#6 実戦に向けて⑥

「いいですか、落ち着いて聞いて下さい、瀬奈さん。」


「は、はい。何でしょう、咲夜ちゃん」


「あなたには精霊の使いの素質があります。」


「え?」


困惑するのも無理はないだろう。これは魔法師にとって、突然世界一周旅行に当たるようなものだ。

でもこればかりは伝えなければならなかった。これから先、遠くない未来に彼女は軍人か軍関係者にその存在を見破られてしまうだろう。

そうなった場合、彼女に待っているのは苦難の道だ。最悪の場合はモルモットにされてしまうかもしれない。あらかじめ軍に入隊しておけば最悪の可能性がなくなる。

おそらく校長先生も彼女自身に選択をさせてあげるために結人と咲夜にに託したのだろう。


「ほっ本当ですか?冗談ですよね・・・私があの精霊使いに?」


「はい、その通りです。間違いありません。」


「で、でもどうして?私、家は普通だし、お父さんやお母さんも魔法師でも何でもない普通の人だけど…」


「たしかに霊力は遺伝されるものという認識になっているけど偶に突然変異として発現する人がいるんだよ。凄く低い確率だけどありえないことはないんだよね。」


霊力に関しても魔法同様にまだあまりよくわかっていない。遺伝されるものだと言われているがその判例もある。精霊の方も謎が多く、どのように生まれたのかやどのような存在なのかは詳しくわかっていない。



「えっとーそれで私は何をすればいいのでしょうか・・・私、精霊に関する知識とかないんですけど・・・それにおふたりを疑うわけではないんですけど、まだ確証が得られていないというか・・・」


「その辺は心配しないで下さい。私と結人さんには少しばかりではありますが精霊に関する知識がありますので、教えて差し上げる事ができます。ですが、今慌てて学ぶべきではありません。1度自分でどうしたいかを考えて見て下さい。既にご存知かと思いますが、精霊使いになってしまうと、ある程度の自由を奪われてしまいます。この学校を卒業後、間違いなく軍で教練を受けてもらう事になってしまいます。最悪の場合は前線に送られてしまう可能性もほんのわずかですがあります。」


「そ、そうなんですか・・・わかりました、少し時間をください。明日には決論がでると思います。」


「では、今日の練習はもう終わりにしましょう。これからゆっくりと時間をかけて考えてみて下さい。両親であれば相談しても構いませんが、それ以外の人には他言無用でお願いします。万が一情報が漏洩してしまい軍に知られると連れ去られてしまうかも知れませんので・・・」


「分かりました。ご丁寧にありがとうございます、咲夜さん。では、失礼します。」


瀬奈はそう言うと、空が用意した訓練場を逃げるように去っていった。


「どうなると思う?咲夜」


「私はこの話を受けると思います。」


「どうして?」


「瀬奈さんとはあまり話した事はありませんが、何にでも一生懸命で、正義感の強い方だと聞いております。ですので彼女はながら受ける方を選択すると思います。」


「そ、そうなんだ。なら、僕達が1人前の精霊使いに育ててあげなきゃだね、咲夜」


「そうですね。さて、人もいないようなので人が来るまで久しぶりに私に稽古をつけていただけませんか?」


「お易い御用だよ。」








「どうしてこーなった・・・結人の奴は愛する人と同じで楽しそうなのにどーして俺はこいつとなんだよ!」


「我が魔眼が告げている。樹、お前とならダークネスなコンビを組めると、さぁともに深淵を覗こうではないか。」


樹の班2班は2年生の男子が1人と女子が2人。そして1年はこいつ空野力也だ。

力也は厨二病患者のバカだが、同級生の中では、トップクラスの腕を持つ。そもそも東京校にAクラス入学したという時点で同級生とは比べ物にならない天才だ。さらに、第1段階を突破している1年生の生徒なんて両手で数えられるほどしかいないだろう。

だから、樹は油断していた。


(クソッ、結人とは言わねーが、もっとマシなやつと組みたかったな・・・)


