第98話「スケルトン・キング」

 目的の採掘ポイントの入口には、武装した二人の竜人族の兵士が警備をしている。


 彼等はソラ達の姿を確認すると、先に行かせないように、手にしていた槍を交差させて進路を塞いだ。


「冒険者のお嬢さん方、此処から先は通行止めだ」


「採掘ポイントには現在〈スケルトン・キング〉が出現している。命が惜しかったら大人しく引き返しなさい」


 と、竜王から通行止めを命じられている彼等は、オレ達に対して実にお約束的な忠告をしてくれた。


 ソラは少しだけ偉そうに胸を張ると、無言で右手を前に突き出して、親指に装備している指輪を見せる。


 二人の兵士は、オレの指にはまっているファフニール王家の指輪を確認すると「信じられない」と言わんばかりに目を大きく見開く。


「これは、本物のファフニール王家の指輪……!?」


「し、失礼しました!」


 本物である事を理解した二人は、慌てて謝罪して、即座に進歩を妨害していた槍を下げる。

  

 オレとクロは中に入る事を許可されると、その前を堂々と歩いて抜けた。


 次にソラ達の後ろに続くのは、アリスとサタナスの竜人族コンビ。


 サタナスには反応せず、アリスの姿を確認した兵士は「なんでここに皇女様が!?」と腰を抜かすんじゃないかと思うほどに驚いた。


「天命でこの子を連れて来ないと行けなくてね。もしよかったら、我達に協力してくれない?」


「皇女様のご命令とあれば」


「承知いたしました」


 何やら2名ほど仲間が増えた。


 〈洞察Ⅱ〉のスキルで見たところ、二人のレベルは40とかなり高い。


 しかも二人共槍使いで、左腕にはカイト・シールドを装備している。

 職業は騎士なので、彼らが加わってくれるのならば、アリスとサタナスの守りはより強固なものになるだろう。


 入口の見張りは大丈夫なのか疑問に思ったが、そもそも元凶を今から倒すので問題はないと納得した。

 新たに二人の兵士を加えると、戦闘が始まる前にソラは、全員に付与スキルを使用。


 自分とクロには光属性と攻撃重視で、アリスとサタナスと兵士には防御重視で。

 MP回復ポーションを大量に使うことになったが、普段は剣のアビリティで自動回復させているので、出費的には問題はない。


「こんな高レベルの付与魔術なんてみたことがないぞ……」


「すごい、これならば〈グレータードラゴン〉の攻撃も受けきれる気がする」


 と、兵士の二人が感嘆の声を上げている間に、オレ達は最後の確認をした。


「アリスはサタナスの護衛、メインアタッカーはクロで、敵の攻撃を受けるのは基本的にオレがやる。敵のターゲットは攻撃するクロに向くはずだけど、それでも万が一サタナスやアリスが狙われるようなら、兵士の二人と三人で防御に専念してもらって、その間にオレとクロの二人でモンスターを迅速に倒す」


「りょーかいだよ」


 クロがいつものマイペースな返事をすると、オレ達は戦場に踏み込む。


 国が許可した者しか入れない採掘場。

 挑戦者を待つその姿は、例えるならばローマにある円形闘技場のコロッセオだろうか。


 粉塵が舞う広いドーム状の空間にオレ達が足を踏み入れると、ソレは姿を現した。


 光の粒子が何もない空間から出現して、一ヶ所に集まりだす。


 粒子は結合していくと、太い骨の形を形成していき、ソラ達が見ている眼の前であっという間に一体のモンスターとなる。


 この状態で攻撃したらどうなるのか、少しだけ興味があったけど、アリスが大人しく待っているので自分も待機する事に。


 しばらく待って、オレ達の眼の前に顕現したのは、全長5メートル程の巨大な人形の骸骨だった。


 骸骨の身体が纏っているのは王族っぽいボロボロな衣服で、頭には傷だらけの王冠を被っている。


 手にしているのは、所有者の身の丈ほどもある、直径5メートル以上の巨大な剣。


 敵のサイズから推測するに、あの長さは恐らくは大剣カテゴリーに属する武器だと思われる。


 剣身はびとか刃の部分が欠けていたりと、見るからに切れ味とか無さそうな状態だ。


 モンスターのネームは〈スケルトン・キング〉。


 特殊能力は咆哮《ローア」する事で、プレイヤーに状態異常〈封印〉を付与するスキル。


 それを〈洞察Ⅱ〉で見抜いたソラはMPポーションを取り出し、即座に自身とクロに〈状態異常耐性Ⅲ〉のスキルを5つ重ねて、後方にいるアリス達に事前に防御スキルを使用するように指示を飛ばす。


