26.僕の気分次第なんだけどね

 仰々しくて面倒だけど、謁見の広間に向かう。送り届けたトリシャの護衛は、双子の騎士の親族が務めた。あの家は本当によく尽くしてくれる。専任の騎士に選んでも良さそうだ。


 斜め後ろに従う執事のニルスが、歩く速度に合わせて合図を送る。衛兵が開いた扉の向こうには、数人の貴族と引き摺られた男がいた。言葉をかける必要はないので、さっさと玉座に腰掛ける。


 見下ろす先に、両手を拘束された男が膝を突いていた。見覚えのある髪色だ。貴族なんていつも僕に頭を下げてるから、顔より髪色の方が記憶に残るよ。顔に興味なんてないし。


 騎士に押さえつけられた肩を動かそうと暴れるが、体力や技量で騎士に勝るわけがない。見苦しい男がよく叫ばないものだと思ったら、猿轡を噛まされていた。なるほど、すでに騒いで煩いと判断された後か。


 ちらりと視線を向けた僕に頷き、執事ニルスが声を上げた。


「モンターニュ侯爵家当主セザール、離宮改修に伴う工事への悪質な工作の罪で、死罪を申し渡します。娘は北の修道院へ送り、妻は同じく死罪。跡取りとなる養子は爵位剥奪、領地没収の上で放逐とします」


 お家断絶ってやつだ。僕にしては甘い処置だと思うよ。モンターニュ侯爵の妻は死罪にしなくてもいいけど、これは温情なんだ。彼女の実家は先日、横領で取り潰しちゃったからね。帰る先がないし、修道院も無理だ。どこかの貴族家に預かってもらうにも無駄な金が掛かるし、夫婦一緒に死ねるなんて感謝して欲しいね。


 養子の息子は気が弱いから、今回の件に絡んでる可能性は低い。だから放逐だけ。財産の持ち出しは禁止しないから、抱えて逃げるといい。でも娘は別だった。あの女がいたから、侯爵は僕の連れてくるトリシャに牙を剥いた。死ぬまでに心の底から反省してもらうため、娘は酷い目に遭ってもらいたい。


 でも貴族令嬢を奴隷や娼婦に落とすと、他の貴族が騒ぐ。前例を作りたくないんだろうね。だから、一番厳しく遠い修道院送りを命じさせた。もちろん途中で山賊に襲われて、奴隷に落とされるのは確実だよ。そのために山賊も飼い慣らしたんだから。


 呻いて反論しているみたいだけど、ニルスの報告で証拠は上がっている。石細工の職人はすぐに話してくれたよ。手首を二つばかり切り落としただけで、ぺらぺら教えてくれたらしい。素直だったから命は助けてあげよう。


 涙と鼻水、失禁して全身汚れた侯爵が引き摺られて消える。と、呼んでもいない貴族が発言を求めた。トリシャとのディナーまで2時間もないんだ。さっさと片付けて、風呂に入って着替えたい。どうしようか。


 肘をついて睨みつけると、半数は黙った。でも侯爵の1人が取り巻きと共に意見したいみたい。いいよ、聞いてあげる。くだらないことだったら、その首を城壁に吊るすからね。


 帝国貴族なんて、吐いて捨てるほど湧いて出るんだから。数人減らしたところで、また増えていく。僕が戦わなくても、領土は増えて、その度に滅びた国の王族が帝国貴族に加わった。くだらない遊びだ。


 爵位なんてその程度のものなのに、なぜムキになってしがみつくのか。


「聞いてあげるから、早く喋りなよ」


 そう言い捨てた僕に、彼らは緊張した顔で生唾を飲んだ。どうしたの? 僕が笑顔でいる間に話さないと、ただじゃ済まさないよ。

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