大勇者と救世者13

 すでにボロボロで皮膚も癒着して動きはぎこちない

 それでも自分の体をこんなにしたアイシスを絶対に殺そうと迫ってくる

 自らの身を焦がす炎を纏い、ずるずるとゾンビのように足を引きずりながら

「なんて執念だ」

「アハハハハハハハハハハハ!!!! 死ねっ! 死ねぇえええ!!」

 炎の威力がどんどん上がって行く

 アイシスの黄金鎧による盾でも防ぐのが難しくなってきた

「ぐ、ぐぁ! このままじゃじり貧だ・・・」

「俺に任せろ!」

 一斉に飛んできた炎の塊を厚い胸板で受ける男

 別の場所を探索していたアーノルドが戦闘音を聞きつけ駆け付けたのだ

 炎はその胸板に防がれ霧散するが、当然アーノルドも無事では済まない

 しかしそれでも彼は炎を受けつつ前進していった

 ジュウジュウと肉が焼けこげる臭いが充満する

「アアアア!! 邪魔よあんた! さっさと焦げて死ね!」

 焼けこげた先からその傷口に筋肉を集中させて回復

 それを繰り返してなんとかラナマーヤの炎を防いで入るが、やはりアーノルドも限界が近づいてきている

 だがゆっくりと歩みを進め、ラナマーヤに抱き着いた

「ぐ、うおおおおおお! 今だ!」

 燃え上がるラナマーヤを抑え隙を無理やり作り出した

「すまないアーノルドさん! いくよアイシスちゃん!」

「ああ!」

「大風月!」

「ゴールデンブレッドォオオ!!」

 風をドリルのように手にまとっての大破壊攻撃と、アイシスの黄金鎧による空間ごと破壊する拳、その二つが合わさるようにしてラナマーヤに叩き込まれた

 空気が震え、ラナマーヤが膝をつく

「が、ぐ、もっど、人を殺したかったのに、ぐぞ! ぐぞがああああああ!!」

 そのまま土くれのように崩れ去ってラナマーヤは死んだ

 それと同時にラナマーヤを掴んでいたアーノルドもガクリと崩れ落ち、倒れ込んだ

「アーノルドさん!」

「大丈夫、少し休めば元に戻る」

 胸の大やけどは肉体操作によってゆっくりとではあるが修復されていく

「セナを連れてきます」

 デレッドは風で浮かび上がるとセナのいる広場に向かっていった

「ふぅ、少し無茶をしすぎた」

「大丈夫ですか?」

「ああ、それよりもアイシス、君も火傷を」

「ああこのくらいならどうってことないですよ」

「しかし頬を、君だって女の子なんだから顔に傷は、そのな」

「ハハ、もう割り切りましたよ。この体には無数の傷がありますしね」

 他愛のない会話

 仲間として少し打ち解けたようだ

「セナを連れてきたよ」

 風に乗って戻ってきたデレッドとセナ

 セナは慌ててアーノルドの治療を開始した

「ふぅ、回復できる子がいて助かったぜ。俺ももう黄金鎧の力が切れてたんでな」

 黄金鎧の力を使えば当然回復はできるが、ラナマーヤと本気の戦闘を行ったため魔力不足となっていた

 なんとかウルの侵攻は食い止めたもののボロボロだ

「救援が来る前に倒せたってのは行幸かもな」

「ふむ、違いない」

 笑い合っているとドゴンという音と共に地面が砕け散り、アイシスたちは散り散りに吹き飛ばされた

「な、なんだ!」

「ラナマーヤが死んだか、あの程度の力で大幹部などよく言えたものだ」

 砕けた地面の中心にいるのは若い男

 右が黄色で左が黒のオッドアイ、肩にかかる金色の髪、耳の長さからエルフと思われる

「さて、曲がりなりにもこちらの大幹部を倒してくれた君たちは殺さねばなるまい」

 突如現れた男はそう告げると転がっていたアーノルドに近づく

「待て!」

 デレッドが男を止めようとしたが、少し指で触れられただけでビクンと少し痙攣して地に伏した

「デレッド!」

 アイシスがデレッドに駆け寄ったが呼吸をしていない。それどころか脈もなかった

「私が見ます!」

 セナにデレッドを任せて立ち上がるアイシス

「電気か」

 男の力はどうやら電気を操る力のようだ

 手からパチパチと静電気のような破裂音がする

 魔力切れは間近、今しがた大幹部を倒したばかりなのに、それに匹敵するかそれ以上の力を持つ男が現れた

 絶体絶命だった

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