 王の名を冠したレベル60の強敵は、眼球のない瞳に光を宿らせると、跪いた姿勢からゆっくりと立ち上がった。

 視線は迷わず此方に向けられ、凄まじい敵意がソラ達にプレッシャーとなって伸し掛かる。




『グオオオオオオオオオオオオッ!』




 咆哮ローアを使用して、大剣を手に〈スケルトン・キング〉はオレ達に向かって駆け出す。


 ソラは自前の耐性スキルと付与した五重の耐性スキルで防ぐが、マトモに受けた後方のアリス達は〈封印〉を付与されて、一時的なスキルの使用が不可能となる。


 クロは状態異常を防ぐ確率が75パーセントだったが、日頃の行いが良いのか、何とか残りの25パーセントを引かずに済んだ。


 初手で敵が選択した攻撃スキルは、防御を崩すための下段から上段に切り上げる〈ブレイク・アッパー〉の構え。


 魔剣を抜いたソラが前に出ると、骸骨は小さな身体を真っ二つにせんと下段から刃を放つ


 以前にクロの父親、ハルトが使用したのに比べれば、スローモーションにしか見えない。


 余裕を持って左に普通のステップ回避をして、刃の側面に鋭い刺突技〈ストライクソードⅣ〉を叩き込む。

 〈スケルトン・キング〉は、それだけで姿勢を大きく崩して、転倒しないように慌てて踏ん張る。


 その隙を逃さないように駆け出していたパートナーのクロが〈ソニックソードⅢ〉で接近すると、骸骨の心臓部っぽい胸のコアを狙って〈デュアルネイルⅢ〉を発動させた。


「セイッ!」


 高速の水平二連撃が、同じ場所に寸分違わず叩き込まれ〈スケルトン・キング〉のHPを1割ほど削り取る。


 これで〈スケルトン・キング〉の狙いは、最初にダメージを与えたクロに向かうはず。

 そう思っていると、オレの予想は外れてモンスターの視線はアリス達に向けられた。


 ちぃ、やっぱりそういうタイプか!


 自分とクロに目もくれず、アリスとサタナスを狙って疾走する〈スケルトン・キング〉。

 迫ってくるモンスターを見据えて、サタナスの前に守るように立つアリスは、細剣と盾を構える。


「サタナス、絶対に我から離れないで!」


「う、うん」


 巨大な骸骨は剣を肩に担ぐと、大剣カテゴリーのニ連撃スキル〈デュアルトルネード〉を発動させた。


 大旋風となって横から大質量の斬撃が、皇女を守るために前に出た兵士達を盾ごと弾き飛ばす。

 そして二回目の斬撃が向かってくると、アリスはまなじりを釣り上げて、これを単身で受けた。


「ぐ、うぅ………ッ!」


 〈封印〉される前に使用したスキルは一回のダメージを半減する〈ファランクス〉だけ。


 当然だが、ロウみたいに上手い受け方ができない彼女は、徐々に身体が押されていく。


 だが竜王の娘として、生まれた時から備えている強靭な身体能力と、根性で踏み留まると。


「てりゃあ!」


 斬撃の勢いが完全に止まった隙きを逃さずに、全身全霊で弾き飛ばした。


 何たる根性と力技。


 〈スケルトン・キング〉は技を弾かれた事によって姿勢を崩し、そのまま片膝をつく。


 ──良くやったアリス!


 胸中で呟いて、ソラは敵の弱点である〈光属性〉をクロに付与すると、アイコンタクトして二人で前に出た。


 先行するクロが剣を横に構えて〈レイジ・スラント〉を発動。


 眩い光と共に巨大な骸骨に一本の斜線を刻んで、HPを残り6割まで削る。


 相棒が4割削ったのだ。


 残り6割はオレが削り切る。


 ソラは魔剣を右肩に担ぐように構えると、地面を蹴って骸骨の大剣に乗り、そこから〈ソニックソード〉の瞬間的な加速で高く跳躍。


 選択するのは片手剣の攻撃スキル。


 四連撃〈クアッド・スラッシュ〉。


 先ず最初に放ったのは、右から左下に放った袈裟斬り。

 勢いそのままに、今度は刃を返して放った逆袈裟斬りが、一度刻んだラインを再度切り裂く。

 スキルの慣性によって空中に留まるソラは、そのまま持ち手を変えると左袈裟斬り、最後に左逆袈裟斬りに繋げた。


 〈スケルトン・キング〉の胸に刻まれたのは大きなバツ印。

 しかし、何らかの根性系のスキルを使用したのか、攻撃バフを盛りまくっているソラの四連撃を受けたにも関わらず、残り1割残る。


「ウオオオオオオオオオオ───ッ!」


 骸骨モンスターに負けず劣らずの咆哮をしながら、ソラは捕まえようとする敵の手をかわし、〈跳躍力上昇Ⅲ〉を使用。

 地面を蹴って、再度飛翔した。


 選択するのは最強の刺突技。


 青く光り輝く剣を手に、ソラの〈ストライクソードⅣ〉が〈スケルトン・キング〉の頭部に深々と突き刺さる。


 HPが0になった巨大な骸骨は、光の粒子となって消えた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る