世界に選ばれし者たち1

 銃弾の雨あられ、さらにはミサイル、数々の兵器が人々を襲っている

 罪なき人々を一掃しようと兵たちは狂気じみた笑顔で殺しにかかっている

 人間が人間を狩る狂った世界。それかこの世界では行われている

 逃げ惑う人々ですら周りの人間を踏みつけ、自分だけが助かろうとする

 思いやりも優しさも、人々は忘れ去っていた

「こんな世界間違ってます! 子供が安心して暮らせない世界なんて!」

 珍しくりえが自分の意見をはっきり言っている

 彼女は誰よりも優しい

 目の前に広がる光景に、悲しみ嘆き怒っていた

「危ないです!」

 りえは目の前で今まさに砲弾に殺害されそうになっている小さな少年をかばった

 とっさにアモンがりえの周りを結界で覆ったため大事には至っていないようだ

「大丈夫、ですか?」

「はなせよ糞女!」

 助けてもらったにもかかわらず少年は礼も言わず、そのまま逃げて行ってしまった

「何なのよあれ! たすけてもらったくせに!」

 レノンナもその態度にはご立腹のようで、一番弱そうなりえを狙って攻撃しようとする兵をボコボコに殴りながら地団太を踏む

 兵に取り囲まれてはいるが、アモンとアーキア、レノンナによっていともたやすく全員が気絶させられた

「こいつら何の目的で戦ってるんだ? なんで子供を殺そうとする? それに味方同士でも殺し合ってるみたいだ」

 アーキアの言う通り、明らかに味方である兵たちがお互い斬りつけ合ったり撃ちあったりして殺し合いをしている。それもさも楽しそうにだ

「異常、としか言いようがないねぇ。私の目でちょいと見てみるよ」

 倒れた兵をエーテが確認してみると、どうやら全員が全員何かの能力によってこの状態になっていることが明らかになった

「これは、皆狂気を植え付けられてるねぇ。正常な判断が全くできてないよぉこれは。危険危険、危険が危ないねぇこれ。しかもしかもだよ。この狂気は伝染していってるよウィルスのように」

 狂気に感染した者は誰もが殺しをしたくてたまらなくなるらしい

 それは平和が好きな者だろうと優しさあふれる者だろうとだ

 ひとまず周りにはもう狂気に犯された者たちはいない

 倒れた彼らから狂気を取り除きそのまま放置して戦闘の激しい地域へと走った

「この先、爆撃されてるよぉ」

 エーテが探知しているおかげでどこでどのような戦闘が行われているのかが手に取るようにわかる

 今は一番激しそうな戦場へ向かったが、到着してみた光景は五人が絶句するものだった

 たくさんの焼けた死体が転がり、燃え盛る人間が熱さと痛みで転げ回っている

 死体の焼ける臭いが辺りに充満していて、りえとアーキアはその場に吐いてしまった

 アモンとエーテ、レノンナは吐かなかったものの嗚咽を漏らしている

「酷い、ひどすぎる・・・。一体どこからこんな狂気が蔓延したんだ」

 そんな死体の転がる中、火炎放射器を持った男がこちらに走ってきた

 高火力の炎がこちらに放たれが、アーキアによって防がれる

 それに腹が立ったのか火炎放射男はもう一つ火炎放射器を取り出すとさらに火力を増した

「死ね! 死ね死ね燃えて死ね! ああ肉の焦げる良い臭いだ! 殺したい、殺したいいっぃいいいっヒヒヒヒヒヒヒ!」

 狂ったように、いや実際狂った笑いが響く

 そんな火炎放射男に突如爆撃が直撃し、男は一瞬で死んだ

 上を見ると今度は背負うタイプの飛行ユニットを着た男が爆撃を行っているのが見える

「ヒャアアア!命中だ! 俺は強い!」

 その男も完全に狂気に飲み込まれている

「狂気を取り除くから援護を頼むねぇ」

 エーテは冷静に男に向かって手を翳すと、スコープのようにして男をのぞき込んだ

「診断、病巣切除!」

 エーテの能力により男は狂気を取り除かれ、ゆっくりと降りてきた

「あれ? 俺は何を・・・、なんだ、この光景は・・・」

 すると男は今までやったことの記憶が戻った途端に苦しみ始めた

「俺は、俺はなんてことを! なぜ、こんな狂ったことをしたんだ! うわあああ!!」

「まずいねぇ!」

 エーテはとっさに男の記憶を消した

 心が壊れかけたための処置だったが、男はトロンとした目でそのまま眠ってしまった

「ふぃ~、この狂気を振りまいている元凶を叩かないとだめだねぇ」

 五人のこの世界での指針も決まり、すぐに狂気を振りまく誰かを止めることになった

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