#16 奇妙な依頼①
日本防衛軍本部
それは、日本本土最大の拠点。
最先端の技術が集結しており、数々の作品もここで発明されている。
所在地は千葉県の先っぽで、総面積は千葉県のおよそ10分の1という超巨大な施設となっている。
その巨大な施設の頂点に立つ男、
年齢は58歳で魔力回路を持っていないが、とにかく頭がキレる人物。
見た目はとても怖いが性格は悪くない。
そんな男に今日俺、仙洞田 樹は呼びたされていた。
「やべ〜緊張するな・・・何をやらかしたんだろう。」
ここに呼び出されたのは初めてじゃない。
むしろA級魔法師にしては多い方だろう。
ほんの少しだけ手元が狂って山を更地にしたり、ほんの少しだけ加減を間違えて新たな湖を作ったりした時に呼び出されたのだ。
あれは俺のせいじゃない。
そう、きっと魔法の神様が悪いのだ。
コンコンとノックをすると「入りたまえ」と返ってきたので、「失礼します。」と言って中に入った。
朝日奈大将は椅子に座り、肘をついて座っていた。
「かけたまえ」と言われて、用意されていた椅子に座る。
部屋の中にいるのは俺と朝日奈大将とその秘書の人。
名前は知らないが、よくお世話になっている。
「突然呼び出してすまない。こうでもしないと君と話しが出来なくてね。東京校の方はどうだ?楽しんでるか?」
「はい、学生らしい生活を送らせて頂いています。」
「そうか・・・私も少し懸念していたのだ。いくら才能があるとは言え、学校も行ったことのないような子供を軍人として戦場に送るのはいかがなものか、と・・・。その様子だと上手くやっているようだな。」
「はい。」
軽く相づちをうつ。
すると突然朝日奈大将の目が本気になった。
この本気の目でいったい何度ジルトレアや日本防衛軍参謀の無茶ぶりを黙らせたか・・・それほど威厳に満ち溢れている。
どうやら怒られるパターンに突入したのかもしれない。
樹は身構えた。
「ところで、君の評判が日本で最低なのは知っているな。」
「はい・・・」
「確かに多少手荒な部分はあるが、真面目でいい子だというのにどうしてこんなに評判が悪いのか、私は不思議でしょうがないよ。」
「おっしゃる通りてす・・・」
「そこでだ、イメージアップのための新たな任務を用意した。黒白及び紅焔の護衛任務を一時解任し、これより別の人の護衛となってもらう。」
「別の人の護衛ですか・・・一体誰の・・・」
「おい、資料を頼む。」
「承知しました。」
秘書の人から書類を受け取る。
書かれて居たのは全くの予想外な人物だった。
『星戸 アリサ』
樹の、いや全国民のよく知る人物だった。
「朝日奈さん、どうして俺にこんな国民的アイドルの護衛に選ばれたんですか?」
「それは、依頼者から直々の指名だからだよ。”是非『青の悪魔』様に護衛をしてもらいたいです”ってね。私もどうして君が選ばれたのかは知らないが先方の頼みだ。断る訳には行かない。と、言う訳で明日から頼む。」
「え?!明日ですか???」
「その資料に書いてあるだろ?そういうわけだから、明日の朝5時にここに集合だ。以上、下がっていいぞ。」
この無茶苦茶なスケジュールに対して自分が意見を述べても意味がない。そう判断する。
「了解しました。失礼します。」
頭を下げ、部屋を出た。
心の中で文句を言いながら・・・
*
翌朝、日本防衛軍所本部の正門前にやって来るとそこは真っ黒のリムジンが止まっていた。
車体は重力魔法によって宙に浮いており、高級感が漂う。
しばらく眺めていると後ろの扉が開き、中に案内された。
「ようこそいらっしゃいました、『青の悪魔』様。本日はおこし頂きありがとうございます。」
「ど、どうも。こちらこそよろしくお願いします。」
黒縁メガネのTheマネージャーという感じの女性が挨拶をする。
樹はそれに応じて丁寧にこたえた。
樹の現在の服装は日本防衛軍所属を主張する赤を基調とした、軍服。そして、2つ名てある『青の悪魔』を思わせる、青色の鬼の仮面。
どちらも自分の正体を隠す為のものだ。
特に会話らしい会話もなく、車が進む。
数十分ほど車に揺られると、大きなビルの前で停車した。
いや、これならここに集合にしろよな、とは言わないでおく。
まだ6時前だが、当たりは明るく、ひんやりとした風を皮膚で感じる。
24時間待機しているであろう受付の人が眠そうな顔で俺を見、驚いて倒れそうになっていたところは滑稽だった。
エレベーターで8階まで昇ると誰もいない部屋に案内された。
用意された椅子に座ると、先程のマネージャーさんが正面に座った。
「こんなに朝早くからどうもありがとうございます。」
そう言って少し頭を下げた。
ホントだよ、とは突っ込まない。突っ込んだとしてももう意味が無いからだ。
「既にお話は伺っていると思いますが、弊社のアイドル、『星戸アリサ』の専属護衛を本日より1週間、『世界魔法祭』が始まるまでお願いします。」
いや聞いてねーよ、とは突っ込まない。
もう一度言うが突っ込んだとしても魔法師である俺に拒否権は無いからだ。
「了解しました。承ります。」
「あ!ありがとうございます!それと、もう1つお願いがあるのですが、貴方様が護衛をした事をインターネットなどで拡散しないようにお願いします。」
「は、はい。」
やはりプライベートな問題があるのだろう。素直に了承した。
そして俺は知ることになる。何故このような忠告をしたのか、本当の理由を。
その場で社内食を頂き、一息入れるとお待ちかねの人物が入ってきた。
長く伸ばした金髪にキュートな赤い目、そして整った童顔。
容姿だけを見れば、彼女がアイドルである事に納得できる。
「マネージャー?ドリンクは?」
「は、はい。ただいま。」
いきなり大声で入ってきたスーパーアイドルは真っ先にマネージャーさんをこき使う。
マネージャーさんは命令通り、容器を取りに行った。
「で?あんたが次の護衛?確か"仙洞田 樹君"だったよね。」
「な?!どうしてそれを!」
「握手会に来たおじ様がチョロっとね。まさか本当だったとはね〜」
樹の正体を知っているのは日本防衛軍でも数少ない上層部の人間のみ。
こんな、いかにもバカっぽいアイドルに知られているとは思えなかった。
魔力感知を全力で発動するが、これと同じ魔力パターンを今までに感じた事はない。
ただ、油断は出来ない。カモフラージュをしている可能性がある。
何とか誤魔化せないか画策する。
「そういうお前は噂と違ってバカっぽいな。上層部がこんなバカっぽいアイドルの握手会なんて来るわけないだろ?」
「へ〜って事は名前の方は本当なんだ〜じゃあこれから私の
「はいはい、分かってますよ。」
そして、俺の護衛生活が始まった。
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前話で調子に乗って3話いっぺんに更新してしまったため、ストックが無くなってしまいました・・・
でも、安心して下さい!
この3日間で結構回復しました!
さて、これから数話ほど樹回です!お楽しみに〜
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