第39話「親友も同類」

 二人の強力な助っ人が加わり、その場の大蛇を全て倒し終えると、シオは一旦風の精霊の兵士に話をすることにした。


「……というわけで、今から30分休憩を取りますが大丈夫ですか?」


「はい、シオ様。冒険者様達は、身を挺して守ってくださってるのです。私達には異論などありません」


 承諾を得ると、すぐさま全ての隊員達に休憩の支持を出す。

 全隊に蓄積された疲労度は、既に2割まで達している。

 こうやって疲労度を回復する時間を設けなければ、ゴールまで後4回の進行をするのは自殺行為にしかならない。

 戦闘が始まって既に2時間も経過しているのだ。


 流石に、精神的に疲れたのだろう。


 休憩の支持が出ると、殆どの人達が地べたに座り込み、みんなグッタリしていた。


 ここにいるのは〈宵闇の狩人〉のクランメンバーと、援護に駆けつけたシンとロウだけだ。

 開始した時は、他に何十人もいた野良の冒険者達も、今は一人も残っていない。


 どうやら〈リヴァイアサン・アーミー〉にヤラれて、みんなイベントから降りたらしい。


 天命残数というものがある以上、ムダに死ぬのは割りに合わないと思うのも、仕方のない事である。


「ふん、腰抜け共が」


 と一日目でリタイアした野良の冒険者達に憤慨(ふんがい)するマナに、シオは首を横に振った。


「もう、相変わらず口が悪いわね。そもそもオンラインゲームの野良には、基本的に期待する方が間違ってると思うわよ」


「でもその野良には、ああいう奴らがいるんだろ?」


 こちらに歩いてきた黒髪の長身の少年と、茶髪の爽やかな少年を見やるマナ。


 アレを基準にすると、殆どの冒険者が弱い事になってしまうのではないか?


