勇者の苦悩4

 アイシスに新たな力が宿ったことを自分のことのように喜ぶキーラ

 それを見て顔をほころばせている親友のリドリリ

 勇者は新たな決意を胸に、黄金兎と黄金猿の力を使いこなす特訓を始めた

 黄金兎の力は金色に輝く兎のような見た目の鎧をまとい、身体能力が大幅に強化される他に魔眼の力が使えるというものだった

 その魔眼を使えば周囲の生物の行動を狂わせることができるようで、相手の行動を阻害できるため強力だが、今のままだと味方にまで影響を及ぼす

 そのためアイシスはしっかりとコントロールする練習を始めた

 その練習にはキーラが突き合うことになったようだ

「じゃあアイシス、我はいつでも準備よしだぞ!」

「ハハ、キーラ、俺の前では普段通りでいいって」

「あ、そっか」

 最近アイシスに会っていなかったためか、キーラは魔王としての言葉遣いになっていた

 普段の彼女は女の子らしい話し方で、リドリリやアイシスなどの親しい間では普段通りにふるまっている

「それじゃあキーラ、少しクラクラするかもしれないけど」

「大丈夫! 頑張ってアイシス」

 アイシスが金色の兎鎧をまとい、魔眼を発動させた

 キーラの周囲にはリドリリが操る魔物がいる

 リドリリの命令でアイシスに攻撃しようとした魔物たちは、一斉に酔っぱらったようにふらふらと歩き始め、その攻撃を阻害される

 しかしやはりキーラにまでその影響が及んでキーラはフラフラと目を回している

「あひゃぁ、宙が回転してるぅ。あ、リドリリがいっぱいだよぉ」

「く、すまないキーラ」

 アイシスが魔眼を解くとキーラはその場にフラフラッと倒れ込んだ

「「キーラ!」」

 アイシスとリドリリが駆け寄るが、キーラはすぐに立ち上がる

「大丈夫! 続けてアイシス」

「で、でもな」

「大丈夫だってば!」

 キーラはグッと胸を張って問題ないとアピールする

 ふぅと息を吐いてアイシスは再び元の位置に戻った

「では行きますよアイシス」

 リドリリが再び魔物たちに指令を送る

 魔物は牙や爪をいきり立ててアイシスにとびかかった

「魔眼!」

 アイシスの目が赤く光り魔眼が発動

 そのとたん魔物たちはどさりと地面に倒れ、またも酔っぱらったようにふらふらとし始めた

 アイシスはキーラの方を見る

 今度のキーラはキリッとした目でアイシスを見つめていた

「成功、したのか?」

「うむ、我全く問題らいぞ!」

 呂律が回っていない

 先ほどよりは影響を受けていないようだが、まだ魔眼に狂わされているようだ

「すまないキーラ、まだ駄目みたいだ」

「らいじょうぶ! アイシスならきっとうまくいくろ!」

 回ってない呂律で一生懸命伝えるキーラをアイシスは愛おしく思った

「ありがとうキーラ、もう一度頼めるか? 次で掴めそうなんだ」

 さすが勇者と言うべきか、スキルを使うセンスはそんじょそこらの冒険者などよりはるかに優れており、数回で魔眼の性質を理解していた

「ではもう一回、キーラ、無理をしてはいけませんよ」

「大丈夫だよリドリリ、私だってこれに耐えて修行してるんだから」

 キーラは小さいとは言っても魔王である

 アイシスが手加減しているとはいえ、普通なら立っているのもやっとな魔眼を耐えきるだけの実力はあった

 そしてリドリリの指令が響き、再び魔物が動き出し、アイシスが魔眼を発動

 魔物はどさりと転がり、キーラはと言うと

「おお、クラクラしない! アイシス、私クラクラしなくなったよ!」

 どうやら魔眼を使いこなすことに成功したようだ

 アイシスは自らの成長を実感し、顔には美しい笑みが浮かんでいた

 問題は次である

 黄金猿の力

 未だ発動させていないこの力はどんなものなのか未知数である

 当然キーラ相手に使うのは危険なため、魔国周辺の魔物を相手に試してみることになった


 魔王城から城下町、城下町から門へと歩き外へ

 魔国は街から出るとすぐに魔物に遭遇するため、通常道から外れることはない

 道には魔物が嫌う精霊石という特殊な石を等間隔で設置しているため、魔物が寄り付くことはないが、道から一歩外れれば危険な魔物の宝庫である

 当然アイシスたちは道を外れ、魔物と遭遇した

「これはヌルスライムですね。獲物を包んで溶かして喰らう危険なスライムです」

 大きさは二メートルほど、色は真っ赤でその中心に血のような色の核がある

「よし、こいつで試してみるか」

 このスライムは核を砕けば倒せるためそこまで強くはないし、かなりの数が魔国周辺に蠢いている

 試し打ちにはもってこいの相手だった

 アイシスは黄金猿の力を発動してみる

 すると今度は金色に輝くロッドが飛び出した

 そのロッドはまるで長年連れ添った相棒かのように手によく馴染む

「おお、これはまた扱いやすそうな武器だな」

 アイシスはロッドを振る

 すると体とロッドからバチバチと雷が流れた

「うおっとアブねぇ。大丈夫かキーラ、リドリリ」

「う、うん、ちょっとびっくりしたけど」

 リドリリもコクコクとうなづく

 アイシスはロッドをくるくるとまわし、スライムの核に向かって突き入れた

 そのとたんバチッと激しい音がして、スライムの核は黒焦げになる

 核を破壊したのは良いが、それ以前にスライム自体が蒸発して消えてしまった

「うお、ヤバイ攻撃力だなこれ」

 どうやら黄金猿の力は金色のロッドを自在に操れる上に、自身に雷の力を付与できるようだ

 もともとロッドの扱いには慣れていたため、黄金猿の力はすぐに習得できた

 

 そしてその日の夜、再び夢を見ることになる

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