒の火の粉を散らしながら巨大な竜が口から息吹ブレスを解き放つ。


 真っ直ぐに攻撃隊が隠れる〈リフラクトリィの大木〉に直撃した炎は、一瞬だけ止まると。


 ───火属性に対して無類の耐性を持っているはずの大木を、焼き貫いた。


 これまで絶対的な防御力で、ブレスを防いできた大木の裏にいた攻撃隊は逃げるのが遅れて、漆黒の炎に呑まれ。


 全員一撃でHPが0になって光の粒子になった。


 衝撃的な光景に全員が硬直する中。


「まぁ、素直に倒されてはくれないよな……」


 息を呑んだソラが〈白銀の魔剣〉を構えると。



 〈傲慢の魔竜王〉ベリアルは、漆黒に燃える大鎌を構えて、掛かって来いと言わんばかりに不敵に笑った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る