世界に選ばれし者たち4
傷のある少女の手套による攻撃を避けつつ少女の手を掴んだアモン
しかしその指がいつの間にか切り落とされている
すぐに能力で指を再生しつつ掴んだ腕を放さなかった
「骨が折れるくらいに握ってるんだけど硬いね。それにこの感触、骨が普通の骨じゃない。まるで金属だ」
アモンは彼女の腕を後ろに折り曲げて拘束するが、そのまま投げ飛ばされてしまった
とんでもない剛腕だ
それでもアモンは手を離さず、その腕がゴキリとあらぬ方向を向いても激痛に耐えながら立ち上がった
少女は相変わらず無表情に攻撃してくるうえに、隙あらば仲間を狙っているのでたちが悪い
「皆下がっててくれ!」
捻じれた腕を元に戻しつつ仲間たちに呼びかける
彼女の攻撃に巻き込まさせないためと、自分が本気を出すために
「はぁ、これはやりたくなかったけど君は強すぎるからね。皆が見ないように注意を払うけど無理だろうなぁ。僕の初めての信頼できる仲間たち・・・」
何かを決意したアモンはその力を、姿を、本来の形に戻す
彼は無能などではなかった
人間でもないどころかヒト種でもない
彼の正体は名の通り悪魔
もうすでに全てが滅んだとされていた強大な力を持つ種族だった
その中でも彼は王と呼ばれる悪魔の中で最も強い一柱だ
彼はいかにも悪魔らしい姿に戻ると少女の手を一気に引きちぎった
「やはり君は・・・」
少女の腕から鮮血が吹き出るが、骨などの部位が異常だった
どうやら体中の骨が特殊な強化金属に変えられているらしく、腕もよく見ると手術痕と見られる大きな傷がある
「普通ならどうしようもないだろう。君は脳まで改造されているようだからね。でも悪の王たる僕なら君を戻せる。可哀そうな少女、悪魔と契約する気はあるかい?」
少女は何の反応もしないが、アモンは彼女の魂に直接聞いている
そのため彼女の本当の気持ちが分かった
(お願い、助けて・・・。それができないなら私を殺して。私は人を傷つけすぎた)
「いいだろう、その願い聞き届けよう。悪の王たる僕との契約だ。君の願いは叶うよ。ただし死なせはしない。君たちのような被害者を救うのも僕のやりたいことだしね」
彼はかつて異質な悪魔と言われていた
人を愛し、人の笑顔が好きな彼は、母親として自分を受け入れていくれた女性の願いを聞き入れた時、人の尊さや優しさを知った
つまり彼はウルを組織したアウルとは真逆なのだ
悪は善へ
彼の心は悪魔からかけ離れ、自らに初めての感情が湧いた
それこそが愛だ
人を思いやる愛、人と人が結びつく愛、無償の愛
もともと人が好きだった彼は悪魔としては異質
それ故に追放されたが、それが功を奏して滅びゆく運命から逃れたのだった
アウルはもちろん彼が人間だということを知らずに世界の種を植え付けた
もともとが力ある悪魔だったため、世界の種が上手く体に交わり他の仲間たちとは大きく違う力を手に入れたのだった
彼の力は愛そのもの
人を思えば思うほど力が増していく
今その愛は少女に向けられていた
アモンの力は少女の体をみるみるうちに元に戻し始めた
金属に変えられた骨は彼女の元の骨に、改造された脳は後遺症もなく少女の意識を取り戻させた
「私、生きてる? 体も痛くない。それに頭も」
少女は自分の体を隅々まで見てポロポロと涙を流して喜んだ
まるでアウルを神のように見つめる少女
「ありがとうございます! 私はライナ、風を司る妖精です」
驚いたことに本来の彼女は妖精だった
大きさは人と同じくらいであるため、エインセルだと思われる
エインセル、希少な妖精だ
力も精霊に匹敵する力を持ち、本来なら妖精の王に使える存在である
彼女も元々はそうだったが、仲間の妖精たちと共に掴まり、体を改造されたらしい
その際に何人かの妖精は手術に耐えきれず発狂、もしくは死んでしまったそうだ
仲間の妖精たちは廃棄されたが、彼女のみが唯一の成功だった
既に彼女の世界は滅び、使えるべき王も殺された
彼女はそれを思い出し、愕然としながら泣きじゃくる
アモンも仲間たちもそんな彼女が泣くがままにさせておき、落ち着くのを待った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます