無能の異世界人13

 街では件の魔物を倒した報告がなされたことでその日一日が宴だった

 ウルという組織については報告はしなかった

 いたずらに混乱させる必要もないだろうとの判断だ

「いやぁあの男、気持ち悪かったねぇ。でもアモンのおかげで倒せたさね。アモン、よく頑張ったね」

 エーテの頭なでぐりは少し気恥ずかしかったが、アモンは笑顔を浮かべた

 変な性格はしているが、これでエーテは面倒見がいい

 今ではみんなのお姉さんのような立ち位置となっていた

「これでこの世界には問題は、無いと思うんだけどどう?」

「大丈夫、ないさねぇ。さて勇者サカシタちゃんや、私らはこれで別世界へ移る。君がどういう目的でこの世界に来たかは分からないけど、勇者ってのは元来古来から役割ってものがあるはずだよ。君はどうかな?」

「私、帰りたい。家に帰りたいよ。でもこの世界の人達も好き。二年ほどしかいなかったけど、ここにはワタシの居場所があるんだもの。だから、守れるものは守りたい。私の役目が終わるまでは」

「よく言った! じゃあ良いことを教えよう。君の役目はもうすぐ終わるよ。そうさねぇ、あと二か月ほどってところかな?」

「え? それはどういうこと?」

「ふふ、それは私にもわからないさね。でももう少しだってことは分かる。何せ私の力は視る力だからねぇ」

 それを聞いてサカシタはがぜんやる気が出たようだ

 勇者としての輝きが今彼女を包み込む

「あれ? なんで? 私の力が」

 勇者の力を完全に自覚し、勇気を力に

 それが彼女を覚醒させた

 本来の勇者としての力を引き出したのだ

「それが君の本当の力さねぇ。ふふふ、思った通りすごい力だ」

 サカシタの先ほどまでの力は消失

 棒状のもので斬りつければその部分が消えるという力だ

 だが覚醒した今の力は修正

 消して書き換えるという新たな力はこれから先この世界を守るうえでも、彼女自身を強くするにも最適な力だ

 そして彼女は選ばれた。正確には元々世界が選んだ新世代ではあったが、自覚がなかったため力は弱いままだったのだ

「これなら私も、皆を守れるかな?」

「もちろんよ!」

 レノンナにそう言われるとサカシタもさらに自信がみなぎってきたようだ

 彼女が勇者として活躍できなかった理由

 それは戦いが怖いからだけではなかった

 友人、親しい人、周囲の人、皆を守れるかどうか不安もあったからだ

「勇気、それが勇者としての覚醒条件さね。私もサカシタちゃんを視れたから知ったんだけどね」

「ありがとうレノンナ! エーテ、皆! もし、もしこの世界を救って、元の世界に帰ったとしてもまた会えるかな?」

「会えるさね。それも近いうちに」

「うん!」

 サカシタを抱きしめるレノンナ

「また会おうねサカシタちゃん」

 二人は別れを惜しみながらも扉をくぐった


 くぐった瞬間のことだった

 突如爆撃のようなものが目の前で弾け、アモンが吹っ飛ばされていった

「アモン!」

「あっぶなぁ、もうちょっとで直撃するところだった」

「いや少し当たってたよね今」

 アモンは砲弾の一部が完全に当たっていたし吹っ飛ばされもした

 それなのに戻ってきた時には傷一つついていない

「何度見ても不思議さねぇ。なんであんたの力だけこんなあいまいなんだろうねぇ」

「いや僕に聞かれても。僕だって突然力を得てよくわかってないんだからさ」

 エーテにも見抜けないアモンの力の本質

 アモンの力がどこまですごいのかは誰にもわからないようだ

「してここは戦場のようだねぇ。レノンナ、気を付けるさね。もう一メートルほど下がって」

「ええ」

 レノンナがいた場所に銃の弾が通り抜けていく

 もしそのままいれば腹部に命中していただろう

「ありがとうエーテ」

「とにかくここは危ない。ほらりえちゃんこっちへ」

 アーキアがりえの手を引いて五人は戦場を駆ける

 その間アモンとアーキアが銃撃や砲撃を防ぎ、なんとか安全そうな場所までたどり着いた

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