白黒 鬼姉妹の冒険12

 草原を抜けて気配を探って進んでいくと、学校近くまで戻ってきてしまった

 さらに学校を通り越して街中へ

 たどり着いたのはクノエ姫の宮殿、その前にある広場だった

「よくぅ、来ましたねぇ。先生方ぁ、全員に認められたみたいぃですねぇ」

 広場にテンセン先生が立っていた

「陛下には許可をぉ、もらってますからぁ。存分にぃ、戦えますよぉ」

 陛下とは妖怪族のまとめ役である金毛白面九尾族の長、タマモ陛下のことだ

 タマモ陛下はクノエ姫の母親で、妖怪族最強の力を持つ方

 私達の両親の親友でもあった人だ

 妖怪族の国は代々女系で、女性が王を務めている

 妖狐族以外の十一種族長もそうだ

 王となる女性は、選ばれた強い同種族の妖怪族の男性(一般人でも力が強ければ選ばれる)を王に迎え、婚礼するらしい

 でも最近の平和なこの世の中でその考えは古いとされていて、今では大体愛し合った人と結ばれるのが基本なんだって

 ちなみにクノエ姫の母上であるタマモ陛下も大恋愛の末に結ばれたんだって! ロマンチックだよね

「さてぇ、皆さんの本気をぉ、見せてくださいねぇ」

 先生が戦闘態勢に入った

 手にはアーティファクト、妖刀捻じれ椿が握られている

 この妖刀は、先生だけが扱える呪われた刀だ

 先生以外の人間がこれを握ると、全身が腐って死ぬという曰くのある恐ろしい刀

 正直すごく怖いです

「大丈夫ですよぉ。この刀の能力はぁ、解放しません。それにぃ、みねうちにしますからぁ、死ぬことはないですよぉ」

 そう言われてもなぁ

「ハクラ、行くよ。テンセン先生を倒せば、私たちはさらに強くなれる」

 そうだ。お姉ちゃんの言うとおりだ

 よし、本気で・・・、本気で・・・、本気で!

