第48話「ジェネラル強襲③」
リヴァイアサン・ジェネラルが剣を横に構える、ストライクソードが来ると読んだソラは、タイミングを測った。
1、2、3、来るッ!
ソニックソードで加速して強力な突き技の横に回避、ソラは剣を肩に担ぐと、反転して上段から〈デュアルネイル〉を放った。
風を纏った剣は威力を増して、瞬時に2回の斬撃を大剣の側面に叩きつける。
強力な二連撃によって、大きく弾かれた大剣。
それに引っ張られて、ジェネラルの姿勢が崩れた。
「クロ!」
「任せて!」
駆け出した黒髪の少女が手に持つ漆黒の剣〈夜桜〉が、鮮烈に輝く青い風を纏う。
彼女はジェネラルの懐に飛び込むと〈ストライクソードⅡ〉を放つ。
強烈な突き技を受けた敵は、HPを1割ほど削られて、大きく後ろに後退した。
「シフト!」
スキルではない上段から振り下ろされる斬撃が、クロの小さな身体を狙う。
ソニックターンで、斬撃に割り込んだソラは〈ソードガードⅡ〉を発動。
真っ向から愚直に迫る刃を受けると、重さに耐えながらそのまま横に流した。
地面に叩きつけられる大剣。
ソラは付与スキルを発動すると、自身とクロの〈風属性付与Ⅱ〉を更新した。
「クロ、シフト!」
「りょーかい」
横から飛び出したクロの〈ソニックソードⅡ〉が、敵の左足を切り裂いて背後に回る。
HPは数ミリしか削れないが、それに釣れられて、ジェネラルの視線がオレから外れた。
──今が好機。
MPは先程の属性付与で70消費して、残りは200ほど。
自身の残りの4スロットに〈攻撃力上昇付与〉のスキルを使用して、軽減スキルと腕輪の効果で、MPの消費を合計140まで抑える。
攻撃特化に切り替え、極限まで高められた攻撃力。
眦を吊り上げたソラは、剣を手に勝負に出た。
「はぁぁぁッ!」
剣を肩に乗せて《クアッドスラッシュ》の構え。
ソニックソードと併用して接近、敵の胴体に鋭い斬撃を四回放ち、4本の線を刻み込む。
『ッ!?』
〈リヴァイアサン・ジェネラル〉のHPは、先程のソニックソードと合わせて一気に三割以上も削れる。
敵のHPは残り半分。
この調子ならば、行ける。
そう思った矢先だった。
敵が再び息を吸い込むモーションを見て、ソラは目を見開く。
不味い、アレは先程と同じ〈ヴェノム・ミスト〉の予備動作だ。
「させるか!」
慌てて遅延(ディレイ)を狙おうとするが、反応が僅かに遅れたのは致命的だった。
ソニックソードで妨害しようとしたオレと、クロを猛毒の霧が襲う。
視界の隅では、アラートが表示された。
【警告】
状態異常を付与されました。
毒状態になりました。
続けて毒を付与されました。
毒レベルが2に上がります。
思い返せば、このゲームで呪いを除けば、始めてのマトモな状態異常を受けた気がする。
なるほど、こういう風になるのか。
しかもクロも毒レベルが2になったらしく、毎秒HPが5も削れていく。
つまりは現在のクロのHPは400だから、後80秒で0になるという事。
毒にレベル3以上が無いのが、唯一の救いか。
自分はHPが520もあるから、まだ余裕はあるが、それでも敵の攻撃を受け続ければ回復する余裕なんてない。
状況は、かなり悪いと言える。
しかし、オレからしてみたら、まだ全然戦える状況だ。
「ソラ!」
クロが叫ぶと、眼の前の敵がオレを狙って、真っ二つにせんと剣を振り下ろす。
〈ソードガードⅡ〉で受けるしかない。
敵の攻撃を見切るために意識を切り替えると、自分でもビックリするくらいに綺麗に地面に受け流した。
強い衝撃に、震える大剣。
これが〈剣豪〉で培われた脊髄反射か。
やはりどんなゲームも、それで技術が磨かれるんだから、ムダなモノなんてないのだ。
もう一度やりたいかと聞かれたら、絶対にお断りだが。
少しばかり感動しながら、ソラは相棒の名前を呼ぶ。
「クロ、シフトだ!」
「わかった!」
敵の背後から、クロが戦う時間の短縮を狙って〈トリプルストリーム〉を発動。
上段からの斬撃、横薙ぎ、最後の一撃をキャンセルして〈ストライクソードⅡ〉を綺麗に繋げて叩き込む。
オレの目からしてみても、中々に見事なキャンセル技を使用した連撃だった。
しかも弱点属性でブーストした三連撃は、ジェネラルのHPを一気に残り3割まで削り取る。
『ガァッ!』
「……ぁ」
怒り狂ったジェネラルの剣が下段に構えられて、赤い光を放つ。
不味い、あの構えは三連撃のスキル〈トリプルストリーム〉だ。
クロがまともに受ければ、毒で削れているHPは、全て消し飛ぶだろう。
着地した無防備な彼女の小さな身体を切り裂かんと、大剣が解き放たれる。
「う……っ」
視界いっぱいに迫る鋭い刃。
これは1回死ぬ、とクロがギュッと目を閉じる。
そこに、全力のソニックターンで反対側にいた筈のソラが、ギリギリのタイミングで割り込んだ。
「ハッ!」
〈ソードガードⅡ〉を纏い、下段から迫る切り上げられる斬撃を上に受け流す。
更にそこから肩に担ぎ、全力で放たれる横薙ぎの斬撃を、剣の悲鳴を聞きながら強引に切り払う。
