第25話「チート称号」
装備を整えて上機嫌になったソラは、クロと共に回復薬を買うために道具屋の扉を開けた。
すると商品を並べる棚はそこにはなかった。
キリエの店や防具屋とは違って何もない空間が広がっていて、カウンターの向こう側の棚に細長い試験管みたいなモノがズラリと横一列に並んでいた。
アレが商品だろうか。
そう思いながら中に入るソラ。
チリンチリンと来店用の鈴がなり、カウンターの向こう側の扉が開くと見た目十代くらいの少女が姿を現した。
身に纏っているのは緑色のローブ。
頭には同じ色の大きなトンガリ帽子をかぶっていて、いかにも魔女ですという雰囲気だ。
彼女はオレと目が合うと、こう言った。
「いらっしゃいませ。どういったご用件ですかな」
「すみません、アイテムを売りたいんですが」
「それなら、ここの買取用のカゴに持ってるアイテムを出してもらおうか」
そう言って彼女は、カウンターの横にある大きなカゴを指差す。
従ってそちらの方を見てみると、目の前に表示されたのは【アイテムを選択してください】というもの。
その下には今日一日でオレが集めたドロップ品が表示された。
―――――――――――――――――――――――
所持アイテム一覧。
スライムゼリー125個。
メタルゼリー5個。
スケルトンボーン5個。
フォレストウルフの肉1個。
フォレストウルフの皮1個。
フォレストウルフの爪1個。
―――――――――――――――――――――――
ちなみにそれぞれのドロップアイテムの買取金額は、こんな感じだった。
スライムゼリー 1個10エル。
メタルゼリー 1個300エル。
スケルトンボーン 1個200エル。
フォレストウルフの肉1個50000エル。
フォレストウルフの皮1個10000エル。
フォレストウルフの爪1個30000エル。
……フォレストウルフさんのドロップアイテムのお値段ヤバくないか?
文字通り桁が二つ違う。
クロと一緒に瞬殺した時に手に入ったエルは500ほど。
本体の討伐価格よりも、ドロップしたアイテムが100倍のお値段もするのはバグっているのだろうか。
否、むしろバグっていると言ってくれたほうが安心するレベルだ。
一応、この事を店主である少女に聞いてみると。
「ああ、フォレストウルフはこの森で滅多に出現しないモンスターでね。その肉は王族の舌も唸らせる程の高級品なのさ」
「マジか」
「しかもこいつが皮も爪も一級品で、皮は王族に献上する織物になるし、爪は強い武器を作る素材になる。だから欲しがる商人は山のようにいるんだけど、フォレストウルフのレベルは【20】だ。狩るためにはレベル【10】以上の兵士を5人以上は派遣しないといけない上に滅多に出会えるもんでもないから、前に狩ったのは100年くらい前だったかな」
「マジか」
「ソラ、語彙力亡くなった」
「当たり前だ、クロ。お前もドロップしたフォレストウルフのアイテムの買取額を見てみろ」
「………………?」
どうやらクロも思考をクラッシュさせられたらしい。
アイテムを入れるボックスとオレの顔を、交互に見て「なにこれ」という困惑した表情を浮かべる。
そんな彼女に、ゲームの大先輩としてオレは一つアドバイスをした。
「クロ、こういった貴重な物は絶対に売らないで持っておけ」
「お金いっぱいあったほうが良いんじゃないの?」
「それはリアルの話だ。こういったゲームでは大事に持っていると大抵良いことがあるんだよ」
「良いこと?」
「例えばこの皮とか爪が欲しいってNPCがいた時に持っていたら、その場で渡してあげられるだろ。そんでもってこういうファンタジーゲームでは、そこから普通のプレイでは手に入らない貴重なアイテムを手に入れられるかもしれないんだ」
「貴重なアイテム……」
「例えばクロにとっては今回の件が良い事例だな。非売品の服をちゃんと売らずに持っていたから、森に入ってオレとこうしてパーティを組むことができたんだ」
「ふむふむ、つまり価値ある物は持っていると得をする?」
「そうだ。理解するのが早くて偉いぞ」
「うん。貴重な物は手放さない、覚えた!」
納得したクロは、目を輝かせる。
そんな彼女の頭を撫でると、ソラは飲み込みの早い小さな弟子を褒めてあげた。
しかしクロは視線を下に落とすと、急に小さな声で呟く。
「でも食材は12時間ごとに鮮度が落ちるから、今売った方が良いと思うけど」
