家出少女と成人男性、出会い系アプリで出会ったふたりが、共に過ごした一夜の顛末のお話。
ある種の逃避行を描いた現代ドラマです。重めの主題を、じわじわ回り道をするかのように、でも最終的には思いのほか直截的に叩きつけてくる、その姿勢が気持ち良いお話でした。少しずつ核心があらわになっていくような展開であることもあり、この先はどうしてもネタバレのようになってしまうのでご注意ください。
物語全体に通底する、息苦しく歪んだ切迫感のようなものが好きです。彼女や彼の、そのむき出しの人間味が生々しすぎて、まったく好きになれない感覚が好き。いずれも青くて自己陶酔的で、と、赤の他人としての好悪を語ることはできても、しかしいざ我が身を振り返るとそうたやすく突っぱねることもできない。
読者、という、圧倒的な安全地帯にいるからこその無責任なジャッジは、それこそ終盤において主人公が怒りと共に非難したことにそのまま当てはまってしまう。もちろん、彼女のその非難も必ずしも正しくはないのですけれど、でもそれを言っていいのはきっと、直接その身をもって彼女に相対した人間くらいのもの。観客席からではどうしても「何様」という話にしかならず、つまり安易に跳ねつければそのまま我が身に返り、それを避ければふたりの道行きに付き合わされる、という、この力尽くで巻き込んでくる感覚がとても楽しかったです。読者としての、どちらの心情にもそう簡単に取り込まれてやるものか、という謎の抵抗と、それがなぜだかどんどん保身っぽくなっていく、この感じ。
ふたりの目的を考えると、そもそもにして出会ってしまっていること自体がもう詰みというか、どうやっても矛盾のそしりを免れ得ないような側面があるのが素敵です。この辺、安易に言葉にしちゃうと全部ニュアンスが違うというか、逆に上から目線の他人事のお説教になっちゃって本当にどうしようもないやつ。原液そのままのエゴを浴びせてきて、逆にこちら(読んでいる自分)の身勝手さを白日の下に引きずり出してくれる、自意識を絡め取りながらの無理心中みたいな作品でした。