桃源郷9

 六階層まで降りて来ると今度は紫色の煙が蔓延している広場に出た

「気を付けてください精霊様、この煙には毒が含まれているようですので吸いこま・・・。精霊様は精神生命体でしたよね? 呼吸はしてない、ですよね? 私は一切毒が効かない体質ですのでこの程度の毒霧は問題ありませんし」

「そうだね、僕も毒は大丈夫かな。これが魔力に作用するなら危ないけど」

「そのような様子はないみたいですね。でしたら私達にとってはただの霧ですね」

 猛毒であろう霧の中を進むと霧を必死で振りまいている紫色の猫がいた

 かなり必死で、その様子が可愛いからマコさんが恐るべき速さでその猫ちゃんを捕まえた

「ギニャァアアアアアアア! ダレにゃ! なんにゃ! 放すにゃ! この高貴なバスティニャン様を掴むとはなんと無礼なやつにゃ!」

「す、すみませんつい」

 マコさんが慌ててバスティニャン君をおろす

 どうやらこの子は男の子らしい

 降ろされたバスティニャン君はケホンと咳ばらいをしてこっちを見る

「何でお前ら僕の毒が効いてないにゃ? 僕はこれでも毒のスペシャリストにゃ。人間ならたちどころに・・・。お前ら人間じゃないにゃ?」

「うん、精霊と仙人だよ」

「げっ、そんなの聞いてないにゃ! くそー、こうなったら実力行使させてもらうにゃ!」

 バスティニャン君は爪を出すといきなりこっちにとびかかって来た

 それをマコさんがあっさりと捕まえた

「ンニャアアア! 放せにゃ! 卑怯にゃよお前! まずは僕の攻撃を受けて死んでから攻撃してくるのがセオリーってもんにゃろ!」

「む、無茶苦茶言ってるよこの子」

「早く降ろすにゃあああ!」

 仕方なくまた降ろしてあげると

「隙ありにゃ!」

 また爪で攻撃してくるけど今度は僕が首根っこを掴んで止めた

 こうすると猫は動けなくなるんだよね

「にゅぁああ、もうだめにゃぁああ」

 ダルんと垂れ下がったバスティニャン君はあきらめたかのようにおとなしくなる

 それをまた地面に降ろしてあげると彼は深ーくため息をついた

「僕は生まれてこの方この力で負けたことが無かったにゃ。せっかく妖猫になって力を得たんにゃから使わない手はにゃいとたくさん悪いことをしたにゃ。でも、ニャコ様に思いっきりボコボコにされて、それでニャコ様のために働くと決めたのにゃ。あの方はこんな僕を優しく諭してくれたにゃ。最初はボコボコにされたけど、あの方のためにゃら僕はこの命おしくにゃいにゃ。正直、あの方においらはぞっこんなのにゃ」

 なんだか聞いてもいないことまでどんどん自分語りをしてくれるけど、通ってもいいのかなもう

「ニャコ様のためにここは通さないと決めてるにゃ! うにゃぁあああああ!」

 マコさんがすっと手を出して捕まえた

「んにゃぁあああ、もうだめにゃぁああ」

 まただらんとなったのでそっと地面に置いて僕らは七階層への階段を降りていった

 ポカーンとした顔でこっちを見てたけどまぁいいでしょう

 ただただ可愛い階層だったよ


 七階層に来るとそこは極寒と言っていいほどの寒さだった

 僕は大丈夫だけどマコさんが震えているので

「ヒートサークル」

 マコさんに周囲に温かい結界を張っておいた

「ありがとうございます精霊様、とても暖かいです」

「うん、その結界は動きを制限しないからいくら動いても大丈夫だよ」

 それにしてもこの猛吹雪で視界が遮られる

 前に進むのすら大変だよ

 雪をかき分けて少しずつ前に進むと吹雪が吹いていない場所があった

「ここで少し休憩しよう」

「はい」

 そこら一帯はなんだか暖かくて、柔らかくて座れそうなキノコが生えていた

 それに座って休んでいると吹雪の中から猫耳の生えた雪女のようなお姉さんが突如として現れた

「あらあら、もうここまで来てしまわれたのですね。ですがこれ以上先へは進ませませんよ」

 そのお姉さんは魔の微小をこちらに向けて来る

 男の人なら思わず見とれちゃうと思うけど、僕らには効かない

 警戒しているとその人はフッと息を吹きかけてきた

「まずいです精霊様! これは雪女族の死の伊吹、体が一瞬で凍っ」

「マコさん!?」

 マコさんがカチカチに凍ってしまった

 ヒートサークルの中にいるはずなのに完全に凍ってるよ

「まずい、全然溶けない!」

「フフフ、早く私を倒さないと、その子、死んじゃうわよ。まあここでは死んでも外に排出されるだけみたいだから、持ち帰れないのが残念なのだけれど」

「いいの? そんなこと教えて。つまり君を倒せばマコさんは元に戻るってことだよね」

「ええ、でも私は強いわよ? この世界よりも上の世界から来たんだから」

「この世界よりも上?」

「そうよ、世界というのは一つじゃないって言うのはあなたも知っているでしょう? 平行にある世界の上にも下にも世界があるの。さしずめここは中の下の世界、より上位の世界の者には敵わないと言うのが常識よ」

 その人は雪の花を体にまとうと素早く僕の目の前へ踏み込んだ

 その突進を光の盾で防ぐと弾き飛ばされ猛吹雪の中に放り出された

「くぅ、いたたた、何て力なんだ」

「ほらほら、よそ見は駄目よ」

「うわっ」

 激しい連続攻撃に推され始めるけど、僕もただ押されるだけじゃないさ

「魔法合成、サニフレア!」

 圧倒的な熱量を誇る魔法だ。これならこの人に大ダメージを与えられるはず

「ぐぬぬ、私よりも下位の世界の住人がこれほどまでの力を!」

 あ、服が全部溶けちゃった上にこの人、あれだけよかったプロポーションが見る影もなくなってる

 つまり、力を失って子供になっちゃったんだ

「くぅ、口惜しい! こんな身体じゃ力をうまく使えないわ! 帰る!」

 あらら、本当に帰って行っちゃった

 彼女は雪女と猫又のハーフらしくて、その妖力はこの世界の妖怪族をはるかに凌駕していた

 結構強敵だったけど、明らかに弱点が熱だったからね

 マコさんも無事元に戻ったから結果オーライ

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