翼人族の国再び8

 次に来た階層も空中に浮かぶ島のようなところで、景色は先ほどとほとんど変わらなかった

 大きな広場に木が一本だけ生えていて、横に次の階層への扉があるのが見える

 その木の近くにさっきと同じように翼を持った人が立っているみたいだ

 今度の人は鳥人族で、顔は雉に似ている

 その人はこちらに気づくと嬉しそうに駆け寄って来た

「おお、来たね来たね。吾輩はヤコ様が天使の一人でテバと申す者ですよ。ヤコ様から役目を賜ったからには真面目に愚直に全力で務めさせていただく次第ですよ」

「は、はい、よろしくお願いします」

「いい返事だと思いますよ。ではここでの試練を説明するとですね、吾輩から五分間逃げるだけ、つまり鬼ごっこをしてもらいたいわけなのですよ。お分かりですか?」

「はい。あ、逃げるって言うのはこの島の中だけですか?」

「いえいえ、それだとすぐ捕まえてしまいますよ。この空ならどこまでも逃げてよいのですよ。で、あるからして吾輩は全力で、最初から全力で事に当たらせてもらおうと思っているのですよ」

「分かりました。ではもう逃げてもいいのですか?」

「いいですよ。吾輩が二人とも捕まえれば吾輩の勝ち。この迷宮攻略はきっぱり諦めて故郷に帰って平和に暮らせばいいのですよ。あなたたちどちらかが五分間逃げ切ればあなた達の勝ちですので次に進むといいですよ。では早速逃げるといいですよ。ハンデとして吾輩は一分間待ってあげるですよ」

「え、一分も!?」

「それだけ自信があるのですよ。三分でも捕まえる自信があるのですから当然のことですよ」

「それじゃぁ僕らは、逃げさせてもらいますね!」

「精霊様!」

 僕はハクラちゃんの手を取って宙に浮かぶと物凄い速度で一気に加速

 グングンと速度が上がって行って、すでに音速を超えている

 そしてテバさんが一分を数え終わるころにはもう島も何も見えなくなってて、辺りには雲しかなかった

「ここまで逃げれば五分程度じゃ追いつかないでしょうね」

「うん、でもなんか胸騒ぎがするんだ。僕らが空を飛んで逃げるなんて神様の使いの天使なら分かるよね? それでも一分間待つって言ったんだよ彼女は。それってつまり」

「追いつく、と?」

「分からないけど、もっと遠くへ逃げた方がいいと思うんだ」

「そうですね。では行きま、あれ?」

 ハクラちゃんの後ろに何かいる!?

 しかもそれはハクラちゃんの腕をしっかりと掴んでいた

「捕まえたですよ一人目!」

「えええええええええ!!!」

「精霊様逃げて!」

 驚いて僕は転移を使ってその場から逃げた

 ハクラちゃんが逃げてって言わなかったら動けなかったかも

 フーと息を吐きだすと気配が迫ってくるのが分かった

「げ、もう追いついて来てる!」

 また慌てて転移で逃げようとすると、その魔力の流れを風で断ち切られた

「逃がさないですよ!」

「ひぃ!」

 速すぎる。いくらなんでも彼女速すぎるんだけど!

 転移をかき乱されたので今度は単純に空を飛ぶ速度をさらに上げて逃げた

「無駄ですよ!」

「嘘! 僕と同じ速度が出せるなんて!」

 自慢じゃないけど僕の空を飛ぶ速度は風の精霊フーレンの教えによって精霊の内でも屈指の速さだ

 そんな僕にぴったりついてこれるって、天使ってやっぱり神様の側近だけあって実力がすごいんだ

 魔力でブーストをかけてもテバさんは同じように神力でブーストをかけてくる

 もう少しで追いつかれるってところで島まで戻ってきてしまった

 仕方なく僕は急ブレーキのように島に降りて走った

「あああ! それはいかんですよ!」

「え?」

 走り出した僕をテバさんは必死で追うんだけど、テバさんは走るのが鶏ぐらいの速さだったため僕に追いつけずにその場にばててしまった

「走るのは、苦手なんですよ」

「飛んで追いかければいいんじゃ」

「あ! そうですよ! ついつられて」

 テバさんがしまったという顔をしたところで五分経過のベルが鳴った

「ぬああああん吾輩としたことがぁあああ! なんとバカなことを!」

「僕らの、勝ちですかね?」

「そうですよ。君たちの勝ちなのですよ。ああ、吾輩こういうところがあるから未だにヤコ様に怒られるんですよ。はぁ、あとでまた怒られるですよ。憂鬱ですよ」

 怒られるのか、まぁそれは仕方ないね

 落ち込むテバさんを尻目に僕らは扉をくぐって次の階層へ

 テバさんの後ろ姿には哀愁が漂ってたよ


 お次の階層ではさっきの島よりもさらに大きな島になってて、そこには世界樹くらい大きな木がそびえ立ってた

 誰も見当たらないからその大きな木の下まで来てみると立て札があった

「えっとなになに、木を登って頂上を目指しなさい。その頂上にわたくしがいますわ。だって」

「誰なのでしょうか?」

「たぶんヤコ様じゃないかな? なんか偉そ、おっと失言。威厳ある感じだし」

「ふふ、そうですね、登ってみれば分かると思います」

「そうだね、じゃあ登ろうか」

 僕とハクラちゃんは宙に浮いてそのままてっぺんまで行こうとしたんだけど、木の周囲に魔法がかかってるみたいで飛べなかった

 仕方なく木をよじ登ることにしたよ

 まぁ葉っぱもかなり大きいからそこで休めそうだしね

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