新国アンデッドの国6

 そういえばエドガーの仲間が来るかもしれないって話なんだけど、サクラさんが言うにはすでにこの世界から去ったらしい

 どうやら先ほどすでにここに来ていたらしくて、サクラさんが目で脅すと逃げて行ったそうだ

 うん、サクラさん怖い

 そんなサクラさんに引っ張られて僕らは温泉へと到着した

 今は小さな体に戻っているのに、力はとんでもないサクラさん

 ホント単純に力だけでも僕らは足元にも及んでいない

「さぁ一緒に入りましょ。あ、混浴だけどカイト君はあっちに入りなさい」

「いや僕はもう帰るから。あの二人にもまだ教えることがあるし」

「あらそう? じゃあまた後で会いましょうか」

「うん」

 カイトさんはペコリと会釈すると帰って行った

 この世界最強の三人の中で一番の常識人だなぁ・・・

「ほらほら何してるの、行くわよ」

 サクラさんに再び引っ張られて中へと連れ込まれる

 ちなみにアンミツ姫はなぜかサクラさんの前ではおとなしい

 それどころか甘えた感じでサクラさんの後ろにぴったりとくっついて離れない

 数万年ぶり?くらいに再会したせいもあるのか、べっとりと甘え切ってる

「ほらアンミツちゃん、ちょっと歩きにくいからもう少し離れなさい」

「いやじゃいやじゃ。わらわはサクラと一緒におるんじゃ!」

 おお、あの凛々しいアンミツ姫が駄々っ子のように

 これはこれで可愛いくて思わず微笑みがこぼれる

「はぁ、あなたの甘え癖も全然治っていない、むしろ加速してる気がするわね。まあ可愛いからいいのだけれど」

 サクラさんはアンミツ姫の頭を撫でる

「この子の名前、遥かな昔にこの世界に来た異世界人がつけたものなのよ」

 そう言うとサクラさんはその異世界人のことを話してくれた

 見た目は頼りなさそうで、優しくていつもニコニコと笑う少年

 しかしながらその力は絶大で、龍族の国で暴れていた神話級のヒュドラという魔物をいともたやすく倒し、当時姫だったアンミツ姫を救ったそうだ

 その時アンミツ姫は彼に忠誠を誓う、もとい半ば強引に嫁入りを果たし、その証として名前をもらったそうだ

 だからこそ彼女はアンミツ姫という名前を大切にしていて、様をつけて読んだりすると激怒する

 龍にとって名前は一番大事なものらしい

 まあ龍族に限らず名前は大切なんだけどね

「彼はその後どうしたのですか?」

「行方不明です」

「え!?」

 どうやらこの世界では数万年前に大きな厄災が異世界よりもたらされたらしくて、当時この世界に迷い込んだ異世界人たちと共に彼は勇者としてその厄災に挑んだ

 その結果厄災はなんとか退けたものの、数人の異世界人が行方不明となってしまった

 彼らの死体が全く見つからなかったことから行方不明とされたんだけど、それはアンミツ姫の願いでもある

 彼がまだ生きていて、いつか帰ってくると信じているんだ

 それも会って名前をずっと大切にしてるって言うのもあるんだろうね

「サクラ、わらわの昔話はよいから早く体を洗って湯につかるぞ! ほれ、洗ってくれ」

「まったくもう、自分で洗いなさいよ」

 ブツブツと文句を言いながらもアンミツ姫を洗ってあげてる

 仲睦まじい姿にまたほっこりするね

「せ、せいれ・・・リディエラちゃん! 私もリディエラちゃんを洗いますよ!」

「え?」

 いきなりガシッと体を掴まれたかと思うと、白黒姉妹にもみくちゃに洗われた

 激しいかと思いきや二人とも繊細な洗い方をしてくれて、なんだか変な気分になる

 僕が洗い終わったら次はクロハさん、そしてハクラちゃんを洗ってあげた

 まぁ背中の流しっこなんだけどね

 それにしても友達とのこういったやり取りも楽しくていいね

 洗い終わったらみんなでのんびりと湯船につかりながらサクラさんのかつての話を聞いた

 その昔この世界には今よりもたくさんの神話級魔物の流入があって、その侵攻を三人で食い止めていた

 中でも鬼神に成りたてだったサクラさんは自らその力を切り開き、圧倒的な力で神話級を打ち倒していたらしい

 それだけじゃなくて、世界の発展にも貢献していたんだとか

 たった一人で橋を掛けたり、切り立った崖に階段を作って上り下りができるようにしたり、鬼ヶ島への航路を確立させたのも彼女なんだとか

 昔は海にも危険な魔物がうようよいたから船の発着が難しかったんだけど、彼女はその辺り一帯の危険な魔物を遠ざける特殊なオーブを生み出して設置

 それ以来ずっとそのオーブは機能してるみたいだ

「あの頃は本当に大変じゃったのおサクラ」

「ええ、でも皆が頑張ってくれたから今みたいな平和が築かれているのよ。私一人じゃどうしようもないもの」


 たくさんの話を聞いたけど、お風呂から上がってエルナリア姫に用意してもらった宿でまたいろいろな話を聞いた

 こうして貴重な昔話を聞きつつ、夜は段々と更けて行った

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