無能の異世界人11

 街道に来たはいいが至って平和そのものでなんの変哲もない

 それどころか小鳥のさえずりまでも聞こえてくる

 のどかだ

「油断しない方がいいねぇ。そこかしこから気配がするよ。今視るから少し待ってねぇ」

 エーテは自分の力を使い、周囲を探知し始めた

 ウルですらその気配を隠せない力であるためたとえ気配ごと消えようとも発見できる

 エーテは指でわっかを作ってルーペのようにし、キョロキョロと周りを見始めた

「ハイ発見~。そこさねぇ!」

 エーテは懐からメスのようなナイフを投げた

 武器ではなく解剖用の自前ナイフだ

 そのナイフは空中でトスッとなにかにささり、そこからスーッと男が現れた

 そいつは首をグリンとフクロウのようにかしげると口がガバッと開いた

「ひょひょひょひょひょ、うまそう、うまそうな子供、ひょひょひょ。お前とお前は丸かじり、お前とお前は焼いて、お前とお前はただ殺すぅ。男は筋張っててうまくないぃ」

「な、何よこいつ、不気味すぎるでしょ。サカシタちゃんは後ろに隠れて」

「ううん、私も戦う」

 サカシタは震えているがそれでも勇気を出してその小さな一歩を踏み出した

 レノンナによって彼女は変わって行っている

 小さな勇気が段々と大きくなってきているのだ

 そんなサカシタは自らの能力を発動させた

「なんだぁちっこいのぉ。まず喰われるのはお前ってことぉか? 生で、丸呑みぃ、ひょひょひょひょひょ」

 男は首をグルングルンとまわし、サカシタに手を伸ばしてきた

 その手の手首から先がいきなり消失する

「私、傷つけるのが怖くて戦うのが嫌いだった。でも、あなたがみんなを傷つけるって言うなら、私は守るために戦う!」

 サカシタは剣を抜き、男に向けた

「ヒュホホ、ひゅひゅひゅひゃ、痛い、痛いなぁ。でもいいスパイス、お前を食べる前の、スパイスだなぁ。咀嚼」

 男が何もない空間に向かって口をがぶりと閉じた

 すると地面ごとその空間が消失する

「なに、こいつ、私と似たような力を」

 サカシタは同じく剣で空間を斬った

 するとその空間ごと削れて消え去る

 サカシタの力は消失と言う力で、剣でもなんでもその場で振るうことで空間ごと削り取ってしまう

 対して相手の男の力は咀嚼

 これもまた空間ごと削り取って喰らってしまう力だ

 削って食べたものは彼のエネルギーとなり、さらに力を持った者を食べるとそれ自体も彼の力となってしまう

 喰えば喰うほどに強くなっていくウルの幹部の一人だった

「ひゅふ、ふふ、フヒャアア!! ハハハハハハ!! 感謝するアウル様! 俺は今日ここで更なる力を手に入れる。そして俺はより完成された肉体を手に入れるのだ!」

 急に口調が変わる男

 その姿もフクロウのような姿から鷹のような鋭い目を持った男へと変貌する

「喰う前に自己紹介でもしておこうか。俺はマシクラ、ウルの幹部にして世界を喰った男だ」

 世食い

 遥か昔に世界を喰う魔物がいた

 すでに絶滅したはずだが、彼はその因子を受け継いでいるらしく、そのため生まれてすぐに親を食べた

 さらにそこから自分の兄弟、村に住む人々、街、国、大陸、果ては世界を食い尽くした

 その結果神をも超えた力を持った

 だがサカシタも負けてはいない

 彼女の消失の力は世界から逸脱している

 新世代と呼ばれる力の持ち主で、リディエラやハクラと同じく世界に選ばれた存在だった

 そして、二人の力は拮抗し、空間が二つに裂けた

 激しい空間の削り合いにより周囲は嵐が吹き荒れるように様々なものが飛び交う

「アアアアアア飛ばされた! 助けてぇええ!!」

 若干一名、アモンがどこかへ飛ばされて行ったが皆サカシタと男の撃ち合いに集中しているため放っておかれた

 五人の中でも最も強い力を持つ彼なら心配ないだろうとの判断故だが・・・

 お互い同じような力ゆえになかなか決着がつかない

 しかし男の方が少し上手なのか、サカシタは少しずつ傷ついている

 それでもサカシタは諦めない

 傷つくのを恐れ、傷つけるのを恐れて震えていた少女はもうそこにはいない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る