大勇者と従者14

 その結果、種族ごとに住んでいる場所から少し離れた土地

 攫われた魔物たちはそこに向かって歩いていたことが分かった

 その時は忌み地と呼ばれ、魔物はおろか生物は一切近寄らない場所だった

「ここに来るはずがありません。その危険性は子供のころから教わり、入ればどうなるかしっかりと理解しているモノたちばかりですから」

 その忌み地は近づくだけで気が狂いそうになり、入れば自分で自分を殺してしまうそうだ

「そうか、ならここからは危険だな。あんたらは朗報でも待っててくれ」

「まってください! 恩人がみすみす死んでしまうのを放っておけません」

「うーん、ま、大丈夫だって。俺そういうの効かないからさ」

 アイシスは黄金鎧を展開する

 展開したのは黄金狸の鎧

 これは幻惑や精神に対するものに耐性があり、気が狂うなどと言った状態異常を防いでくれる

「アンはここで待っててくれ」

「うん、気を付けてねアイシス」

 アンの頭をポンポンと叩いてまっすぐその土地へと足を踏み入れた

「なんだこれは、確かにここは異様だ」

 周囲の空間が気持ち悪く歪み、目が回りそうな感覚に襲われる

 しかし鎧を着ているアイシスにはそんな現象も意に介さない

「さて、ここの中心あたりに匂いは向かってたな」

 攫われた魔物たち、彼らは皆ここに向かったのだろうか?

 中心までもう少しというところで空間がグニャリと歪み、そこから何かがユラリと出てきた

「これ以上は来てもらっては困るのだが?」

「あん? 何だてめぇ」

 そこから出てきたのは細見の男で、眼鏡をクイッと直しながら着ていた白衣からメスを一本取り出す

「はぁ、余計な死体は増やしたくないのだが仕方ない」

「俺に勝てるつもりかよ?」

「何の勝算もなく戦うのは愚の骨頂だろう?」

「そりゃそうだ!」

 黄金狸の鎧のまま手に大きな盾を換装するとそれで男を殴りつけた

 しかしどこにそんな力があるのか、男はメス一本で盾を簡単に防いでいる

 攻撃特化ではないとはいえ、普通の人間なら絶対に防げないであろう一撃

 それを柔い腕で防いでいるのだ

「何だその力は」

「力の流れというのはある程度のベクトルがあるのだよ。それをそらしてやれば君のような怪力を私でも簡単に防げるというわけだ」

 メスで押し返す

「さてここからは私の番だ。私の名はドナト。視線のドナトだ」

 ドナトは眼鏡をはずす

 そしてアイシスをにらんだ

「あぶね!」

 その視線によって空間が捻じ曲がる

 たまたまアイシスの傍にあった木が奇妙にグニャグニャと変形した

 もしアイシスにあたっていればアイシスが同じようにねじ曲がっていただろう

「視線が武器ならいくらでも対応しようがある」

 アイシスはもっていた盾を換装しなおし、キラキラと表面が光る盾へと変えた

 そしてまた視線が迫る

「とりゃっ!」

 そのビームのような力を盾の表面で受けた

「はじ、けない!?」

 盾はグニャリと曲がり、アイシスは慌てて盾を放した

「無駄だ。私の魔眼はありとあらゆるものを曲げる。概念すらもな」

 ピキンという音ともに魔眼の力がまたしても迫る

「くそっ、近づけねぇ」

 魔眼の力はによって翻弄されるアイシス

 しかし段々とその速さにも慣れてきた

 そして近づき、ドナトの腹部を盾で殴りつける

「空間の魔眼!」

 だが拳が当たる瞬間にドナトはアイシスの前から消え、アイシスの後ろに現れてメスで傷つけた

「ぐっ」

 背中を切り裂かれる

 すんでのところで避けたため、少し血がにじむ程度で済んだが、男はまた消えた

「魔眼の力、ひとつじゃねぇみたいだな」

 アイシスは次にどこから来るのかと身構えた

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