第24話「初めての防具店」
「ソラ様、二度も危ないところを助けていただいてありがとうございます……」
巨大な狼のモンスター、レベル20の〈フォレストウルフ〉に組敷かれていたところをオレとクロの息を合わせた〈ソニックソード〉からのニ連撃スキル〈デュアルネイル〉で助けられたアリアは、よほど怖かったのか涙目で抱きついてきた。
普段の自分なら、このシチュエーションでお姫様な上に美少女のアリアに抱きつかれた事にドキドキしていただろう。
しかし約束を破ってピンチに陥ったことに対して、今は呆れてしまい溜め息が出てしまった。
「まったく、隠れていろって言ったのに何でこんなところまで移動したんだ」
「申し訳ございません。綺麗な蝶々が飛んでいたので、ついふら〜と出てしまいまして……」
「キミは頭の中がお花畑なのか?」
「うぅ、返す言葉もありません……」
しょんぼりと涙目で反省するアリア。
この調子でよく今まで無事だったな。
最初に出会ったときも、護衛をつけなかったせいでスケルトンソルジャーに襲われて危ない目にあったというのに。
どうやら、このお姫様には危機感というものが致命的に欠如しているらしい。
恐ろしいくらいにポンコツな彼女に、オレの腕にくっついているクロはくすりと笑い辛辣な一言を放った。
「おバカなお姫様っているんだね」
「はうぅぅぅ……」
ストレートに心を抉る一撃に、ショックを受けたアリアは頭を抱えて座り込んだ。
クロは容赦ないなぁ。
しかし事実なのでフォローはできない。
ただこれを村の人達に見られていたら、オレ達はきっと不敬罪で捕まるのではなかろうか。
そんな事を思いながら傍観していたソラは、頃合いを見て彼女に手を差し伸べた。
「お姫様、とりあえず仲間と合流できたので一度村に戻ろう。オレも流石に少しはマシな装備にしないと、森の奥にはいけない」
村を出る前に防具店や道具屋があるのは確認済みだ。
いつまでもトータル防御力【F−】のままは不味いので、ここらで最低限の装備を整えたいところ。
アリアはオレの手を握ると立ち上がり、小さく頷いた。
「……はい、そうですね。森が大変なのです。わたくしもしっかりしなければ」
「ああ、回復魔法が得意なんだろ。回復薬は持っていくけど、戦闘中は飲む余裕は無いと思うから、そこんところ期待しているぞ」
「任せてください!」
両手にグッと握り拳を作ると、アリアは力強く返事をする。
そんな彼女を見て、クロは小さな声で呟いた。
「……大丈夫かな」
オレはその不安に「大丈夫」だと答える事は出来なかった。
◆ ◆ ◆
初めての防具店だ!
村に帰ったオレは、一度アリアと別れてクロと共に速やかに防具店に向かった。
店は周囲の民家と同じログハウスで、中に入ると民族衣装と防具がセットになった物が並んでいた。
・新芽の防衣セット
総防御力【F】5000エル
・緑風の防衣セット
総防御力【F+】7000エル
・紅葉の防衣セット
総防御力【E−】9500エル
やはり風の精霊だからかな。
衣装の色は、ほとんどが緑色で他には赤色があるくらいだ。
正直に言って緑や赤は趣味ではない。
基本的にオレの好みの色は白とか黒なので、この店にあるもので目に止まりそうなものは無かった。
「う、うーん。これはどうしたものか……」
最終手段としては、衣装はこのままで最低限の鎧だけ買うか。
今のオレの所持金は一体300エルのスケルトンソルジャーを五体に、500エルのフォレストウルフの一体を狩った事で9850エルだ。
見たところ、この店のモノは基本的に重量の軽い軽防具の種類が多い(色のバリエーションがほぼ統一されているのは一番の難点だが)。
重量級用のフル装備がないのは、村の住人が基本的には【M】型と【S】型しかいないからだろう。
このゲームの積載量はオーバーすると、素早さに大幅にマイナスが入るからなぁ……。
例えば今のオレの身体はプレイヤーサイズの大まかな【L】【M】【S】の中の【S】に分類される。
プレイヤーサイズにはそれぞれにボーナス値があり、恩恵は以下の通りだ。
【L】は素早さがマイナスされて、攻撃力がプラスされる。
初期値の積載量は600。
【M】はステータスにプラスもマイナスもされない。
初期値の積載量は400。
【S】は攻撃力がマイナスされて、素早さがプラスされる。
初期値の積載量は200。
どれも一長一短だが、一番バランスが取れているのはやはり【M】のプレイヤーだろう。
攻撃力と防御力と素早さを両立できるのは、やはり戦闘においてはとても大きなプラスだ。