最後に回転して、放たれる強力な突き技。
串刺しにせんと迫る大剣を、ソラはタイミングを測り全力で横に受け流した。
抉れる地面。
ギャリギャリと、音を立てる大剣。
ちゃんと防御したというのに、負荷によってソラのHPが三割ほど削られる。
オマケに無理に受けたものだから〈白銀の剣〉の耐久値が、4割ほど持っていかれた。
強化された〈ソードガードⅡ〉と耐久特化のこの剣でなければ、恐らく途中で折られていた可能性は高い。
中々に痛いが、これも臨時タンクの役割であり宿命だ。
ソラは何やら呆然としている少女を見ると、楽しそうな声で言った。
「クロ、大丈夫か?」
「……なんで、助けに来たの」
「相棒を見捨てるわけ無いだろ」
「あい……ぼう……」
「良くあそこまで削ってくれた、後はオレに任せろ」
彼女を守るように立つと、リヴァイアサン・ジェネラルと相対するソラ。
レベル2の毒によって、自分のHPはレッドゾーンに突入しようとしている。
このままでは、負けることは必至。
そう思っていると、身体が緑色に輝く。
何事かと驚くと、減っていたHPが一気に8割まで回復する。
この現象を起こした主は、視界の端で此方に両手を向けている翡翠の髪の少女だった。
……アリア、ありがとう。
心の中で礼を言うソラ。
回復を終えたギオル達が、慌てて此方に向かってくるのが見える。
このまま耐久戦をしたら、勝つことは難しくないだろう。
しかし回復して余力が出来た事で、少しばかりオレの中に欲が芽生える。
この状況、やはり最後はタイマンで終わらせてこそ“ロマン”というもの。
オマエもそう思うだろ?
するとソラの意思を否定するかのように、大蛇のターゲットが、クロから遠くにいるアリアに変わる。
おい、おまえマジかよ。
せめて、キサマだけは道連れにする。
そんな持たんで良い執念を宿したジェネラルは、ソラを無視してソニックソードで騎士隊に向かって加速して駆け出す。
「ギオル、コイツの狙いはアリアだ、挑発で狙いを変えろッ!」
慌てて、ソニックターンで追いかけるソラ。
しかし毒の影響か、いつの間にか疲労度が4割まで上がっている。
多用しすぎると、移動系のステータスが半減するペナルティを受けてしまう。
もしそうなった場合、致命的だ。
「騎士隊、アリア様を守るぞ!」
ギオルの号令によって、騎士のスキル〈挑発〉が発動する。
しかし、なんとこの場面で、全員が外すというとんでもない結果となった。
10人以上が外すとか、一体どれだけ挑発に対する耐性が上がってんだよ!
心の中で悪態をつくが、ジェネラルに追いつく寸前に、疲労度がギリギリのゾーンに突入する。
流石にソニックソードをキャンセルして、疲労度を回復する為にその場に膝をつくと、騎士隊がアリアの前で陣形を組むのが見えた。
「この命に代えても姫をお守りするぞ!」
最前列のC隊に、ジェネラルの上段からの攻撃〈ガードブレイク〉が炸裂する。
二つのスキルでダメージは半減で抑えられたが、使用されたのは防御を崩すスキルだ。
四人の騎士達は勢いを殺しきれず、大きく弾き飛ばされて地面を転がった。
別の騎士隊──B隊が、C隊に続いて足止めをしようとジェネラルに盾ごとぶつかりに行く。
それを一瞥した大蛇は、剣を横に構えると〈デュアルネイル〉を発動。
淡い緑色の光を纏い、二連続の斬撃で彼等を盾ごと遠くに切り払う。
不味い。
大型ボスの技というのは、弾くにしろ受け流すにしろ、かなり高い技術を要求される。
ただ闇雲にぶつかったところで、統率が取れていなければ今みたいに蹴散らされるのだ。
リヴァイアサン・ジェネラルは、とうとうアリアの目前まで迫る。
残ったのは、ギオル率いるA隊のみ。
疲労度は、徐々に下がっていくが、これが実にもどかしい。
あの疲労度を回復させるパルフェみたいな携帯食品アイテムが、今は非常に欲しくなる。
しかし、そんなものは現在は存在しないので、ひたすら待つしかない。
早く、早く!
と、はやる気持ちを抑えつけながら、ソラはせめてと彼等に助言をする。
「上段からのガードブレイクとストライクソード以外は、固まって防御に専念しろ!」
オレがそう言うと、ギオルは深く頷く。
連撃系ならば、固まればそこまで怖くない。
問題なく、受ける事ができるだろう。
だがジェネラルはソラの予想を裏切り、剣を横に構えた。
「不味い、ストライクソードが来る、全員左右に避けろ!」
ソラが叫ぶが、ギオル達は回避の行動をしようとしない。
即座にオレは、それが背後にいるアリアが恐怖で固まってしまっているのを守るために、動けないのだと気づいた。
「ソラ様、アリア様を」
ギオルの言葉は、途中で途切れる。
青い閃光と共に鋭い回転を加えた大質量の刺突が、圧倒的な威力を
他の隊員達を守るために先頭にいたギオルの右腕が刺突に巻き込まれ、盾を持ったまま宙を舞った。
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