今回の班わけは実力や相性によって分けられていた。それもそのはず、チーム戦闘における最も大切な事は役割分担だ。

前衛、後衛、遊撃にわかれて戦う事によって勝率はぐっと上がる。

樹は高火力による遊撃がメインだ。そのため同じく遊撃である力也と同じ班になるとは思っていなかった。


雷華や空のような近接戦闘が得意な人は前衛、桃のような後方支援に特化している人は後衛、そして樹のように火力をもっている人や攻撃も防衛もでき、臨機応変に対応ができる人は遊撃を担当する。

ちなみに結人と咲夜の2人はソロ戦闘がメインた。たまに2人でコンビを組む事もあるが、それは災害級が複数体出現した時か破滅級が出現した時ぐらいだ。そのため、彼らには役割というもの必要ない、むしろいない方が周りへの影響を考えなくていいため楽なまであった。



「おい、聞いているか?我が盟友よ。」


「聞いてるわ!っで?なんの話?」


「やっぱり聞いてないではないか。我が魔眼がそう告げている。」


「あーわかったよ。聞く聞くで?なんだ?」


「我らのチーム名を決めようと思ってな。『暗黒の魔眼』でどうだ?」


(なんだよ、そのクソダサい名前は・・・まぁこの際だからなんでもいいや。)

「・・・もーなんでもいいよ。」







結人達との練習を早めに切り上げた瀬奈は急いで自分の部屋に戻り、部屋の鍵をかけるとベットにくるまった。


(・・・精霊使いか。)


頭で意味は理解できていても心が追いついていない。

自分のタブレット型通信端末を使って精霊使いについて調べてみる。

その1番上に出てくるのは、もちろん子供の頃から憧れている"お姫様"。炎の最上位精霊を呼び出し人類を守るS級魔法師。黒白様とともに破滅級を討伐した謎多き英雄の話。

でも、今調べたい事はこれじゃない。私は次の項目へと進んだ。



小さい時から魔法師としての才能に恵まれ、通っていた魔法の道場の同年代の中で1番強かった。

この東京校に受験する時もまず間違いなく合格するだろうと、道場の師範に太鼓判を押された。まさか自分がAクラスで入学できるとは思っていなかったが、入学が決まった時は飛び上がって喜んだ。


しかし、入学して感じた事があった"自分は彼らに劣っている"という現実。今まで敵無しだったのに、それはまさに井の中の蛙、大海を知らずだった。

そんな中、偶然やってきた大きなチャンス。以前の私なら喜んで飛びついただろう。

でも・・・

咲夜ちゃんの言葉が重くのしかかってなかなか踏み込めずにいた。

時間が経てば経つほど、その場に置いていかれるような感覚を味わう。


悩んだ末、全く進展が無かったので、母を頼ることにした。早速、電話をかけてみる。

すると予想に反してすぐに出た。


「お母さん、急に電話してごめんね。今大丈夫?」


「めずらしねあんたの方からかけてくるなんて、どうしたんだい?」


「あのね、聞いてお母さん。私、実はある特別な力がかもしれないって言われたの。それで、今ならまだ隠蔽する事もできるけどどうする?って言われて・・・」


「まさか、精霊の力?!」


「実はそうなの・・・」


「ごめんね、瀬奈。あなたには黙っていた事があるんだけど・・・実は私も精霊の力が使えるの・・・。」


「え?それってどういう事?」


「実は私もその昔、今のあんたと同じように選択をせまられた事があったの。その時、私は・・・の。口先なら色々な事が言えても、いざ実際に自分のところに来た時私は凄く迷った。迷いに迷って逃げてしまったの。だから私はあんた・・・いや瀬奈に絶対にこうしなさいとは言わない。自分がこうなりたいって思う方を選びなさい。私はどっちの道を選んでも反対しないからさ。」


「ありがとう、お母さん。私、挑戦してみることにするよ。」


「頑張りなさいよ。瀬奈は私の大切な宝物だからさ。」


「うん、ありがとうお母さん」



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外伝的な奴を書こうと思ったのですが、思ったより大変で断念してしまいました…

何作品も投稿している人本当に凄いと改めて実感しました。

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