133.結婚式の準備は着々と
鈴蘭をモチーフとしたティアラが完成し、その出来栄えに目を細める。鈴蘭の愛らしさを出すために白濁の月光石を使わせたけど、輝きが足りなかった。職人の提案で裏から金剛石で輝きを足すことにしたのだ。それが功を奏した。細かな白金の細工も見事で、中央に抱かせた蒼玉が目を引く。国宝から外して使ったけど、正解だったね。
ティアラは結婚式で使うため、しばらくトリシャの髪を飾ることはない。でも彼女の部屋へ運ばせた。
「エリク、これは」
「結婚式で使うティアラだよ。ようやく満足出来る宝石が見つかってね」
「綺麗、です。凄く綺麗」
うっとりと見つめる彼女の頬にキスをして、僕は隣に腰掛けた。手を伸ばしかけては引っ込めるトリシャの膝に、ケースごと置く。
「着けてくれる? 式で使う前に、サイズや雰囲気を確認しよう」
「でしたら姫様の髪も結い上げてみましょうか」
ソフィが柔らかく提案する。今日のトリシャの銀髪は、半分ほどをサイドに流していた。残りを複雑に編み込んで、流した髪を押さえる形だ。そのまま乗せても綺麗だけど、結い上げたら結婚式の雰囲気に近づくね。
「さすがはソフィだ。任せるよ」
髪を解いて結うだけなので、退室せずに待った。解いた髪に僅かに残る癖を、ハーブ水で消してから椿油を塗り込む。丁寧に梳って、手早く結った。簡単そうに見えるけど、侍女ならではの手際の良さだ。サイドの髪をきつく引っ張らず、少し余裕を持たせて耳の上を隠すあたりは好ましい。ヴェールはまだなので、ティアラだけ固定した。
「うん、よく似合ってる」
「素晴らしいですわ、お似合いです」
僕とソフィに褒められて、トリシャの口元が緩んでいく。嬉しいのに引き結んで隠そうとして、でもまた緩んだ唇が弧を描いた。
「ドレスは白だけど、蒼玉を細かく砕いて縫い止めさせよう。ヴェールには金剛石がいいかな。金糸か琥珀で柔らかさを演出してもいいけど……いや、金剛石だね」
さらりと金のかかる話を切り上げ、光で虹色を帯びる銀髪に合う宝石を選ぶ。ドレスの蒼玉は譲れないし、ヴェールに色をつけたらトリシャの銀髪の美しさが際立たない。
「上から下へ濃くなるグラデーションはいかがでしょうか」
トリシャの提案に、僕はすぐに飛びついた。だって、僕との結婚式に着るドレスにトリシャの希望が入ったんだ。それは叶える一択しかない。
「うん、いいと思う。胸の辺りまではパールや金剛石を使って白っぽく、腰のあたりまで水色のベリルを使って、裾は鮮やかな青を敷き詰めたらいいよ」
宝石なんて金を出せば手に入る。トリシャの笑顔の方が大切だし、価値があるんだよ。そうやって微笑んで、僕との結婚を心待ちにしてくれる君を手に入れるためなら、有り金叩いても惜しくない。
「靴は銀にしよう。細かな刺繍を入れてもらおうか」
「楽しみです」
「僕も楽しみだけど……心配だな。今でも天使のように美しいのに、女神以上の輝きを持つ花嫁を人目に晒すなんて」
くすくす笑うトリシャに釣られ、僕が笑い出し、ソフィも表情を和らげる。早く結婚式の日が来ればいい。そう思う反面、怖くもあった。
僕はさらに美しくなるトリシャを、鳥籠から出せなくなる未来を――その束縛によって嫌われる可能性が怖い。人は幸せでも、不幸でも、悩みは尽きないらしい。
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