 なんせ彼等は、かつて兄と肩を並べてVRゲーム最難関の一つといわれている〈サタン〉と戦った二人なのだ。

 〈殲滅者せんめつしゃ〉シン。

 〈騎士王きしおう〉ロウ。

 この二つ名は〈黒閃〉と同じで、オンラインゲームをやっているプレイヤーで知らない者はいない程に有名だ。 

 もしもマナが一対一の〈決闘〉をしたとしても、一日程度のレベル差では彼等にプレイスキルの差で負けると思う。


「あの人達は、例外よ」


 ついでにシオはマナに「ちょっと席外すわね」と言って立ち上がると、二人に歩み寄る。


 そういえばゲーム内で会うのは初めてだな、と思うとシンが先に声を掛けてきた。


「危ないところだったな、シオちゃん」


「イベント頑張ってるみたいですね。ちょうど危ないところだったみたいで、間に合って良かったです」


「ありがとう、すごく助かったわ」


 シオが礼を言うと、シンは周囲を見回して一つだけ尋ねた。


「宵闇の団長はどうした? アイツがいたら、ここまで苦戦しなかっただろ」


「ヨルさんは森に入ったら、どこかに消えちゃった」


「「あー、なるほど」」


 団長不在の理由を知った二人は、声を合わせて納得した顔をする。


 ヨルとは〈宵闇の狩人〉の団長の冒険者プレイヤーネームで、レベル18の召喚士サマナーの少年だ。

 彼の事を昔から良く知っている二人は顔を見合わせて苦笑すると、ヨルについて各々の感想を口にした。


「アイツのイベントを無視してでも、新しいマップを放浪する癖は変わらないな」


「とりあえず、隅から隅まで調べるのが好きな人ですからね。森だと時間が掛かるので、最悪今回のイベントが終わるまで帰って来ない可能性は高いでしょう」


「や、やっぱり、そうなりますよね……」


 ある程度は覚悟していたが、やはり今回は団長抜きで戦わないといけないのか。

 シオがどうしたものか、と困り顔をするとシンとロウの二人は互いの顔を見て深く頷いた。


「となると、シオちゃんとこかなりしんどいな。これはイベント終わるまで、俺達がいてやった方が良くないか?」


「そうですね。幸いにも、イベント期間だけ傭兵としてクランに参加できるみたいですし」


「え、い、良いの!?」


 二人が助っ人として入ってくれるなら、これ以上の心強い援軍はいない。

 傭兵システムは、クランから個人に申請か、或いはギルドで募集が掛けられている時のみ利用できる。

 シオは目を輝かせると、傭兵申請する前に今後の事も考えて二人にフレンド申請をした。

 シンとロウは、快く承諾。

 更にフレンド枠から、彼等にクランの傭兵申請をしようとしたシオは、二人のレベルを見て目を見開いた。


「れ、レベル16……!?」


 思わず2度見をしてしまう。

 表示バグかな、と思うほどのレベルだった。

 そのシオの反応に気分を良くしたのか、シンは胸を張って言った。


「おう、あれから結構頑張ったんだぜ。これでトップのレベル帯に、かなり近づいて来たんじゃないか」


「疲労度の半分のギリギリラインを、ひたすら反復横跳びしてましたからね」


「ふ、二人とも〈デュオ・レベリング〉のスタイルでもうレベル16なの……!?」


 おかしい。


 いや、おかしいなんていうレベルではない。


 二人は昨日このゲームを始めたばかりだというのに、もう自分とのレベルの差が残り2しかないのは常軌を逸している。


 アストラルオンラインのレベル上げは、パーティーを組むと経験値が分割されるので、ソロの2倍以上の速度でモンスターを倒すことができなければ効率が一気に悪くなる。

 そしてソロでのレベリングにも問題があり、疲労度によって休憩する時間が必要となるのだ。


 ロウは疲労度の半分のギリギリラインを、ずっと反復横跳びしていたと言っていた。


 つまりは疲労度が半分近くになると小休止して、疲労度が少し下がっては敵を倒すことを、ひたすら二人で繰り返していたのだろう。

 理屈は分かるし、できなくはないレベルの上げ方だ。

 しかしこれは、


「二人共、一体何を狩ってたの?」


 シオが質問をすると、


「「メタルスライム」」


 と、シンとロウは、簡潔に答えた。

 その名前を聞いた彼女は、絶句する。

 あの逃げ足が早く、最低でも三人以上はいないと倒すことすら困難というメタルスライム。


 それを、たった二人で?


「メ、メタスラ……」


「おう、先ず見つけたらサンダーランスでスタンさせて、後は二人でソニックソードで切りつける簡単な仕事だぜ」


「シンの命中精度は、相変わらず凄いですよね。50メートル以上離れてるメタルスライムに、ピンポイントに突き刺さるんですから」


「ご、50メートル……!?」


 ちょっと待て。

 確かメタルスライムのサイズは、50センチほどしか無かったはず。

 50メートル以上も離れた位置で、動くそれを魔術の槍で狙い撃つなんて芸当が、果たして容易に出来るのだろうか。


 多少はシステムにアシストしてもらえると言っても、50メートル以上離れていれば微々たるものだ。


 少なくとも自分の知っている冒険者の中で、そんな神業ができるプレイヤーは一人もいない。

 20メートルなら副隊長のリノンができるかも知れないが、シンのやっているソレは2倍以上の距離だ。


「そういうロウこそ、八割くらいの確率でメタルスライムの核を切ってクリティカル出しまくってたじゃないか。俺にはそっちの方が意味不明だぞ」


「敵の動きからどこを守っているのか見切る事ができれば、大まかな身体の重要器官の位置を割り出すなんて簡単な事ですよ」


「なるほど、わからん」


 うん、こちらも意味が分からない。


 確かにこのゲームは、呼吸するところとか、それで胸が軽く上下するところとか事細かく作り込まれている。

 しかしだからと言って、今ロウが口にした弱点を隠す動作なんてもの見て分かるわけがない。


 しかも相手はメタルスライム。


 スライム系の敵は弱点である核が動くから、ピンポイントで切るなんて難しいというレベルじゃないと思うのだが……。

 全経験値がブーストされてる規格外の兄はゲーム内での化け物だが、この二人はゲーム外スキルが化け物である。


 シオは考える事を止めると、二人に傭兵の申請を飛ばした。


 

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