精霊の国3

 意識が混濁している中、まるで夢の中にいるような感覚になっていて、今まで母さんと過ごした日々が映画を見るかのように流れていく

 母さんはいつも優しい笑顔で笑っていて、僕を大切に抱きしめてくれた

 あの優しい母さんは僕を守って魂を壊された

 僕の、せいだ

 そう思ったとき目が覚めた

 視線を下に向けて母さんを見る

 目を開けず、段々と消えていく母さんの手を僕はギュッと握っていた

 精霊に死体は残らない。魂があれば死してもそのまままた精霊に転生して記憶を引き継いだまま新しい精霊生を生きることができる

 でも、母さんの魂はさっき敵に砕かれてしまった

 もう蘇ることはない

 僕は悔しくて寂しくて母さんを失ったという喪失感で涙があふれて止まらない

 敵はハクラちゃんたちが防いでくれているけど、僕は助けに向かうことができないでいた

 その時僕の頭上でバチバチと音がして何かが弾けた

「リディエラちゃん! お姉ちゃん!」

「シルフェイン! おおなんということなのですか!」

 そこから現れたのは母さんの妹女神、妖精祖神のエルリウラさんと知らないお兄さんと光り輝くお姉さんだった

「あなたがシルフェインの娘のリディエラですね。私はそうですね、あなたの叔父にあたる神です。名をラシュア、天空の神にして神々のまとめ役をしている者です」

「母さんの、お兄さん?」

「そしてこの子は光の女神イナミリア。彼女は大神の力を受け継ぐ私達の中でも神々を作り出すことに秀でた女神です」

 後ろにいた光り輝くお姉さんはわずかに微笑んで僕の頭を撫でた

「やぁ、僕はイナミリア、君との関係は叔母になるのかな? まあ僕は女神で二番目に若いからあんまり叔母さんって呼んでは欲しくないけど。とりあえずシルフェインさんを治すところから始めるとしよう」

 イナミリアさんはそういうと手のひらに光を集めた。その光に向かって砕き散った母さんの魂がみるみる集まって一塊になる

「これをこうしてよいしょっと。ほら元通り」

 綺麗な虹色の輝きを取り戻した母さんの魂はイナミリアさんの手でゆっくりと、ぽっかりと空いた母さんの胸に戻された

「ふぅ、これでよしっと。まだ安定はしてないから戦いや魔法を使ったりはできないだろうけど、かつて一度死んだことのある女神、とっさに欠片を残すコーティングをしていたのが幸いしたよ。でなければ今頃完全消滅してたはずだからね」

「ありがとうございますイナミリア様!」

「様はいらないかな? 僕って君の叔母さんであるわけだし」

 イナミリアさんのおかげで母さんは何とかなりそうだ

 目はまだ覚めないけど、これで僕も戦いに行ける!と思った矢先にすでに決着はついていた

 ハクラちゃんとクロハさんに抑え込まれた敵は既に手足を切り落とされて無力化されている

 その切り落とされた手足がまた異様だった

 くっついている間は普通の腕だったのに、地面に落ちたその腕はミイラ化してそのまま砂になって消えてしまった

 僕の腕もだ

「ああ、私達はまたなれなかった」

「ああ、人になりたい。人形はもう嫌」

 不気味なことに二つの人形は今まで人のように見えていたのに、今は能面のような無表情の人形そのものとなっていた

 やがて喋らなくなり、カタカタと震えて人形は動きを止めた

「これは、生き人形・・・」

「生き人形?」

「うん、魂を求める哀れな人形で、大昔に神に近い力を持った天人族が作ったと言われている人形だよ、それが何でこんなところに? 天人族は既に滅んだはずなのに」

 とりあえず生き人形についてはラシュア様やエルリウラさんが調べてくれるみたい

 僕は眠ったままの母さんを抱え上げると母さんのベッドに寝かせた

「テュネ、母さんのことお願い」

「かしこまりました」

 僕はもう精霊の女王だ。それならば今なすべきことをやらなくちゃ

 今の騒ぎで傷ついた人々や精霊を癒す。そんな僕に近づいてくるハクラちゃん

「せ、精霊様・・・」

「ありがとうハクラちゃん、おかげで皆無事みたい」

「申し訳ありません。私達がもう少し早く着いていればこのような事態には」

「クロハさんのせいじゃないよ。僕が不甲斐なかったんだ。せっかく力を手にいれたって言うのに、これじゃ情けないよね」

「そんなことはありません!」

 ハクラちゃんは僕の手をギュッと握る。痛いくらいに

「精霊様は皆を守ろうと必死でした! そのおかげで私達は敵と相対することができたのです。それにほら、誰も精霊様を攻めたりしません」

 顔をあげるとそこには僕を真っ直ぐに見つめる各国の首脳たちがいた

 怖い思いをしたであろう人達も僕を笑顔で見ている

「僕は、精霊の女王でいいのかな?」

 問題はあった。みんなを傷つけさせてしまった

 それでも皆僕を拍手で迎えてくれた

 そこに嘘はなく、こうして僕は晴れて精霊の女王となった

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