オレが【M】のテンプレ装備をしっかりとおさえていたガルドを一撃で倒せたのは、彼が油断していたのとおまけにレベルの差と強化された〈ストライクソードⅡ〉があったからだ。
もしも彼が油断していなければ、一撃で倒すことはできなかったかもしれない。少なくともニから三撃は必要としたはず。
と、いけないいけない。
脱線してしまったな、話を戻そう。
プレイヤーの積載量はレベル5上がる事に5増えるので、オレの現在の積載量はトータルで220。
それに対して手持ちの装備の重量が〈白銀の剣〉と冒険者の服で110もある。
ノーマルソードの時は全体の4分の1までしか使っていなかったので、それを考えると新しい相棒は随分と重い。
パラメータを見てみると、一番下の方に重量100と表示されていた。
つまりは武器以外を全部外しても後120程の余裕しかない。
所持金から丁度いいのを選ぶと、7000エルのセットが重量120くらいか。
だが総合的な防御力は【F+】とすごく不安があった。
後はデザインは好きなのだが、緑色なのが気に入らない事か。
オノレェ……なんで森の精霊って周囲に溶け込むような色が好きなんだ。
ソラが悩んでいると、同じ【S】サイズであるクロが苦笑した。
「小さいと悩むよね」
「ああ、小さいとこんなにも大変なんだな」
「?」
オレが口にした言葉の意味が分からなくて、彼女は首を傾げた。
しかし呪いによって女になったと言っても、容易に理解はできないだろう。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべるクロの頭を撫でて誤魔化すと、ソラは小さな溜め息を胸中で吐いた。
本来のオレの【M】サイズなら、9500エルで重量200の総合防御力【E−】のセットを買うのにな……。
しかもこちらは赤を基調としていて、この中では一番マシ。
でもいつまでも嘆いていても、自分の最大積載量はレベルアップ以外で増えたりはしない。
いい加減、どれにするのか決めなければ。
すると店員の女性が困った様子のオレを見て近寄ってきた。
「ソラ様、何かお悩みですか」
「ええ、良いのはあるんですが衣装の色彩とか色んなのが好みに合わなくて……」
「なるほど、ソラ様はどんな色がお好みですか?」
「黒とか白ですね。贅沢を言えば単色よりは、二色を組み合わせたのとかあれば嬉しいかな」
「それなら少々お待ち下さい」
店員の女性は少しだけ考えるような仕草をして店の奥に消えた。
一体どうしたのだろう。
もしかして緑色から染色してくれるのか。
そんな淡い期待を抱いていると、店員が何か手に持って帰ってきた。
「500年前に旅人が置き忘れたものなんですけど、ソラ様が良ければコレを貰ってくれませんか」
「なぬ……?」
店員の人が手に持っているのは黒い服だった。
ソラは両手で受け取り、広げてみる。
それはフードのついたコートだった。
一体どんなアイテムなんだろう。
疑問に思いながら表示されたアイテムの詳細を見て、オレは驚きのあまり大きく目を見開いた。
【ステルス・ダークコート】
レベル30のダークカメレオンの革で作られた〈隠蔽〉の効果を持つコート。暗い場所でフードを被り身を潜める事で、隠蔽率を80パーセントまで上げる事ができる。
レアリティ【C−】
防御力【D−】
耐久力【C−】
重量 【50】
ステータスの高さもさることながら〈隠密〉スキル持ちの装備だと。
「こんなすごいレアアイテムを頂いても良いんですか!?」
「シルフ様から最大限サポートするように頼まれていますので。それとこの村に住む者で黒色を身に着ける者はいないので、ソラ様が受け取って下さると助かります」
「わかりました。ありがたく頂きます」
「おお、良かったね」
なんという棚からぼた餅。
これに9000エルで売っている防御力【D−】耐久力【D−】重量【50】のアイアン・ブレストプレートを買えば完璧だ。
ちなみに冒険者の服は売らない。
確かにステータスはゴミだが、世界樹の加護持ちの非売品だ。
これから先のイベントで森に入るのと似たような事があると困るので、しばらくはこのままでいる。
それに黒いコートとブレストプレートを装備したら、下が初期の衣装でもそれなりに格好良くなるだろう。
そうと決めたソラは、目をつけていたブレストアーマーを選ぶと店員さんに話しかけるのであった。
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