本物の神々しさよ

本物の美形の前に平伏しそうになりながら…何とか体勢を立て直した。


「リアフェンガー=クレガ=ホースト辺境伯…いえ、リアフェンガー王弟殿下…ご挨拶遅れまして申し訳御座いません。ヴァレリア=コベライダスに御座います」


カーテシーをした後、美形の王弟殿下のお顔を直接見る勇気は湧かないので、綺麗な綺麗な王弟殿下の顎辺りを見上げて見詰めた。


あらぁ…顎までセクシーで綺麗って…羨ましい限りで御座いますね。


「……」


王弟殿下は無言で黙って立っている。もしかして…何か不敬な対応だったのかしら…?ハッとして慌てて少し後ろに下がると頭を低くした。


すると衣擦れの音がして、私の腕を支えるようにしてリアフェンガー殿下の手が添えられた。


「…いえ…こちらこそ、お会いするのが遅くなって申し訳ない…」


そう言ってスルリと私の二の腕を撫でながら、私の耳元で囁きつつ柔らかく微笑みを浮かべている殿下。私はあくまでリアフェンガー殿下の目は直視はせずに自分の目の端に映る雰囲気で察しただけだが…


この殿下……危険だわ。私の元異世界人26才のアラサー女の勘が囁く。これは…やることなす事お色気仕草満載の、モテ男の気配がムンムンしてるじゃないのさ。


女子に対して距離感ゼロのボディタッチ…常に笑顔で体を密着。内緒話でもないのにわざわざ耳元で囁き声で語り掛ける親切設計!!……そうじゃない、家電製品の謳い文句みたいになっちゃったわ。


我ながら取り乱している…こんなお色気王子に初めて接したから興奮しているんだわ、平常心平常心…


これは愛人の一号や二号は絶対にいるね、バツ二だけどきっとあちこちでお色気を振り撒いているから奥様方から逃げられたんだね。


「ヴァレリア嬢…ドレスとてもよく似合っているね、素晴らしい…」


私を褒めたたえ…そして初対面なのに私の腰を抱いてくる、リアフェンガー殿下。殿下は再び私の耳元に口を近付けると


「初対面なのにすまないね、過剰に触れるけど我慢していてくれ」


と囁かれた。


その言葉で私は気が付いた。


これあれだ……婚約破棄をされ、リアフェンガー殿下と急遽婚姻を挙げるけれど、王弟殿下には愛されています、幸せです…の為の周りへのアピールなのだ。


そうか……もしかしたら国王陛下に頼まれたのかもしれない。私が惨めにならないように、親切にしなさいとか?異界の叡智だもんね…私を怒らせたりしたら、国から出て行かれてしまったら困るからなんだね。


気持ちが冷える。シュージアン殿下の時に懲りたはずだ…浮かれては駄目。私は異界の叡智だから持ち上げられているだけだ。


私に出来るのは、私を押し付けられた王弟殿下にご迷惑をかけないように、辺境伯領の為に粉骨砕身の気持ちで臨むことだ。


私は笑顔の仮面を張り付けると、口角を上げて微笑んだ。


リアフェンガー殿下はその日は私にべったりとくっついたままだった。甘く囁き笑顔を見せてその瞳は私をずっと見詰めてた。


どうやら婚姻式まで城に滞在されるようで、次の日は城下町に一緒に行こうと誘われた。


婚姻式まで後一週間……早く過ぎてくれないかと思っていた。


翌日…公爵家に迎えに来られた王弟殿下を見て両親は慌てていた。王弟殿下って王都に殆どいらっしゃらないものね?おまけに辺境伯領に妾妃がいるなんて噂を聞いているお父様は複雑な表情を見せている。


分かってますよ~お父様が目配せをしてくるので、了解了解~と思いながら頷き返した。


リアフェンガー王弟殿下は本当にスマートで気配りの利く、モテ男要素満載の御方だった。城下町を歩く女性からずっと秋波を送られているし、ちょっと気を抜けば取り囲まれているし、私が蹴散らさなくても近衛のお兄様方がさりげな~く出て来て捌いているし…モテるって大変ね。


そしてリアフェンガー殿下は城下町を歩きながらも私にボディタッチと甘い囁きは忘れていなかった。これは殿下の標準装備なんだね。


そして、お洒落なお店が連なる一角にある、高級宝石店に連れて入ってくれた。


「さあ好きな宝石を選んで」


そうじゃない……はぁ…内心溜め息が漏れる。鉄壁の笑顔の仮面を張り付けておいてよかった。宝石なんて興味無い。ドレスも着れればなんでもいい。靴も靴擦れが無く履ければなんでもいい。ぶっちゃけ購入にする時に熱が入るのは化粧品類だけだ。


花束一つでもハンカチ一枚でも私に似合う一品をリアフェンガー殿下の手で選んで欲しい……なーーんてね?


