竜人族の国8

 “秘湯湯王ひとうゆおう十泉じゅっせん

 ここは知る人ぞ知る秘湯にして迷宮だった

 まず隠されているので本当に知っている人が少ない。ここを知っているのはこの国でも五人ほどだとか

 迷宮としての難易度も人を寄せ付けない要因みたいで、ランクはB以上はないと難しいみたい

 まぁBランクでも十人以上はいないと無理だとラキアさんは語っていた

「この迷宮は他と違いまして、全十階層で一階層クリアするごとに特別な温泉に入れるようになっているのです」

 ラキアさんの説明によると、一階層クリアする度にそのフロアが変化して温泉になるみたい

 しかもその温泉は次の階層をクリアするために有利な効果を付与してくれるらしい

 さらに言うとこの迷宮の温泉は他のどんな温泉よりも気持ちいいというからちょっと楽しみ

 でも一つ入るために結構な苦労をするみたいだからそこは厄介かな

「まあまあリディエラ様、私がいれば何の問題もありませんよ。精霊様達は私がお守りします」

 ラキアさんは自信満々で僕に跪いて僕の手にキスをした

 恥ずかしいなぁもう

 でも悪い気はしないね。ラキアさんイケメンだから

「さて、入りましょうか」

 ここは他の迷宮と違って許可証はいらない。国が管理しているわけじゃないからね

 岩の扉だ。かなり重たそう

 でも扉は軽く押すとすんなり開いた。どうやら挑戦の資格がある人が触ると勝手に開く仕掛けみたいだ

 僕らはこの迷宮に認められたってことかな?

「当然です。精霊様は人類の守護者でありますからね。私も人を守るため力をつけました。ようやくSランクに到達できるのです。目指すは神話ランクですよ」

 ラキアさんなら本当になりそう。でもそれには人間の殻を打ち破らないと駄目かも

 人間は進化しない種族だと思われていた

 でも実はこの世界の人種は進化できる

 エルフがハイエルフやロードエルフなどに進化したり、ドワーフ族やゴブリン族、翼人族も妖怪族も、皆実は進化することができるんだ

 でも、昔は人間族だけ進化できないと言われていた

 それを打ち破ったのが仙人族になった人間たちだ

 独自の修行や生活習慣で人間としての殻を破った人達が出て来たんだ

 仙人は半分精神生命体で、寿命が圧倒的に長くなる

 そこからさらに成長、精神的に上位の存在になると神仙になるらしい

 過去神仙になったのはたった二人で、すでに亡くなったっていわれてるけど、実はこの世界から別の世界へと旅立っただけらしい

 この話は元女神だった母さんから聞いた話なんだけど、進化というのは神様でもよく分かっていないことらしい

 進化するに相応しい人や生物に世界が進化という力を与えているんだとか

 つまりハクラちゃんもクロハさんも世界に認められたってことだね

 まぁ進化のことはまた今度考えよう

 さて、中はどんな感じかな?

「おお、硫黄の香りが鼻をつきますね!」

 ラキアさんが叫ぶ。確かに硫黄臭いね


 第一階層

 硫黄の臭いが立ち込めている広い空間の真ん中に、大きな鎌を背負った真っ黒な人影が立っていた

 ここでは有毒なガスが蔓延しているからラキアさんを結界で包んでおこう

「ありがとうございます精霊様。先ほどから息苦しかったのですが、これのおかげで楽になりましたよ」

 顔色悪かったもんね

 で、あの人影は近づかないと攻撃してこないのか、微動だにしない

 試しに近寄ってみる

「リディエラ様、危ないですよ」

 僕を守るためにテュネが一緒について来てくれた

 黒い人影まで三メートルほどの距離に近づいたとたん、そいつはガバッと首をあげてこちらを見た

「ヒュヒィッ!」

 覚悟はしてたのにびっくりして変な声が出た

 黒い人影には顔があるんだけど、まるでマネキンみたいだ

「なにこれ、魔物?」

「いえ、魔物ではないようです。魔力は感じますが、生命力はまったく感じません。恐らく魔動人形でしょう」

 魔導人形は背負っていた大きな鎌を抜くとすぐにこちらに突進してきた

「リディエラ様!」

 ラキアさんはいつの間に剣を抜いたのか、僕の横から飛び出してその鎌による攻撃を受け止めた

 カキンと音を立てて魔導人形の鎌があっさり砕け、ラキアさんはそのまま魔導人形の胴を薙いで倒した

「え? 倒したの?」

「そうみたいですね、まあ最初ですからそこまで強くなかったのでしょう」

 ラキアさんは魔導人形を剣でつついているけど、何の反応もない

 魔力も感じなくなったから多分これで倒せたんだろうね

「あ、温泉が湧き出てきましたよ」

 驚いた。温泉が出現するってこういうことだったのか

 この部屋、すり鉢状になってるんだけど、そこの床から湧き水のように温泉が湧き出てきて、辺り一面が温泉になった

 そして魔導人形がそのお湯に溶け込んでいく

 入浴剤のように

「高濃度の魔素反応があります。恐らく魔導人形が溶けることで魔素を充満させているのでしょう」

 硫黄の香りが一層強くなってきて、湧き出た温泉は紫色に輝いている

「入ってみましょう!」

 すでにそのつもりで僕はもう脱ぎ始めていた

 ただフーレンの方が早くて、もう入ってた

 そしてこの温泉、どうやら魔力増強の効果があるみたいで、体内の魔力量が大幅に上がっていた。ということは、次の階層では魔法が重要になってくるのかも

 でもそんなことよりこの温泉、体がとろけるような気持ちよさで、僕を含め全員がふにゃけた顔で浸かっていた

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