イノセント

晴れ時々雨

🍃

私死んでしまって、体が無くなってしまったから何にでも形を変えられる。

一人になった彼の後をこっそり尾けて一緒に車に乗りこむ。あなたがこんなに飛ばすなんて知らなかったワ。遠出だと思ってた海岸にあっという間に着いて、彼はシートを倒し顔の上で手を組む。無声映画みたいな潮騒を聞きながら、流動体になった私は、身動きしない彼をおちょくってやろうと股間の上にどろりと体を滴らせ、彼の好きだった動きをした。

どうですか、こんな感じ。束の間の慰みになるかしら。もうちょっとだけほかの女の子のことを考えなくて済むように、気持ち良いだけの道具になってあげる。

思った通りになる今の私の体はぬるぬるの筒状になって彼にまとわりつく。ちゃんと体が存在していたときには見ることのできなかった、快感に身を委ねる彼の顔が見たくて意識を集中すると、組んだ手で顔を隠した彼が小刻みに震えているのがみえた。

寒いのかしら。なんてったって冬の海だもの、車の中だっておちんちんなんか露出していればそりゃあ寒いかもね。だったらもっと摩擦してここだけでも温めてあげよう。そうして続行すると彼の震えは大きくなり、そろそろかな、なんて思っていると今度は私の体が電極で繋がれたゼリーのように痺れだした。

なんなのだろう、初めてのことだから、何かしらのバグでも起きたのかと思っていると、どろどろだった体が私の意識外の力でむくむくと集まりだし形を取り始めた。

それは透明だったけど、死ぬ前の私の形だった。

何が起きたかあたふたする私を、視えるはずのない彼がびしょびしょの顔でみていた。

まったく恥ずかしくなって、完勃ちした彼をそのままにして、私はそこから消滅した。


空の根本を超えたどこかを微粒子の微粒子になって漂いながら、感じたことのない充実感が私を覆い尽くしていくのを感じた。


ありがとうごめんね、もう二度と来ない。

さよなら、短かった私の幽霊時代、そしてあなた。

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イノセント 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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