第一話(1)

俺の朝は彼女の撮影から始まる

 俺の名は佐倉明希さくらあき、桜丘大に通う大学1年生

 今日から本格的に大学での生活が始まる。

 八時、教室の窓から学校に入ってくる生徒達を見ながら、彼女にカメラを向けた。

 彼女は継実優凪つぐみゆうなこの学校では早くもマドンナだ。でも、決して盗撮している訳ではない。ちゃんと許可をとっている…のに

「お!隠キャ君、何撮ってんの?」

 昨日初めて会ったばかりなのに、見た目で判断してくるやつは嫌いだ。確かに俺は地味で眼鏡をかけた隠キャの見た目をしているが、こんなチャラい奴に言われたくはない。

「お?あの子可愛いじゃん何盗撮してんだよ」

「盗撮じゃないよ。ちゃんと許可貰ってるし」

「お前が?はっウケる。彼女と話した事あんの?」

「あるよ。同じ高校だったし」

「へー、高校の時は相手にされなかったんじゃないのか?あ、今もか」

 これだからこういう奴とは話したくない。馬鹿にされてる気分になって、流石に腹が立つ。無視しようとして、彼女にカメラを向けた。ちょうど、彼女がこっちを向いて手を振ってくれた。俺はシャッターチャンスとばかりに写真を撮る

「手振ってくれた。ラッキー」

 まだ隣にいたこいつは、自分に手を振ってくれたと思って喜んでいる。

 嬉しそうに去っていったから見てなかったと思うが、さっき撮った写真の中に、優が嫌な顔をしていた物が一枚あった。


「おはよー!」

 眠そうにあくびをしながら話しかけてきたのは、俺の親友の鈴村智すずむらとも。智は、幼馴染で物心ついた時から一緒にいた。高校は違ったが、大学でまた一緒になった。家が近い事もあって、高校の時も一緒に遊んでいたんだ。

「今日は良い写真撮れた?」

「あ、尋おはよー」

「おはよう」

 尋と呼ばれている彼は、継実尋城つぐみひろき。優の双子の弟だ。高校の頃から同じクラスだった彼とはとても仲が良く話も合う。智とも仲が良くて俺達は放課後、いつも三人でいた

「さっき面白いのが撮れたよ」

 教室の隅で写真を見るごく普通の光景、そしてそれを見ている女の子達がやけに騒いでいる。

 それはなぜか?答えは簡単だ。俺の隣にいる二人はイケメンだからだ。

智はイケメンと言うより可愛い系だが、だからこそ女子の人気度は高いし、尋は、優もそうだが、この家族は美形だから当たり前という感じ。

「あ、優凪ちゃんおはよ。」

「おはよー。」

 集まっていた女子の中から出てきたのは、我らのマドンナ優だ。こっちにくる途中、他の男子からも話しかけられている。

「優ちゃんもう友達出来たんだね?」

「んー、友達というか、挨拶じゃない?」

 優は、感じていない男共からの視線

「そーだよね。まだこの学校入って2日目だしね」

 智と優がふわふわとした会話をしている隣で、尋が男共に冷たい視線を浴びせていたのを見てしまった俺は何も言えずに口を閉じる。

 まぁ当然の事ながら、男共はその目を見て、一時退散した様だ。また来るだろうけど…

 ところが女達は、その目を見てますます歓声を上げていた。中には失神して倒れた者もいる。

「…うるさいなぁ」と、尋。

「お前なぁ、なんであんなにモテるのに…そんなに嫌がる事は無いだろ?智も」

「え?あの女の子達、明希に集まってるんじゃ無いの?」

「俺も、そう思ってたけど?」

「は?俺がモテるわけないだろ!お前らの方がイケメンじゃん!」

「そもそも、お前が俺らに言える立場かよ…自分は嫌がっておいて」

「そーだよ!それに明希がイケメンじゃないなら、僕らはその辺のゴミだね」

 と、尋と智から逆ギレを食らった。そんなにムキになることか?そもそも、俺はそんなにカッコよくない。

「…イケメンの無駄遣い」

 優がボソッと言った言葉は聞かなかった事にしよう。


 教室で話していたら突然

 ピンポンパンポーン

 と放送がかかった。みんなびっくり!

「新入生の皆様、オリエンテーションを行いますので、講堂にお集まり下さい」

 教室中が騒ついた。そう、今からこの学校での最初の授業が行われる。

 オリエンテーション、それはこの学校の事を説明する場。様々な事を教わり、この学校で生活する為には聞き逃しは危険な時間だ。

「さて、そろそろ行きますか。」と、尋

「結構人多いから、はぐれない様に手を繋いで行きましょうよ!」

 優がそう言うと

「良いよー!」と智が答える。

「んな、小学生みたいなことしてられっかよ」

 反対をした俺を横目に

「じゃあ、俺と智で優の隣頂くね」

「っ!ちょっ待て!勝手に決めるなよ」

「えー、明希はいつも手繋いでるでしょー」

「そうだけど…」

 とまぁ、いつもの雰囲気で生徒の中をかき分けながら進んでいく。結局俺は智と手を繋ぐ事になった。智と俺は、幼い頃からの親友だし別に変な気は起こさないが、とてつもなく恥ずかしい。幸い、みんな講堂に行くのに騒いでいて、この状況を見た者は居なかった。

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