27.君達は帝国に不要だ
帝国貴族は尊い存在で、勝手に処罰出来ない? モンターニュ侯爵は由緒ある古い家柄で、恩赦が必要? 何の話をしているんだろうね。
僕は至高の地位にいる。この帝国はもちろん、属国となったすべての国に対し、責任を負うと同時に権利を有しているんだよ。その僕が選んだ皇妃となる女性を、殺そうとした罪人を「帝国に古くからある貴族家」というだけで許せだって?
僕の口角が徐々に持ち上がり、目を閉じて話を聞き始める。その満面の笑みに震えたのは近しい者達だ。皇帝騎士の双子、執事、侍従……。何も知らずにべらべらと自分達の理屈を捲し立てる貴族は、誰も僕の変化を危険だと認識していなかった。
ゆっくり目を開き、浮かんだ笑みを消す。僕が睨んだ先で、伯爵の一人が肩を揺らした。
「ねえ。僕はいつから命令される立場になったのかな。君達は皇帝に意見できるほど偉いの? 最愛の女性を妃にするのに、どうして貴族の許可が必要で……なぜ彼女を害された僕が我慢しないといけないのか」
まだ害されていない、未遂だと訴える愚か者に座る椅子はない。貴族の称号はね、馬鹿に与えられる権利じゃないんだよ。皇帝の治世を支え、民のために動けないなら――不要だ。
「もういいよ」
片付けて構わない。僕が吐き捨てた言葉を、貴族は意見が受け入れられたと思ったらしい。なぜか嬉しそうに頬を緩めたが、直後に騎士達によって床に引き倒された。
「皇帝陛下っ、これはどういう」
「我らは陛下のためを思い」
「このような非道、許されませんぞ」
口々に叫ぶ声に、僕が答えたのはひとつ。
「任せるよ」
思ったより時間を食ってしまった。このままでは、トリシャを待たせてしまう。急ぎ足で謁見の広間を出て、広い宮廷内を歩いた。無駄に広いから、移動だけで時間を取られる。もう離宮だけ残して、この建物を壊してやろうか。
苛立ち任せに足を踏み出し、駆けるようにして廊下を抜けた。本宮にある自室に飛び込み、ニルスの手助けで湯を浴びる。浸かっている時間を惜しんで、香油を塗って身支度を整えた。
幸いにして、僕は男だから着飾る時間が短くて済む。これが女性だったら大変な騒ぎだよ。今頃、トリシャは僕のために選んだドレスに似合う飾りを選んでいる頃だろうか。手早くリボンタイを結ぶニルスが一礼して数歩下がり、侍従が姿見を立てた。
軽く首を左右に動かし、体を斜めにしたりしておかしくないか確認する。頷く双子や執事の様子から問題なしと判断し、僕は安堵の息をついた。どうやら間に合いそうだ。
「お食事は、指示通りにご用意させていただきました」
「わかった。デザートの桃は」
「シロップ漬けにございます」
完璧だね。さすがは僕の執事だ。ニルスの肩をポンと叩いて満足だと伝え、足早に離宮へ向かった。急ぎながらも汗をかかないよう注意する。トリシャと近い距離で食事をするのに、匂いを誤魔化す香水は使えない。時間を確認して、間に合ったことに頬が緩んだ。
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