御陵衛士➀
伊東と一緒に入隊した
もともと諸士調役として隊務に励んでいた篠原は、さくらにとっては少し年上の部下であった。普段は別行動することも多かったが、それぞれが得た情報は互いに報告するのが常だ。だが、この頃篠原からの情報が不自然に途絶えた。情報があったとしても、大したことのない小競り合いに関するものだったり、真偽の怪しい噂程度のものだったり。糸口としてはそれはそれで大切だが、どうにも何か隠しているような気がしてならなかった。所詮は勘と言われればそれまでだが、さくらだって諸士調役兼監察方として働いてそれなりの年月が経っている。たまには勘に頼ってもいいだろう。
とは言え、篠原が何を企てているのか、皆目見当がつかなかった。歳三が懸念したような、伊東とその門人たちによる古参幹部暗殺計画が進められているわけでもなさそうだった。
さくらは、何か引っかかるものを感じながらも、約一年ぶりとなる山南の墓参りに訪れていた。
最初の一年は毎月訪ねていたというのに、この一年は、本当に遠ざかってしまっていた。
「忘れたわけではないですよ、山南さん。私は……あなたにいただいたものを無駄にしないように日々励んでいるつもりです。きっと、わかってくれますよね」
もの言わぬ、ひんやりとした墓石をさくらは優しく撫でた。昨年はここで歳三と鉢合わせたのだっけ、とふと思い出した。
なんだか急に、歳三の顔が見たくなった。そしてすぐ、ほとんど毎日見ているくせに、と自分自身に呆れたような笑みを漏らした。だいたい、ここは山南の墓前である。本当に、もう自分は山南への恋慕の情には囚われなくなったのだなぁ、としみじみする思いだった。
「……それじゃあ山南さん。また、来年」
さくらは墓石に笑いかけると、光縁寺をあとにした。
最初の屯所があった壬生村は、ここから目と鼻の先である。少し壬生寺に寄ってみようかと、さくらは足を向けた。
もともと手狭ゆえに西本願寺に屯所をうつしたというのに、それでも場所が足りず、今でも壬生寺では時折砲術の稽古などが行われていた。が、今日の境内は人気がなく静かだった。
ここの裏手には、かつて自身の手で葬った命の恩人・芹沢鴨が眠っている。命日ではないが、ついでみたいで申し訳ないとは思ったが(実際ついでであるが)、芹沢の墓にも参ってみようかと境内の奥へ入っていくと、「あ、島崎さん」と声をかけられた。
「平助」
さくらが気づくと、平助は人好きのする笑顔で近づいてきた。
「島崎さんも墓参りの帰りですか」
「ああ、平助も?」
「そうです。もう二年経つんですよね」
芹沢の墓参りはやめることにした。平助は、あの暗殺事件の真相を知らない。余計なことに話が及べば面倒なので、さくらは境内を散歩していただけだと平助に説明した。
平助もちょうどぶらぶらしていたところらしかったが、そろそろ西本願寺に戻るというのでさくらは一緒に戻ることにした。
歩き始めてすぐ、平助が気軽な調子で尋ねてきた。
「島崎さん。伊東さんに女だって知れたって本当ですか? ……あ、僕は何も言ってないですよ」
「わかっている。歳三が例の屁理屈でなんとか押し通したようだが、伊東さんが心底納得しているかは怪しいものだな」
「……それなんですけど」
平助はキョロキョロとあたりを見回して周囲に誰もいないのを確認すると、低い声で言った。
「実は……伊東さんは、もう新選組にはいられない、と思っているようです」
さくらは驚いて大きな声を出してしまいそうになったが、すんでのところで飲み込んだ。
「その話、詳しく聞かせろ」
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