そんなの政略結婚でナイナイ!


気乗りはしないけど悩んでいるフリと喜んでいるフリをしながら、サファイアに似た宝石を選んだ。元々青色全般が好きなのだ。


宝石の色は気に入った、ただそれだけだ。


「ありがとうございます、リアフェンガー殿下」


お礼を言う時も王弟殿下の目を意識して見ずに僅かに視線をずらして、口元を見て言った。そうやって見詰めた唇も男の人なのにプルンとしていて綺麗ですね。もはや枕詞に、綺麗ですね…をつけておけば間違いない…という状態のようになっていきていた。


宝石店からの帰りは何故か徒歩だった。どうして歩くの…?とは聞きにくい。寧ろ歩いて帰る方が好きなんですよ…とは言えない。


ただ、体を密着させて腰を抱いて歩くのは止めて欲しい…歩きにくい。


「疲れませんか?」


「大丈夫です」


お城まで体感で十分少々の道すがら何度、疲れましたか?と聞くのだろうか。私ってそんなに体力無いように見えるのかな?徒歩移動好きなんだけどな~


あ~でもこれは異世界人の感覚だろうね、普通の貴族令嬢なら僅か5分で着く場所でも歩かないで馬車に乗る令嬢もいるくらいだ。


健康の為にウォーキングとかの概念が無いんだろうな…


でもね~もっと城下町見たかったな~雑貨屋さんとかケーキ屋さんにも入って見たかったな…でも言えない。我儘は厳禁だ。


そして王弟殿下からまた明日の約束を取り付けられた。まあ断るなんて不敬なことは出来ませんけどね。でもこれ、婚姻式まで続くの?まさかね…


「私は明日は軍の兵士達の剣術指南を頼まれていてね、良ければ見に来てみないか?」


「まあ…指南でございますか…」


そうだった、辺境伯領は魔獣の襲撃が頻繁で時には山向こうのペリケイル帝国が国境を越えて来たりと…物騒な領土なのだった。


そこの領主で軍で指南をする腕前ということは…殿下は常に前線に出て戦っておられて、相当お強いということか…だからこう立ってる姿勢も良いし、剣士!みたいな感じなのね~へえっ。


ぶっちゃけ、興味の無い宝石を見せられるより、男同士の筋肉のぶつかり合いを見せられるほうが楽しめそうだわ。相撲とかプロレス観戦みたいなものよね!


「ええ、是非見学させて下さいませ、楽しみですわ」


ついうっかり心からの悦びが表情にも出てしまっていたようで、リアフェンガー殿下が私の顔を見て目を丸くしておられた。


いけない……笑顔の仮面を被るの忘れてた。平常心平常心…


そして次の日


私は公爵家の供の者達と一緒に、リアフェンガー殿下と約束した時間より数時間早く登城して、とある場所に向かっていた。


それは王城内にある図書室だ。ここには沢山の蔵書が納められている。私は自分が探している本のジャンルが置いているであろう、本棚を物色していた。


「あ…あった」


ホースト辺境伯領の地図と概要…嫁に行くからには歴史や文化を頭に叩き込んでいかなくてはね。


本棚の上の方の本を取ろうと背伸びをすると、スッ…影が覆い私の手より先にある本を抜き出してくれた。


「ヴァレリア様、高い所の本は私が取りますよ」


私の護衛のギリディだった。ギリディの後ろに私付きのメイドのシーナが笑顔で立っている。


私は三人で手分けしてホースト辺境伯領関連の書籍を集めた。


「この本全部に目を通されるのですか?」


シーナがテーブルに高く積まれた書籍を見ながら唖然としている。


「まあそうね~まずは少し見ながら、必要な本といらない本に分けるわ」


シーナにそう伝えて本を読み始めた。シーナはお茶の準備をしてくれたので、時々休憩を挟みながら読み進めていた。


半分くらいの本を読み終わったその時に…図書室に誰か入って来た。


「!」


シュージアン殿下の想い人、マリエリーナ=リーム男爵令嬢だった。驚いている私の前に足早に近付いて来る令嬢。後ろには近衛の方がいる…まだ正式な婚約者でもない、只の恋人なのに…


「あなた……よくやるわね」


「?」


いきなり、マリエリーナ=リーム男爵令嬢にそう言われて二の句が継げられない。キョトンとしている間に、マイエリーナは話し続けている。


「とぼけないでよっ!リアフェンガー=クレガ=ホースト辺境伯…リアフェンガー様のことよ!あなたリアフェンガー様がすごい美形だと知っていたから婚姻するんでしょう!?」


んん?


どういうこと、それ?

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