勇者の苦悩2

 魔国へと帰って来たアイシスはすぐにキーラの元へと走った

 自分を慕ってくれる可愛い妹、それがアイシスにとってのキーラへの印象だ

 当然キーラも姉のように慕っているため、はたから見れば仲良し姉妹のようだ

 どこかの白黒姉妹のような危ない関係ではなく、本当の意味での仲良し姉妹

 アイシスは自分でも気づかないほど舞い上がり、スキップをしていた

 どうみてもただの少女だ。周りも微笑ましく見ている

 だが魔族はその全員が彼女が勇者だと知っている

 そしてキーラや魔国を守り導いてくれる存在として尊敬している

 その反面アイシスに普通の少女として幸せになってほしいとも思っていた


 魔王城に着くとすぐにキーラの元へと走り補佐官であるリドリリを通してキーラに再会した

「アイシス!」

 普段はキリッと気を張っている魔王キーラだが、リドリリとアイシスの前では素に戻る

 本来の子供らしい彼女に戻るのだ

「元気にしてたかキーラ。一応仕事が終わったから戻って来たぜ」

「会いたかったよアイシスぅ!」

 アイシスはキーラを抱き上げその頭を撫でた

 その様子は本当に姉妹のようで、キーラの幼馴染であるリドリリもそれを幸せそうに微笑んで見ている

「さて、ちょっくら風呂でも入ろうかキーラ、これまでの話を話して聞かせるからさ」

「おお! 入る入る!」

 三人は連れ立って浴場へと歩く

 普段キーラはお付きのメイドたちに洗われるのだが、この時ばかりは三人のみだ

 アイシスの冒険話を聞くのがキーラにとって最高の憩いであるため、メイドたちとは入浴しない

 服を脱ぐとタオルを持って入り、三人で仲良く体を洗って湯船につかった

 それからアイシスの冒険譚で話は盛り上がり、キーラがのぼせて真っ赤になるまで続いた


 キーラと夕食を食べ、キーラの寝室へとやってきたアイシス

 普段は一人で寝ているキーラだが、アイシスがいる時は一緒に寝るのが五十年前からの通例だ

 親の愛を知らずに育ったキーラにとってはアイシスは姉であり、親でもあった

 安心して眠るキーラの横でアイシスは考える

 どうやったら強くなれるのか、再び勇者としての力を取り戻せるのか

 元神である精霊の女王でもその方法は分からなかった

 神々との交流もある彼女でも分からなかったのだから、もはや無理なのではないのかと思い始めていた

 地力をあげようにも、彼女の肉体的な成長度合いは既にこれ以上ないほどに鍛え上げられている

 手づまりを感じざるを得なかった

「はあ、この子を守るためにも、もっと強くならなきゃだってのに、俺は強くなれない、それなのに異世界からの危険な魔物や異世界人は増えやがる。リディエラや鬼の姉妹みたいに俺も・・・。だが俺は不老不死ゆえに仙人にはなれない。何も、できない」

 またため息をついてアイシスは眠りについた


 その夜の夢の中、アイシスは不思議な夢を見た

 たくさんの兎が自分の周りをくるくると飛び回っている

 その兎たちは黄金色に輝いていて、まるで自分の中の何かのような不思議な感覚があった

 アイシスがその兎のうちの一羽に手を伸ばすと、うさぎはぴょんと跳ねてアイシスの胸に飛び込んだ

「えっと、うさぎちゃん、君は何なんだい?」

 兎はキョトンとした顔をして首をかしげてみている

 その兎は突然金色の光を残して消え、その光はアイシスの中へと入って行った

「なんだこの兎たちは・・・」

 分からないままに兎たちはぴょんぴょんと次から次へと飛びあがり、光となってはアイシスの中に入って行った

「わ、わわ、なんだこれ! なんだこれ!」

 驚くが、全く悪い気はしない

 心が温かくなっていくような感覚に段々と気分が高揚してくる

 気持ちよく、心地よく、変な声が漏れるが全ての兎が入り切ったことによりアイシスの体に変化が起きた

 黄金色の鎧、頭には兎の顔を模した兜が張り付く

「な、なんだこれ、この鎧、それに力が・・・」

「ふひぃ、ようやく受け取ってもらえたっちか。これであなたも今日から神将! おいらの力を受け取ったからにはしっかり働いてもらうっちよ!」

 幼女の声が頭に響く

「誰だ、君は」

「まぁそこはいいじゃん。あと十一の力を受け取ってもらうから、また夢で会おうっち!」

 幼女の声が消えた

 そこでアイシスは目が覚める

「夢?」

 しかし今受け取ったと思われる力は体の中にある感触がする

 試しにその力を引き出してみた

 すると黄金の鎧が体にガッチリとはまり、まるでどこかの黄金騎士を思わせる

「何で突然、俺一体どうなっちまったんだ?」

 訳が分からないが力が明らかに増していることが分かり、悪い気はしなかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る