「ハァアアアアア!!」

 妖術解放、神刀解放

 全員が今持てるすべての力を先生にぶつけるため、ありったけの妖力、魔力をこめて戦闘を開始した

 まずお姉ちゃんの黒で先生の視界を奪う

 当然のことながら先生はあっさりと黒を解いてこちらに歩み寄ってくる

 アカネの赤い狼とソウカの蒼天が先生を襲うんだけど、捻じれ椿にもともと備わっている反射の力であっさりと返されていた

 キキが王守盾で先生を弾き飛ばそうとするけど、捻じれ椿の一突きで結界は破壊されてしまう

 私とお姉ちゃんの神刀の力を開放する

 八咫烏アゲハが先生の周囲を飛び、ひらひらと雪が舞い落ちた

 アゲハが先生にぶつかり、爆発、私の雪が先生の体温をどんどん奪っていく

 そのはずなんだけど、先生はまるで散歩でもしているかのように悠然とただただ歩いている

 全員で一斉攻撃しても、翻弄しても、何も効かない

 力の差がありすぎるせいか、先生は反撃すらしてこない

「どうしたのですか? 子供の遊びではないのですよ?」

 先生がこの口調になっているってことは、本気ではあるみたい

 この前みたいな動きをされれば、それこそ私たちはもう全滅している

 悔しい、まるで手が届かない

 今までの先生たちとも次元が違う

 私は焦って白を発動させた

 そのとたん全員が妖術を使えなくなった

「こ、こら、ハクラ、今それを使ったら!」

 お姉ちゃんの声がして慌てて妖術を解いたけど、遅かった

 キキは先生の妖力波に吹き飛ばされ、アカネは地面に叩きつけられ、ソウカは翼を折られた上に壁にめり込むほど殴られた

 それで三人は虫の息、かろうじて生きている状態に

「ハクラ、合わせて!」

 お姉ちゃんと息を合わせて刀を振ったけど、お姉ちゃんの太刀筋は読まれ、あっさり腕を掴まれて妖刀のみねで足を打たれてあらぬ方向に曲がった

 お姉ちゃんもこれで戦闘不能だ

 残るは私一人

「あなただけになりましたね。今度はあの時のように手加減はしませんよ? 本当に、死ぬかもしれませんね」

 不気味に笑う先生

 先生のかつての二つ名は、戦場に笑う者

 その笑顔を見て生き残った者はいないと言われていたらしい

 そんな先生のあの不気味すぎる笑顔は、恐怖以外の何物でもなかった

 知らず知らずのうちに後ずさりしてしまう

「これは、もうだめですね。負けを認めている者の顔です」

 先生の刀が振り下ろされた

 その一瞬の間に今までのことが走馬燈となって頭に流れて来る

 父様や母様との楽しかった思い出、お姉ちゃんやアカネたちと遊んだ日々、いたずらしてコクウに怒られたこと、お祭り、精霊様、旅した国、ものすごい速さで駆け巡り、途轍もなく長い時間が一瞬で訪れた

「死にたく、ない」

 そう思った

 死にたくないって、思った

 力が、戻る

 体が、動く

 目に光が宿る

「せい!」

 先生の刀を受け止めた

「あら?」

「極白」

 私の白い妖術が、更なる力を得た

「これは!」

 先生の動きが止まり、捻じれ椿がサヤに戻る

 お姉ちゃんたちの傷が一瞬で元に戻り、先生が倒れ伏す

「なんなの、この力・・・。 まるで、あの子の思うように世界が、動いてる!?」

 先生が何かを言っているけど、私の耳に届かない

 私は、自分の制御ができなくなっていた

「待ちなさいハクラ!」

 私は自然と、先生の方へ歩み始めていた

 たぶん、殺すために

「やめなさい、ハクラ! お願い、止まって!」

 お姉ちゃんが私に抱き着いた

 それでも進む

「ハクラちゃん!」

「ハクラ姫!」

「ハクラ様!」

 三獣鬼も私を抱きしめた

 ようやく私は、その歩みを止める

「たす、け、て」

 体は未だに先生の方へ歩こうとした

「大丈夫! もう、大丈夫だから!」 

 お姉ちゃんのおまじないが私の体を包み込んだ

 あったかい

 そして私は意識を失った

「ふぅ、危ない賭けでしたが成功したようですね」

「え?」

 先生はどうやらハクラの力を引き出すためにわざとやっていたらしい

 まったく、一歩間違えればテンセン先生は消滅していたかもしれないのに、凄いことをする先生ね

 ハクラを背負い、先生の話を聞いた

「ハクラちゃんのぉ、ちからをぉ、見誤ってたわぁ。この子の力ぁはぁ。下手をすれば神様にもぉ匹敵するかもぉ」

 極白は全ての支配

 何もかもを自分の思い通りに描きなおす力だという

 危険すぎる力だ

 ハクラは今その力に飲み込まれかけたというわけだ

「でもぉ、大丈夫よぉ。この子は意識をぉ保ってた。 希望はぁ、あるわぁ。 きっと、力をコントロールできるようになるわぁ。それまでは封じておきましょぉ」

 先生は真面目な顔でそう言ってくれた

 先生が言うならそうなんだろう

 それからハクラはすぐに目を覚ました

「あれ? 試練、は?」

「終わったよ。合格だって」

「ほんと!?」

 私は先生を見た

 先生はうなずく

「あ、そう言えばぁ、あなたたちのぉ、おまじないぃ、見せてもらったよぉ」

 そういえば、体が動かなくなったときに、お姉ちゃんから温かい何かが流れ込んできた

 あれはたぶん、いつもやってるおまじないの力だったと思う

「あのちからはぁねぇ。 仙力よぉ」

 先生の発言に、一同は驚いた

 なにせ私達は鬼仙という種族ではあるものの、まだ仙力を使えなかったもの

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