#7 特訓と精霊①



「いいですか?見ててください。我がもとに参り、我が願いを叶えたまえ<召喚・下位精霊・火>」


魔法陣が出現し、中から鳥のような形をした火の下位精霊が飛び出してくる。その精霊に懐かしさを感じる。

この子は昔、咲夜が愛用していた子だ。今はより上位な精霊に頑張ってもらっているので見たのは久しぶりだった。もちろん先程の詠唱はすべて偽物だ。普段なら詠唱無しで召喚できるが、今はお手本のためにわざわざこうしたのだ。


(そういえば僕も最近あの子たちに会えていないな・・・元気にやっているかな・・・)



「久しぶり、カナ」


「キューン」


結人が昔付けた名前を呼ぶと一回転し可愛いらしく鳴いた。

どうやらこの子も久しぶりに会った結人名付け親に興奮しているようだ。


「これが本物の精霊・・・実物は初めてみた・・・でもこの子、えっとーカナちゃんだっけ、カナちゃんってどーみても鳥にしか見えないんだけど精霊って普通人型じゃないの?」


「おそらく瀬奈さんが言っているのは上位の精霊の事では無いでしょうか。精霊には大きく分けて4種類います。下位精霊、中位精霊、上位精霊、そして大精霊。上位精霊以上の精霊は人型ですが、この子のような下位精霊や中位精霊はこのように動物のような外観をしているんですよ。」


「そうだったんですか・・・知らなかったです・・・」


精霊についての情報はあまり公開されていない。何故なら、テロリストのような人達に情報が回るのを防ぐためだ。


「それでどうやったら呼び出せるんですか?」


「とりあえず、今日は精霊に実際に触れてみて感覚をつかみましょう。とりあえず訓練当日までに下位精霊を同時に複数体召喚できるようにしましょう。」


「分かりました、師匠!」


「師匠ですか?」


「ダメでしたか?」


「い、いえ大丈夫です。今までそう呼ばれた事など無かったので・・・」


「よろしくお願いします!師匠」


「はい、一緒に頑張りましょう。」


「まとまったみたいなら僕は空の方に行って来るよ。じゃあ後でに咲夜。」


「行ってらっしゃいませ、結人さん。」


こうして新たな師弟が誕生した。まだ、精霊に関する知識がゼロな瀬奈も咲夜の教えがあれば立派な精霊使いになるだろう。案外楽しそうな雰囲気だ。







「来たか、結人。さっそく始めよう。」


咲夜とわかれた結人は約束通り、アリーナに向かう。

アリーナを貸切できるなんて流石にB級魔法師だなと関心する。

もしかしたら、自分が言ったら学校ごと貸し切れそうだなとそんな事を考える。

すると、観客席に知り合いの姿が見えた。


「まぁそれはいいんですが、どうして遥香さんが・・・」


確か約束では、誰も観戦者はいないと言っていたはずなのに・・・

すると、空が近付いてそっと呟いた。


「すまん、結人。俺も断固拒否したんだがな、断り切れなかった。」


どうやら、幼なじみの頼みを断れないタイプらしい。


「・・・まぁいいですけど。でも大丈夫なの?固有魔法の事は伝えてないんですよね、遥香さんに。」


「どうしてそれを・・・あいつを巻き込みたく無いからな。あいつは気にしないでくれると嬉しい。」


小さな事だが、優しさを感じる。

元々こうなる事はある程度予想がついていた結人は素直に承諾する。


「わかった。」


「いいのか?」


「別に支障はないです。それより早く始めましょう。実は僕も結構楽しみにしていましたし。」


「わかった、ありがとう。」



2人は向かい合うとそれぞれ、身体強化魔法をかける。


「<身体強化><加速><精神強化><魔力障壁><連鎖の陣>!」


そして、空は昨日使っていた黒い魔法剣を亜空間から取り出すとそれを正面に構える。


「精神強化ですか。」


「あぁ、お前相手だとどうしても必要だからな。」


「そうなんですか。では僕も、<身体強化><鋭利化><加速><温度操作><吸収><魔力障壁>」


「やっぱりあの時は本気じゃなかったか。温度操作・・・厄介だな。」


<温度操作>

空間内の温度を自由に操作できる。とは言っても、前後に200℃ぐらいまでしか温度を変化させる事が出来ない。また、相手自身への攻撃が出来ればものすごく強いが、魔力障壁などの防御魔法をかけられると無効化されるのでそこはあまり期待できない。

しかし、使い方によっては非常に強力な魔法だ。

こんなふうに・・・


「なんだこれは・・・」


「温度操作で地面から20cmだけ、温度をマイナス70℃にした。そしてそこに氷魔法で氷の足場を作った。あとは好きなタイミングで温度をあげれば。」


結人は加速魔法で一気に距離をつめるといつもの剣で攻撃する。


「無限に使えるトラップの完成か。」


結人の攻撃を鎖で受け止め、反撃する。


「こうなったら奥の手だ。<魔力障壁>!」


空は自身の魔力を使って足場を作り、攻撃を繰り出す。

剣による斬撃と鎖によるアシスト。自在に操る鎖をある時は攻撃にある時は防御に、またある時は足場として利用する。

これは空の理想的な形だった。


しかし、それでも結人には届かなかった。

一瞬で氷魔法を周囲に展開し鎖の向きを強引に変え、行く手を阻む。

空は誘導魔法によって鎖の起動を修正するがその時には既に結人の影はなかった。


「いないだと?どこだ?ハッまさか上か?」


「正解です、<分撃・四>!」


真上から振り降ろされた斬撃は途中で4つに分かれ、空を襲う。


「お前のその攻撃は既に対策済だ。<鎖円防壁サークルチェーンガード>!」


以前は防ぎきれずダメージを食らっていたが、今回は鎖を円のように変形させると不規則に飛んでくる四つの斬撃を完璧に防ぎきるのであった。

(昨日戦った時はなかった魔法だ・・・たった一日でこれを作るとなると結構な応用技術だな・・・)




           *




一方、観客席では目の前に広がる光景に疑問を抱いていた。


(なんなの?この高次元の攻防・・・結人君もすごいけど、それより空の方。いつの間にあんなに強くなっていたなんて・・・もしかして私に隠していた?でも、なんで?)


こうして考えている間にも戦闘は続く、見たこともない魔法が次々と繰り出される。

2人の攻防を眺めていると不本意ながらこう思ってしまった。


(美しい・・・)


昔、教えてもらっていた先生に聞いた事がある。”1流の魔法師の魔法はとても美しい”と。まさにその通りだった、まさかこの年でそれを味わうとは思っていなかったが・・・




             *




「そろそろ終わりませんか、空。そろそろ限界のようですし・・・」


「あぁそうだな。このぐらいで終わりにしよう。でもよく俺が限界だとわかったな。」


「すでに戦闘開始から2時間半が経過していたのでそろそろかなと・・・」


「そうか、まあ確かに分からない話じゃないな・・・じゃあ、今日は解散だ。また明日頼む。」


「はい、分かりました。それでは、お気を付けて。」


「遥香~帰るぞ~」


「は~い。」




(さて、咲夜の下に戻るか・・・)

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