逸脱した女神1

 新しい力は私を破壊の女神から破壊と再生の女神としての権能を与えた

 シヴァ兄様と同じような権能だけど、根本的に違うのが、それが世界そのものに影響を与えてしまう力だって所かしら

 もはや改変の力と言ってもいいかも

「我が女神、何なりとご命令を」

 あ、そう言えばクロン君がついて来てるんだった

 彼、見た目から三十代半ばかと思ってたけど、まだ二十代前半だったわ

 元の世界がなくなってるから私の天使としてこれから働いてもらうことにしたの

 要は三天になったってことね

 ラナを合わせると女性ばかりで彼一人男性ってことになるけどそのうちどうでもよくなるはず

 だって彼以外の二天は元々男性だしね

「とりあえず、クロンは私の天使になったからこれからゆっくり罪を償ってもらうわ」

「ルニア様の御意向ならば私も従います」

「私は嫌です。この人リィリアを殺しかけたんですよ? それにルニア様だって」

「いいんだアスティラ。私もこの通り無事なのだから」

 リィリアは神殺しの弾を受けて死にかけてたけど、回復を阻害していた能力を破壊して組織を再生させたからすっかり元気になってる

 私も同じ

 でもやっぱりアスティラちゃんは納得いかないみたい

「俺のことが不満なら俺を殺してくれて構わない。俺はそれだけのことをこの世界にしたのだから甘んじて罰は受ける」

「はぁ、そんなの楽になるだけでしょう? 生きて償って。誰かを救うためにその力を使って」

 ようやくアスティラちゃんも一緒に行くことを認めてくれたみたい

 彼がこの世界で人を殺した理由

 彼は認識を改変されてたみたい

 この世界には自分の世界を襲った仲間たちがいて、そいつらは敵だから攻撃しろ

 そんな風に頭の中をいじくられてた

 もともと正義感の強いクロンはそうやって悪さをさせられていたみたいなのよね

 洗脳

 これもまたウルの手口の一つ

 正義感が強い強力な能力を持つ者を洗脳や改造、人質によって支配する

 クロンもまた被害者には違いないわ

「ひとまずもう脅威はなさそう。そうよねクロン?」

「はい我が女神、この世界に来たウルは俺を含めてもう一人。しかしそいつはとっくに逃げたようです」

「よし、それじゃあ次の世界に行くわよ。着いたらまずお姉ちゃんに連絡を入れるからちょっと待っててね」

 四人がうなづくのを見てから転移門を開いてくぐる

 目に広がるのは輝かしい光で思わず目をつむった

「まぶし、何よこの光」

 目が慣れてきて見渡すとちょうど日が昇るところだったから眩しかったみたい

 しっかりと周りを見ると辺り一面が海という場所に出ていた

「潮のいい香り、私港町に住んでたの」

 ラナはこの海の香りを胸いっぱいに吸って堪能してる

 この子もすっかり恐怖から立ち直ったみたい

 アスティラってばやっぱり子供の扱いが上手いわね

 今もアスティラにおんぶされてるソラは顔を卯詰めて安心しきって寝てるし

「うーん見た感じ平和そうね。ちょっと探知してみるわ」

 私は新しい力で世界そのものを見てみた

 するといるいる、ウルらしき数名のフードを被った人物たち

 こいつらまだ何もしてないみたいだけど、何かされてからじゃ遅いものね

 まずアスティラちゃんに宿を探してもらって、そこのベッドにソラを寝かせてから私達は転移でその集団の目の前へと現れてやったわ

「なんだ貴様ら。私の邪魔をしようというのか?」

 白いフード。こいつは幹部、その後ろには黒いフードが三人

「ウル、何をしようとしてるの? この世界を傷つけさせはしないわよ」

「はっ、もう終わった。一足遅かったな」

 白いフードの男は手に何かを持っている

 虹色の種。世界の種ね

「それを何に使うつもりなの?」

「知らん。私たちは取って来いと言われてるだけだからな。おいベートルジュ。これをもって先に帰ってろ。私はこいつらを相手してから帰る」

「ハッ!」

 部下の一人、ベートルジュと呼ばれた執事風の男に世界の種を渡すと、懐から出した装置で部下たちを逃がす

「彼らじゃ敵わないと見て逃がしたってことね? 部下思いの幹部もいるのね」

「他が異常なだけだ。本来部下とは信頼関係を築いておくべきなのだ」

「そんなに誠実なのに悪いことをしているって自覚はある?」

「何を言っている。世界の種を集めれば真の平和な世界が築かれる。私はその手伝いをしているだけだ。お前たち神々が成し遂げれないことをアウル様は成してくれる!」

 どうやらこいつは嘘を教えられてるみたいね

 だったら正気に戻してあげないとだわ

 男はフードを脱ぎ、私は力を使うため手を翳した

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