竜人族の国6

 服を脱がせてあげて、タオルを渡し、て・・・

 あれ?

「どうしたんですか精霊様? ボクの体に何かついてますか?」

 逆です、ついてないです

 首をかしげるティリア君、いや、ちゃん

 いやね、薄々おかしいとは思ってたんだよね

 男の子にしてはまつげが長いし、声も高いし、でもそういう男の子もいるにはいるから

 そうです、ティリアちゃんは第三王子ではなく第一王女だったのです

「えっとね、ティリアちゃん」

「ちゃん? やだなぁ精霊様、ボクは男ですよ?」

 とりあえず彼女にタオルを胸まで巻いてあげてお風呂に入ることにした

 胸は僕と同じでツルーンペターンだから男の子に見えなくもないけど、やっぱりレディだからそこはしっかりと隠さないとね

 今まで一体お風呂はどうしてたんだろう?

「お風呂ですか? 川で水浴びしたり、宿の備え付けを使ったりしてましたよ。こうしてしっかりと湯船に浸かれる温泉は久しぶりですねぇ」

 とりあえず後でティリアちゃんのお父さんお母さんにお話だね。なんで男の子として育てていたのかとかね

「まずはしっかりと体を洗おう。ほらティリアちゃん」

「ボクは男ですからして、自分で洗えます」

 嫌がるティリアちゃんを無理やりに洗い始めた。尻尾の付け根なんかは汚れが溜まりやすいから念入りにね

 あとは翼も出してもらってこっちも丁寧に。翼膜を優しく洗うとくすぐったがってて可愛い

 頭も泡立たせてつややかな仕上がりに仕立て上げる

 ようやく洗い終えて僕たちは一斉に湯船に浸かった

 真っ白で少しねっとりとした肌触りの温泉で、入ったそばから僕のアストラルボディがつやつやしていくのが分かる

 それにティリアちゃん、もともと白い肌がさらに白く輝いて見える

 この子、こんなにきれいな子だったんだ

「すっごく気持ちよかったですね精霊様!」

 喜ぶティリアちゃんの体を拭いて服も着せていく

 もちろん僕が出した新品の下着と服をね

 今まで来ていた防具はテュネが洗濯し、エンシュとフーレンで乾かして綺麗にしていた

 でもやっぱり、女の子っぽい服を着て欲しかったからこその新しい服なのですよ

「あのこれ、女の子の服じゃ」

「ティリアちゃん、君、自分が女の子だってことは」

「ボクは男の子ですってば、それは兄上たちみたいに強くはないですが、それでも兄上たちに追いつくために必死で修業してきたのです」

 うーん、どう説明すればいいんだろう

 とりあえずゴトラさんに事情を聞くしかないね

「それじゃぁティリアちゃん、僕達と一緒にお父さんの所へ行こっか。空を飛べばすぐだし」

 ティリアちゃんも飛べるんだけど、そこまで長時間はまだ飛べない。それは修行でどうにかなるものじゃなくて、単純にまだ飛べるほど翼が大きくないからだ

「ありがとうございます! 本当に何から何までお世話になりまして、感謝のしようもありません」

 本当に丁寧な子だ。まっすぐ育っててすごくいい子です

 そんなティリアちゃんをテュネがお姫様抱っこをする要領で抱えて、裏にある首都バルハートへ飛んだ

「うわぁ、これが空を飛ぶって言うことなんですか! ボクも早く飛べるようになりたいです」

 うんうん、空からの景色は最高だもんね

 特にこの辺りは炎浄花が咲き乱れてるから、上空からのその美しさと言ったら、思わずため息が出るほどだ

 しばらくその景色を楽しんで、直接城の入り口まで飛んだ


「せ、精霊様、と、ティリア様ではありませんか!」

 城の入り口を守る兵が僕達に近づいてきた。どうやらティリアちゃんにも気づいたらしい

「久しぶり、ボク、強くなって帰って来たんだよ!」

「それはそれは、王様もさぞお喜びになることでしょう! さあさあ、どうぞこちらへ」

 兵のお兄さんはティリアちゃんの手を引いて僕らと共に中に入って行った

 ティリアちゃんはどうやら城のアイドルのようで、城内の人々に感嘆の声をあげさせていた

「ティリア!?」

 そこにデュレロさんとディレロさんが現れた

 ティリアちゃんを抱きかかえると大喜びでほっぺにキスの嵐をお見舞いしている

 この二人、極度のシスコンみたいだよ

「我らが可愛い妹よ、よくぞ帰って来た。もしかして精霊様がこの子を見つけて下さったのですか?」

「あ、いや、うん」

 あれ? 今デュレロさん、妹って

「やはりですか! ありがとうございます! ティリアは如何せん極度の方向音痴でして、小さなころから私達を心配させていたものです」

「そ、それは分かったけど、え? デュレロさんもディレロさんもこの子が女の子って知ってるの?」

「はい? 知っているも何も、周知の事実ですが?」

 ん? ってことはティリアちゃんが一人で男の子って言い張ってるってこと?

「ええ、実はですね、この子は私達のことを好きすぎて、自分も私達のように強くなりたいと男のまねごとをするようになったのです。始めたころにやめさせていればよかったのですが、何分可愛すぎたもので、つい」

 要するに、皆この子がやる勇者ごっこやお兄さんたちの真似が可愛すぎて止めれなかったってことか

 しかもゴトラさんとカルセさんは女の子としてもっとおしとやかに育てたかったらしい

 そっかそっか、二人が男の子として育てたんじゃなかったのか。てっきり何か深い事情があるのかと思って心配しちゃったよ

「精霊様のおかげで無事お家に戻れました! ありがとうございました!」

 ティリアちゃんはまた深々とお辞儀をしてくれた

 男の子みたいだけど、そこが可愛い女の子ティリアちゃん

 彼女とデュレロさんたちに再び別れを言って僕らはコポポマに戻った

 今度こそしっかりと温泉を満喫するんだ

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