妖怪族の国42
カイトは現状をみて驚いた
精霊の王女とはいえまだ子供の、生まれて2歳にも満たない少女が伝説級である魔物を討ち果たした
これはカイトの長い生の中でも記憶にないほどの出来事だった
不老であるが不死ではない彼は今まで自分の力で様々な危機を乗り切ってきた
しかしリディエラはそのカイトの力をしのぐほどの力を持っているかもしれないとわかったのだ
「すごいね君、フェンリルから助けてまだそんなに経っていないと言うのに」
突然現れてそう言ったのは以前フェンリルから僕らを助けてくれたカイトさんだった
この世界最強と言う称号を持つ大英雄で、なぜかこの世界を襲いに来る神話級から世界を守っている元異世界人
不老であるため遥かな時を生きているという
「テュネたちのおかげですよ。それよりもカイトさん、どうしてここに?」
「いや、僕はそこの湯だった魚の退治に来たんだけど、必要なかったみたいだね。それじゃぁ僕は帰るから後処理はよろしくね。あ、そうそう、ハクラ姫とクロハ姫、相当に強くなってるよ。これならいつか君と・・・。おっと、しゃべりすぎるとアマテラス様に怒られそうだ。じゃあね」
いつか君と? どういうことだろう
それにカイトさんはハクラちゃんとクロハさんが強くなったって言ってた
なんで彼があの二人を鍛えてるんだろう?
もしかして件族の予言に何か関係しているのかな?
分からないことだらけでカイトさんに効こうかと思ったけど、彼の姿はすでになかった
「行ってしまいましたね。私達は言われた通り後始末をしましょう。人魚たちのためにも」
テュネの言うとおりだ
ここには戦いによる破壊の後と、ダムドメガロの汚染された魔力が漂っている
このままだと人魚たちが住めないもんね。まずは破壊されたサンゴや岩などをアスラムが整えていく
サンゴは幾種かが死んでしまっていて、人魚たちはそれを悲しんでいた
それなら
「精霊召喚! 成長の精霊!」
僕の呼びかけに応じて出てきてくれたのは小さな女の子の精霊だ
彼女は成長の精霊と言って、その名の通り成長を促してくれる
名前はアトナちゃん
まだ残っていたサンゴの子供達を集めると彼女に成長の力をかけてもらう
するとその先からグングンと成長していき、サンゴたちは元の美しい姿を取り戻した
「ふい~、出来ましたのリディエラしゃま! それとオシャカナしゃんもこれまで以上に強くしておきましたの!」
可愛い
この子は僕が生まれたときに集まっていた精霊の一人なんだけど、僕よりも小さい
それでいながらなかなかに古参の精霊だそうだ
「ではまた呼んでくだしゃいの!」
小さな手を目いっぱい振ってアトナちゃんは返っていった
ちなみにちゃん付けで呼ぶと彼女は機嫌がすこぶるよくなります
そのあとは人魚たちに感謝されて、海藻料理をふるまわれた
ノリの佃煮や昆布やわかめのサラダ、なんと寒天を使ったデザートまである。そう、あんみつだ
なんでもここのあんみつは龍神であるアンミツ姫という人が作り方を教えたそうで、絶品中の絶品だった
「に、人魚たち、凄く、喜んでました。あ、ありがとう、ございます」
「みんなを守るのが僕達精霊の役目だもん当然だよ。だからマンゲツちゃんも困ったことがあったら何でも言ってよ」
この世界の人々を守るのは母さんから受け継がれた意思、遺伝子にまで刻まれた役目。でもそれだけじゃなく、僕は優しいこの世界の人々を命を懸けてでも守りたいと心から思っていた
入り江はすぐに復興し、数時間後にはダイビング施設も再開していた
誰も傷つかなくて本当によかったよ
落ち着きを取り戻した僕たちは一応の報告を方々に入れてから観光を再開することにした
母さんに連絡すると相当に心配されたけど、倒したことを告げると喜びほめてくれたよ
「で、では最後の、場所へ、案内します」
僕たちをヒーローを見るようなキラキラとした目で見つめるマンゲツちゃん
どういうわけか髪を掻き上げていて可愛い目がこちらをロックオンしていた
入り江を離れて人魚たちに見送られてマンゲツちゃんに着いて行った
「さ、最後はここです。ここ、は、
願掛けかぁ。今僕の願いと言えばやっぱりこの世界の平和かなぁ。それ以外に特に思いつかないしね
強くなりたいって願いもあるけど、それは自分の努力で達成するものだと思うし
峠は広く、風が吹いている。ところどころに穴の開いた石があって、風がそれにあたると不思議な音を醸し出していた
多分だけどその風の音が牛の鳴き声に聞こえるんだと思う
「さぁ、願いを言ってください」
よし、世界平和を願うことにしよう
僕は目をつむって願う。世界の平和とみんなの安寧を
すると風の音が変わった
ピューピューと鳴っていた風の音はやがてブムゥウウというような、いや、ブモォオかな? 牛の鳴き声のようになった
さらに、僕の頭の中に何かが語り掛けて来る
「ふむ、若いじゃないか。この子が例の? ああ、確かに計り知れない力を感じるよ。え? ああうん分かってるって」
あの、僕の頭の中で誰かと会話するのやめてもらえませんかね?
「ああ、ごめんよ。わっしの名前は
頭の中にその牛頭天王さんの姿が浮かぶ
牛の角にかなり際どい胸が今にも出ちゃいそうな服を着た少女だった
下にはいてるのは牛の斑点柄のパンツ?
なかなかに衝撃的な格好だったけど、その体からは神聖な力、神力が溢れているのを感じる。そのことから神様だとわかった
「いやぁね、アマテラスちゃんから話をきいたんわさ。ちょいと会ってみとぉなってなぁ。いやぁ可愛いねぇお嬢ちゃん」
おっさんみたいなことを言う神様だな
「お、おっさん言うなよ! わっしこれでもピッチピチの美少女で通しとるんよ?」
いやまあ見た目は確かにそうですね、はい
「納得しとらんのな。まぁいいわ。ここはわっしが見とる土地なんよ。この子ら、件族のこと気に入っとってな。んでわっし、何かしたいなぁ思ってな。たまにここでよ、願いをかなえとるんだわ」
そっか、それでここは願いの敵う場所とされてるんですね?
「そういうことよ。まぁ自分勝手な願い何てかなえる気はないけどな」
ところで、僕に何か用なのでしょうか?
「ん? いんやぁ、特に用ってこともないんよ。さっきも言ったけど、顔見たかっただけ」
あ、そうですか
「さて、顔も見れたし、ここまでお前を連れてきたその子、マンゲツちゃんにお礼したいんだけんど、何がええと思う?」
うーん、それはマンゲツちゃんから直接聞いてあげた方がいいかと思いますよ
「む、それもそだなそうしよう。ありがとな、リディちゃん。また何かあったら遠慮なくわっしの名前呼びなあよ。アドバイスくらいならできるけんね」
それから牛頭天王様の声はしなくなった。たぶん今願い事をしているマンゲツちゃんの願いを叶えに行ったのだろう
そうそう、実は牛頭天王様と僕が話していた時間はほんの数秒間の出来事だったみたい
あとマンゲツちゃんの願いは無事叶ったよ
人間族の国で売ってる僕ら精霊たちのぬいぐるみセットが欲しかったらしい
それくらいなら僕らが送ってあげたのに、と思いつつもマンゲツちゃんの可愛らしい願いにほっこりした
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