勇者の成長7

 支度が済んだアイシスとリドリリは開拓を手伝うためにエルフたちと開拓地へ向かう

 うっそうとした森が広がり、多くの強力な魔物がひしめく危険地帯

 魔族も容易には近づけない場所で、アイシスでも一人で開拓しようとすればかなり苦労するだろう

 だがそれは今までのアイシスであればである

「よし、エルフのみんなは開拓を始めてくれ、俺は出てきた魔物を狩る。リドリリはご飯をよろしくな」

「はい、ですがアイシス、大丈夫なのですか?」

「おう問題ないね、まぁ見てなって」

 アイシスはリドリリにグッドポーズを向けつつ森の中に入って行った

「グギョェエエエエ!!」

「ピギュウウウ!」

「あぎゃぎゃががが!!」

 たくさんの魔物の声が聞こえ、アイシスが襲われ始めたことが分かった

 だがたった数分後、アイシスはたくさんの返り血を浴びた状態で戻ってきた

「よっしゃ、この先一キロほどは魔物がいないぜ、まあまた出たとしても俺に任せとけ」

 リドリリが渡したタオルで返り血をぬぐい、エルフたちに森を見てみるようウィンクをする

 エルフたちは恐る恐る森に入ったが、すぐに感嘆の声をあげた

 魔物の死体がそこかしこに転がり、さらに食用として使えそうな魔物が全て解体されている

 それをあの数分でこなしたのだ

「すごいです勇者様! このアルサナ感服いたしました!」

「でもまだ危険には変わりないからさ、もし襲われたら魔法でのろしでも上げてよ。すぐ駆け付けるから」

「ありがとうございます勇者様。では皆さん! 勇者様のご厚意に感謝しつつ開拓を進めますよ!」

 そこからはエルフたちの魔法によって驚くべき速さでの開拓が始まった

 彼らが行う開拓は一般的な木々を伐採しての開拓とはまるで違う

 植物魔法と言う魔法で木々を動かし、道を作って行くのだ

 エルフ族特有の自然信仰的な開拓で、精霊達も推奨しているやり方だった

「おおすごいな、あっという間に道が出来上がってく」

「はい、そしてこれを通り沿いに埋め込んでいくのです」

 アルサナが手のひらに色とりどりの宝石のようなものを乗せて見せる

「これは?」

「はい、精霊石と言いまして、精霊様のお力が込められた魔石です。これにより魔物は道に近づかなくなるのです。しかもですよ! この精霊石はなんと精霊神となられたリディエラ様のお力が込められているのです! その効果も尋常ではないのですよ!」

 目をキラキラと輝かせ、おもちゃを見る子供のようなアルサナ

「ふむ、確かにリディエラと同じ優しい魔力を感じるな。あいつ出かける前にこんなこともしてたのか。すごいな、俺も負けてられねえわ!」

 その時突然飛び出してきた大型の猿のような魔物を神々からもらった力を使うことなく一撃で屠る

 そう、アイシスも神の力に頼るだけではない成長をしているのだ

 先ほどの魔物の群れですらおのれの肉体のみで戦っている

 自分の成長にアイシスは身震いし、エルフたちの開拓のため魔物と戦い続けた


 数日後、エルフの国への道が開通された

 それに伴いその街道を使う各種族の代表がエルフの国へと派遣され、アイシスを中心に盛大な式典が行われた

 アイシスにはその功績をたたえ、街道にアイシスの名がつけられることとなったが、本人は恥ずかしいからと断固として反対している

 しかしながら各国の代表はそこを譲らず、アイシス街道としての名付けは強行された

「はぁ、俺一応勇者なのに、なんでこんなことに・・・」

「それだけアイシスが愛されているということです。ここにキーラがいたらきっとあの子も喜んだことでしょう」

「ふ、まあ仕方ないか。悪い気はしないしな」

 ニヒヒと笑い、式典を終えたアイシスとリドリリは帰路についた

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