淵源を守る理由

如月瑞悠

1 反乱の始まり

 ——誰もこんな出来事は、想像していなかっただろう。


 家々が燃えて行き、家屋が倒壊していく。

 これは全て、人のせい。

 あってはならない、争いが幕を開けてしまったのだ。

 後戻りはできない。


 「——進め。」


 


 この世には、魔法使いなる者が、暮らしている。

 しかし、魔法使いは、生まれつき、魔力を持たなければ、なることはできない。

 魔力を持つ家庭の子は、魔力を持つ子が産まれる。

 今では、魔力を植え付ける術式も開発された。

 魔力を持つ者が偉い。

 そんな偏見が、世の風潮になりつつある。


 中枢都市 ゼーレガルヴ


 王立議会が開かれている。

 静まったホールに何百という数のお偉いさんが集まっている。

「ーこのままでは、世に反乱が起きるのも時間の問題だ。」

 環境局局長の、フーレデル・マクリフスが第一声を発した。

「確かに、備えてみる必要はありそうね。」

 危機管理局のサンクチュリア・サディアが挙手し発言する。

「なるべく早く手は打ちたい。領主に相談しなければな。」

 フーレデルは懸念し、ため息をこぼす。

「もしくは——。」

 研究局のフレニティア・エニティの発言の最中だった。

 議会が開かれている、ゼーレガルヴを大きな揺れが襲う。

「何事だ⁉」

 大臣たちが騒ぎ始める。

「外です!門が爆破されました!」

 騎士団員、コーネンが叫ぶと同時に、2度目の爆破が起こる。

 外では、反魔力保持者がデモを起こしている。

「——。」

 反乱の最初の標的は、議会だったのだ。


 その反乱から二日後。

 事態は、すぐに知れ渡った。

 

「——反魔力保持者か…」

 紛れもない事実だと、確信する男がいた。

 歳は16か15。

 外は、いつも通り平穏だ。

「ここが、いずれ、戦場と化す…」

 そんな風に見ていた景色が一変する。

 目の前の家が爆破し、跡形もなく消し飛んだ。

「——ッ!」

 急いで向かってみると―—。

「炎の魔紅石が爆発したか…」

 黒くなった家の跡地に散らばる、赤い石。

「ここは確か、クレベルさんの家のはず…」

 地元の有権者で、魔力保持者だ。

「これも、反魔力保持者が…」

 自分もいつ狙われるか分からない。

 魔紅石は、まだ熱を帯びている。

 近隣住民も集まってくる。

「——これが序章なのだとすれば、これから反乱はもっと大きいものになる…」

 懸念する理由。

 世が混沌に陥れば、750年前より酷い結末になるかもしれない。


 750年前、『魔獣』と呼ばれる存在が世界を終焉に誘い込んだ。

 英雄の手で食い止めるもー。

 英雄は、戦死した。

 同時に、魔獣も消滅した。

 しかし、地形変動で『東の大陸』が海へ沈み、大陸が一つになった。

 それが今のこの大陸。

 大陸と言っても、『フォルスフゥード王国』と呼ばれる一つの大きな国だが。

 現国王の、ソールディニア・エインヘリアルは、750年前の英雄の家系である。

 

 魔獣の脅威が消えても、内戦などが絶えないのは事実だ。

 今もこの国の南部では、紛争が続いている。

 醜い争いが。

 何のための争いなのか。


 ——幸せなんて、絶望がなければ成り立たないのよ


 かつて、『ラグナロク』を討伐した英雄。

 ライナ・エインヘリアルの言葉だ。

 この男もまた、その言葉に支えられてきた。

 どんな苦難も、幸せになるための材料に過ぎない。

「——行くか。」

 男が向かう先。

 カバンには一冊の本。


『永遠の契約』

 作者 セイラ・フォルマー。


「——俺は、進む。」


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