156.私の鳥籠に戻ってきて(SIDEベアトリス)
*****SIDE ベアトリス
結婚式の夜、エリクに望まれるまま婚礼衣装を再び纏った。二度と袖を通さないのが惜しいほどのドレスで入室した私は、緊張で息が詰まりそう。初夜の作法は習いましたが、座学でお話を聞いただけです。
とにかく夫のリードに合わせ、逆らわないこと。恥ずかしくても我慢すること。最初は痛いものだとも聞きました。でもエリクは優しく肌を暴いて、口付けて、私を抱いてくれました。痛みより、ひとつになれたことが嬉しい。こんなに愛されていると実感したのは、3回目の絶頂を迎えた時で、その後は朦朧として覚えていません。
夜明けを告げる小鳥の声を聞いたかも知れません。気を失うようにシーツに沈みながら、エリクは満足してくれたのか、それだけが心配でした。私は何も出来なくて、ただエリクの腕の中で受け入れただけ。つまらない女だと失望させていないといいけれど。
翌朝、いえ……もう夕方近い午後でした。普段ならお茶の時間が終わる頃にようやく目を開け、果物を口移しでもらいました。
「お風呂に入りたいのですが」
「僕が抱いていくね」
驚いて自分で立てると言ったものの、どうやっても座っていることさえ難しくて、言葉に甘えます。トイレも一人では行けなくて、情けないと思いながらも運ばれてしまいました。幻滅する様子はなく、それどころか嬉しそうに世話を焼く彼の姿に目を見開く私に、予想外の言葉が降ってきました。
「君の全てを手に入れられるチャンスなのに、僕が何を厭うの。君は逆の立場だったら、僕の世話は嫌?」
「いいえ」
即答しました。抱えて移動できるか分かりませんが、可能なら肩を貸しますし、体も拭きます。私の大切な旦那様ですから。
ほっとした顔を見せたエリクに、私は言葉が足りないことに気づきました。甘えていたのですね、彼はずっと待っていたのに。
「愛しています、エリク。あなたが皇帝じゃなくても、私を愛してくれるあなたが好き」
吐き出したら胸がじわりと熱くなって、目が潤んでしまいました。口付けで拭う彼に甘えて、何日か過ごしたところで……ニルスとソフィが飛び込んで叱られましたわ。
抱き潰すなんて、表現が悪いです。私も望んで受け入れているのですから。エリクばかりを責めないで。
でも、いくら新婚でもエリクはフォルシウス帝国の頂点に立つお方。いつまでも私が独占してばかりはいられません。政が滞ると困るのは、貴族ではなく民なのです。仕事が終われば、エリクは私の鳥籠に戻って来るのですもの。皇妃なら我慢しなくてはね。
この後のソフィとニルスの結婚式に向けて、準備もしなくてはいけないし。
でも――どんなに忙しくても、私のことを優先してくれるあなたにお願いがあります。もう少しだけ、睡眠時間が欲しいわ。このところずっと、午前中は起きていられなくて……困るし恥ずかしいのよ。
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