巻きこまれ体質の彼女は咄嗟の嘘に付き合わされる

闇野ゆかい

第1話トラブルに巻きこまれる紡衣香保

午前の授業が終わり、教室が賑やかになる。私、紡衣香保は購買で人気があり、すぐに売りきれるメープルが練り込まれたメロンパンを入手するため教室を抜け出し、購買に駆け出す。

購買が目の前で、列ができていて、9人が並んでいた。限定10個のメロンパンで、後僅かというところで、正面から走ってきた男子にとめられる。彼を追いかけていた女子が追いついて、詰め寄ってくる。

胸ぐらを掴まれる直前、彼の口から意外な言葉が出る。

「付き合ってるから、この子と。なぁ香保」

腕を肩にまわしてきて、詰め寄ってきた女子に告げる。

彼は、爽やかな笑みを私に向けてくる。

「違い──」

否定しようと言いかけた時、彼に耳もとで囁かれる。

「今だけでいいから、話合わせて。香保さん」

「うっ。そ、そうだよね......だ、ダーリン」

今にも泣き出しそうになりながら、話を合わせる。

話を合わせるために出た言葉が恥ずかしいものだった。緊張して、一番恥ずかしい単語が出てきた。よりによってダーリンと言ってしまった。周りが静寂に包まれる。

詰め寄ってきていた女子が拳をつくり、震わせながら、睨み付け叫ぶ。

「絶対っ、諦めないから。渚のこと。あんたから渚を奪ってやるっ!」

そう言い残して、去っていく女子。

立っていられなくなり、座り込む。

涙が流れる。

「大丈夫?ごめんなさい、香保さん。なんでも言うこと聞きますから。これで拭いてください」

彼が屈んで、ハンカチを差し出す。

ハンカチを受け取り、目もとを拭いてハンカチを返す。

「な......なんでもって、言った?」

声を震わせながら、聞く。

「は、はい。そう言いました」

「メロンパン......食べ、たい。売りきれた、から」

「なんとかしますから。教室まで届けます」

彼は駆け出し、姿が見えなくなる。手をついて、立ちあがり周りのにやけた顔や、口笛を鳴らされる間を通り抜ける。もう嫌だよ、なんで私ばかりトラブルに巻きこまれるの?

俯きながら、歩いて教室にたどり着き、入ると、拍手をされた。

「おめでとう、紡衣さん」「香保、おめでとう」などと祝われる。

「私は、誰とも付き合ってないよ」

否定するが、誰も信じてくれない。

「彼がきたよ、香保。さあさあ」

彼の姿があり、背中を押され、彼に抱きつくようにされた。

「ご、ごめん」

彼に謝り、離れようとするが、背中に腕をまわされ、謝られた。

「巻きこんで、ごめんなさい。これですよね、戻ります」

彼からメロンパンを受け取る。

彼は歩きだし、去っていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る