妖怪族の国3

 次に来たのは花びらが舞う庭園

 ここは一か月ごとに咲く花が入れ替わる妖狐族の里随一の名所だ

 今咲いているのは深紅桜という桜で、その名の通りほんのりと赤みがかった鮮やかな景色

 花びらがハラハラと落ちるさまは一見の価値あり!

 この桜を見ながらお酒を飲むのが風流らしい

「テュネ様たちはお酒でいいかしら? 私とリディエラちゃんは桜甘酒にしましょ」

 テュネはお酒が飲めないらしいから僕らと同じ桜甘酒だ

 お酒を飲んじゃうと、体を構成しているのが水だから全体にいきわたって変になるらしい

 具体的にどう変になるのかは教えてくれないけどね

「はいこれ、桜甘酒よ」

 湯呑の中にはピンク色の甘酒が入っていて、その上に桜の花びらがちょこんとのっている

 一口飲むととろりとあったかくて甘い液体が流れ込んだ

 芳醇な香りと味わいで、体がポカポカしてくる。このお酒も白銀米で作られてるらしい

「あとこれ、桜餅よ」

 よくある桜餅と違って真っ赤なお餅だ。中に入っているあんこまで赤いのはこしあんにこの桜の花びらを練り込んでいるからだとか

「ほんのり塩味があるね」

「そうなの、隠し味?ってやつよ。このお餅はね、異世界人が伝えたものを母様がアレンジしたの。母様、お菓子作りが趣味なの。たまに一緒に作ってるのよ」

 タマモ陛下の料理に関する探究心はすごいかもしれない

 実はこの国にある料理やお菓子などの三割はタマモさんが考案したものらしい

 僕は二杯目の甘酒をお替りして桜舞い散る景色を存分に楽しんだ

 エンシュは少し酔ったのか、顔が赤くなっている

 さて、次に来たのはミヨノ大橋という橋だ

 かつての九尾族の長であるタマオミという人が一般市民と共に作り上げたらしく、その装飾の見事さから宝橋とも呼ばれている

 大きな湖にある島とこの地をつなぐ重要な架け橋。島には妖狐族の祖神であるテンコ様を祀っているらしい

 ちなみにこの橋の建設には、当時の鬼人族長であるシュテンも携わっている

「どうこの装飾! それにこの大きさ! タマオミ様はね、巨大化する妖術を使って資材を運んだり組み立てたりしてたそうよ」

 巨大化の妖術なんてのもあるのか。妖術って魔法みたいなものだと思ってたけどちょっと違うみたいだね

「ほら、渡りましょ」

 みんなで一斉に橋を渡り始めたけど、横幅も広いし距離も長い

 でも、そんな長さを感じさせないくらいに装飾は見ごたえがあった

 まるで物語を紡いでいるかのように様々変わる絵は生き生きとしている

 躍動する龍と虎、流れる雲、妖狐族の舞い、うねる水

 ずっと見ていたけど飽きないね

「あ、島が見えてきましたよ」

 少し霧のかかった島で、その霧が鳥居の赤さをより際立たせていた

 鳥居はどうやら湖に立っているみたいで、そこをくぐると奥に神社が見えた

「ここがテンコ様が祀られている神社よ。テンコ様は天真爛漫な神様だから、もしかしたら遊びに降臨なされてるかもしれないわ」

 テンコ様は狐の耳と尻尾を持った子供のような神様で、その毛は白銀に輝く美しいものなんだそうだ

 もしいたら会ってみたいな

「わらわに会いたいと聞いて降臨したじょ」

 後ろで僕のお尻をポンポンと叩く何者か

 振り返ると小さくて可愛い妖狐族の子供?

「わらわこそテンコじょ。おぬしの母親の妹にあたるから叔母さんじょ」

 そっか、祖神たちはみんな兄弟姉妹だったね。ってことは、この小っちゃい女神さまも?

「そうじょ。よく来たなリディエラ。エラリウラ姉しゃまから話は聞いてるじょ」

 僕をなでなでしようとしているのか、背伸びをして手を振っているのが可愛い

 僕はかがんで頭を差し出した

 わしゃわしゃと頭をこねくり回される

「ふみゅ、シルフェイン姉しゃまとよく似ておるじょ。かわいいの」

 そちらこそ可愛いです

 しばらくテンコ様と話したあと、テンコ様は何か用事があったらしく、島からまた橋を渡って戻った

「次は妖狐族のマジックショーをみにいかない? そろそろ始まる時間だからこのまま行けば間に合うと思う」

 そういえば道すがらの立て札に書いてあって気になってたやつだ。当然行きたいに決まってる

 楽しみだね

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