「バカおまえ店の人の話を聞いただろ。高級品のお肉だぞ、食べないと勿体ないだろうが」
「………………ゲームなのにご飯食べるの?」
変な人を見るような顔をするクロ。
そこからオレは、彼女にゲームにおける食事の何たるかを説明するのに30分ほど掛かった。
◆ ◆ ◆
クロにVRゲームの食事の何たるかを説明した後に、フォレストウルフの素材以外を全て売ったソラは以下の買い物をした。
HPを100ポイント回復する〈ポーション〉。
一本100エルする物を20本。
MPを50回復する〈マジックポーション〉。
一本200エルする物を10本。
合わせて4000エルの買い物をして、手元に残ったのは600エルだけだ。
しかしこれで装備は充実した。
一応完成した今のオレのステータスはざっとこんなもんだ。
――――――――――――――――――――――――
【冒険者】ソラ
【レベル】22
【職業】
【スキルレベル】21
【HP】440
【MP】220
【筋力】22
【片手剣熟練度】28
【積載量】220
【上半身装備】
〈始まりの服〉
〈ステルス・ダークコート〉
〈アイアン・ブレストプレート〉
【下半身装備】
〈始まりの服〉
〈革の靴〉
【総防御力】E
【右手】〈
【左手】〈無し〉
――――――――――――――――――――――――
総防御力の評価は【E】であるが、実際は上半身が【D−】下半身が【F−】と足を狙われたらメチャクチャ脆(もろ)いアンバランスな状態だ。
このゲームには部位破壊というものも存在するらしいので、足を持っていかれないように気をつけなければ。
そんな事を思っていると、隣を歩いているクロがステータス画面を覗いてこう言った。
「ソラって全体的にツッコミ所があるんだけど、特に武器の熟練度の上がり方がおかしい」
「え、そうなのか」
「武器熟練度は使用した頻度や与えたダメージからも蓄積されたものが、レベルアップ時の経験値と合わせて反映されるんだけど……」
「あー、そこらへんの計算って中々に意味不明だよな」
「どれだけソラがおかしいのかは、わたしのステータス見たら分かる」
そう言ってクロがステータス画面を開いて、ソラに見せてきた。
――――――――――――――――――――――――
【冒険者】クロ
【レベル】16
【職業】
【スキルレベル】8
【HP】320
【MP】160
【筋力】16
【片手剣熟練度】18
【積載量】215
【上半身装備】
〈バトルドレス〉
〈アイアン・ブレストプレート〉
【下半身装備】
〈バトルドレス〉
〈アイアンブーツ〉
【総防御力】D−
【右手】〈
【左手】〈無し〉
――――――――――――――――――――――――
「見たらわかるんだけど、基本的には1レベルアップすると熟練度が1上がって、どれだけ戦ったとしてもレベル5で大体追加で1上がるくらいのペースだよ」
あー、なるほどね。
普通のプレイヤーの熟練度のレベル効率は大体そういう感じなのか。
それに対してオレは魔王との戦いで17まで熟練度が上がって、そこから魔王戦から得た何かによって総合的に1.9倍の上がり方をしている。
確かにこれは……ヤバい。
ソラは「ね?」と可愛らしく小首を傾げるクロに視線を向けると、胸の前に両腕を組んでうーん、と唸った。
「スキルには武器の熟練度に関してはなかったんだよな」
「それなら称号かな」
「称号?」
「ここに来る前に団長が気づいたんだけど、称号っていうのがあるらしいよ」
ふむ、称号か。
ステータス画面をよく見るが、そんな物は見つからない。
称号といえば普通はプレイヤーネームの上に来そうなものだが、この様子ではオレには無いようだ。
「違う違う、名前をタッチするの」
「名前をタッチ?」
首を横に振るクロに従い、プレイヤーネームをタッチしてみる。
すると画面が切り替わって、一つの称号が表示された。
【称号】英雄の器。
魔王に敗北しても諦めない者に与えられる称号。
常時以下の効果を得られる。
【獲得する経験値量の上昇】。
【レベルアップ時の武器熟練度の上昇】。
ああ、オレのレベルや武器の熟練レベルがやたら上がるのはコレのせいか……。
更なるチート能力の発覚に、ソラはもう驚きもしなかった。
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