蟲人族の国1

「蟲人族の国での目撃証言がありました。あの国には大甲虫サファイアビートルという神獣がいるのですが、それの様子がおかしいようです。普段は樹液を吸うだけで無害、むしろ森を守る優しい神獣なのですが、ここの所森を逆に荒らしているとの情報があるのです。その時傍らにフードを目深にかぶった何者かがいたそうです」

「なるほど、十中八九奴らの仲間だろうね」

 シノノの情報を頼りに僕らは蟲人族の国へ飛んだ

 蟲人族の国は深い深い森の奥地にあって、黒族による近代化が進む中、自然と共にある優しい種族が住む国だ

 彼らは植物人族と同じように女王主体の生態系で、オスがいない女性だけの種族

 オスが生まれるのは百年に一度で、その時一緒に王女も生まれる

 王女とそのオスはつがいになって、次の世代の働き手と呼ばれる蟲人族を産むと、オスはその役目を終えて眠るように死んでしまうんだ

 ただ生殖のためだけに生まれるオスだけど、実はその生殖の前に種族が襲われたりするととんでもない力を発揮する

 その力はまさに火事場の馬鹿力のようなもので、一瞬だけだけど神に近づくほどの力を持つ

 それに女性たちも普段戦わないだけでその強さは妖精族にも引けを取らないほどの実力がある

 怒らせたら怖い種族ってことだね

 

 やって来たのはエルフの住む森からさらに東に進んでもっともっと深い森の奥の方

 そこに蟲人族は住んでいた

 一応別の国にも住んでたりはするけど、女王の近くにいないはぐれの蟲人族は大体が寿命が近い人たちらしい

 まぁ見た目からだと年取ってるのか分かんないんだけどね

 エルフと同じように見た目が変わらず若いままだからね

 で、国の中に入ったとたんたくさんの蟲人族が僕に膝ま付くように頭を垂れた

「ようこそおいでくださいました精霊様」

 膝ま付いている蟲人族の女性たちの間から出てきたのは女王

 蟲人族は昆虫の体と人間の体が合体したような姿の人達で、女王は蜂の女性だった

「こんにちは、実は影の精霊から聞いたんだけど」

 僕は事情を説明して女王の言葉を待った

「はいその通りでございます。サファイアビートルはこのところ暴れまわっておりまして、ほとほと困り果てているところでございました」

 蜂女王の名前はビュゼさんって言うらしい

 彼女は必死でサファイアビートルになぜ暴れているのか理由を問うたけど、まるで聞く耳を持ってくれなかったんだとか

 ちなみにサファイアビートルは話せる神獣みたいで、名前もちゃんとあるそうだ

「サファイアビートル、私達はサフィと呼んでいるのでございますが、彼女は本来優しく穏やかな子で、あのように好き勝手暴れるような子ではないのでございます」

 なるほど、やっぱり何かに操られてる可能性は高そうだ

「よし、僕らに任せてよ」

「ありがとうございます精霊様」

 ビュゼさんがうやうやしくお辞儀をすると、それに続いて蟲人族の女性たちが一斉にお辞儀をした

 統率の取れた動きだ


 早速僕と鬼神二人でそのサフィというサファイアビートルが暴れている場所までやってきた

 でも暴れてるって言ってた割には木々が少し折られてたり、引っこ抜かれてたりしてるくらいだ

 もしかしたら少し理性が残っててなんとか必死で押さえようとしてるのかもしれない

 木々が倒れているのを追って行ってみると、巨大な青く輝く美しいカブトムシがゴソゴソと動いていた

 女の子だからツノはないみたいだ

「えっと、サフィちゃん?」

「うぐぐぐぐ」

 サフィちゃんはこっちを向くといきなり突進してきた

「うわっと、危ないですねぇ・・・。うわ、精霊様これみて下さい。大木が一瞬で押し倒されました」

 直径十メートルはありそうな巨木があっさりとなぎ倒されてる

 そしてサフィちゃんはまたしてもこっちに突進してきた

 動きはそこまで速くないけど、当たれば無事では済まない

 なんとこの突進魔力がかなり込められていて、精霊である僕の体を十分に破壊しうるんだ

「精霊様、私がおとりになるのであのカブトムシを正気に戻してください」

「うん、気を付けてねクロハさん」

 クロハさんは自分の分身を影から創り出すとサフィちゃんを翻弄し始めた

 そこかしこに現れるクロハさんの分身にサフィちゃんは攻めあぐねていた

 そこを僕は魔力を思いっきり込めた拳骨で頭辺りを殴った

「どう、かな?」

 脳震盪を起こしたようにサフィちゃんは動かなくなる

 しばらくすると目を覚ましたみたいでキョトンとこっちを見ていた

「は、あれぇ? あちし何してたの? 何か記憶があいまいって言うかぁ。あれぇ?」

 どうやら無事元に戻ったみたいだ

 これで甲虫の神獣じゃなかったら頭が吹き飛んでたかもしれない

「あ、もしかして精霊様? うわあちし精霊様初遭遇かもぉ」

 なんというか、現代っ子みたいな女の子だ。鬼神の一人、マリハさんを思い出す

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