白黒 鬼姉妹の冒険11

 森を抜け、草原地帯へとやって来た

 草原には絶世の美女と言ってもいいほど絵になっているハーレイナ先生が立っていた

「わたくしの授業へようこそですの。これから、貴方たちにはわたくしと戦っていただきますの。わたくしに触れることができれば合格ですの」

 不思議なしゃべり方をする先生

 でも、そこが魅力になってる

 ハーレイナ先生はスーッと宙に浮いた

「では行きますの」

 先生は二本の木刀を腰から抜いた

 パーンという空気を叩く音がして先生が私の後ろに現れ、木刀が襲い掛かる

「くぅ!」

 何とか刀での防御が間に合ったけど、太刀筋が見えなかった

 防げたのもなんとなく危険な気がして刀を抜けただけ

 衝撃だけで手がしびれ、体が震える

「それそれそれそれ、守っているだけではわたくしには勝てませんの」

 刀も、それを持つ手も、あまりの速さに分身して見える

 この斬撃を防げているのは単に先生が体に当てに来ていないから

 剣術での実力差は火を見るより明らか

「ハクラ!」

 お姉ちゃんが先生に攻撃を加えるけど、それを片腕だけで制している

 しかも、私に斬撃を加えながらだ

 さらに言うと、斬撃はどんどん速く、鋭くなっていっている

 木刀のはずなのに、かなりの重さが私たちの手にかかって来た

「う、ぐぅ、もう、もたない・・・」

 手のしびれと疲れで刀をとり落としてしまった

「しまっ!」

 その瞬間、私は木刀で滅多打ちにされて草原を転がった

「う、ぐふっ」

 肋骨を折られたのかも、血が口から込み上げてくる

 肺もつぶれたのか、息ができない

「すぐに治療を!」

 ミズキ先生が私に治療妖術をかけてくれた

 すぐに呼吸が楽になる。先生の妖術ってすごい

「ありがとうございます! これでまた動けます!」

 すぐにお姉ちゃんの手助けに入った

 すでにアカネたちも戦闘に加わっている

「うわわわ、なんなんすかこの人! どうやったら四人いっぺんに相手できるんすか!」

 先生は取り囲まれているにもかかわらず、すべての攻撃を防ぎきっていた

 先生ほどじゃないにしろ、お姉ちゃんとアカネの刀の振りの速さは一流のはず、なんだけど、そんなことを物ともせずに涼しい顔で対応している

「これじゃぁ、らちがあきませんね」

「ならば、黒発動!」

 先生の視界を奪った

 奪ったのに、先生は一向に変わらない動きで攻撃を防ぎ、さらには私たちに攻撃を加えて来る

「これじゃ、ダメなの!?」

 お姉ちゃんの黒は効かない

 それに私はさっきから白を発動しているんだけど、先生の動きが全く変わらないってことは、先生は妖術を一切使ってないってこと

「なかなかの力ですのね。でも、わたくしには届きませんの」

「それなら! 王守盾!」

 キキが結界を思いっきり先生にぶつけた

「あら、考えましたわね」

 先生が結界を斬り崩している間に、アカネとお姉ちゃんが先生の後ろに回り込んだ

「召喚っす!」

 アカネの狼が二匹飛び出し、先生の腕に噛みついて動きを封じる

「今っすよクロハ様!」

 お姉ちゃんが黒刀クロアゲハの力を開放した

 周囲に舞い始める真っ黒なアゲハ蝶

 その蝶が先生に止まると、爆散した

「舞いなさい、八咫烏蝶」

 神獣八咫烏の名を冠した真っ黒な蝶は先生に止まる度に爆散し、鱗粉をまき散らす

 その鱗粉を浴びると、ランダムで状態異常を引き起こす

 この鱗粉、妖術や魔法の類ではないので防ぐ手立ては浴びないことなんだけど、止まった時点で爆散して強制的に浴びせてしまうから逃れようがない

「あ、ら、めまいが・・・。それに、痺れまで出てますの」

 先生の動きが止まった

「今よハクラ!」

 私は先生に一撃をお見舞いするために走り、ミネで先生の胴を薙いだ

「甘いですの!」

「嘘、防がれ」

 先生の姿がみるみる変わっていく

 妖狐族特有のふさふさした尻尾と長くピンと立った耳から、細いシュルリとした猫のような尻尾が二本生え、耳は猫耳となっている

「妖術、妖狐猫ようこびょう一騎殲万いっきせんばん

 ついに、先生が妖術を解放したみたい

 目は猫のようにするどく、体はしなやかに

 そして何より美しい

 見惚れていると先生は消えた

「さっきより、速い!?」

 時折する着地音、振り向くとすでにそこにはおらず、一方的な蹂躙が始まった

 アカネはいきなり足を折られ、訳も分からない顔のまま頭を穿たれて草むらを転がっていき、気絶した

 キキは腕を叩き切られ、吹き出る血しぶきに驚いた顔をしながらみぞおちを殴られて倒れ込む

 危険を察知したソウカは空に飛びあがるも、背骨を踏み砕かれて落ちていった

「まずい!」

 ミズキ先生が三人の元へ走って治療を始めた

「くっ、何も見えない・・・」

「あちしの動き! 見えないっしょ? 無理無理、今まであちしの動きを捕らえたのって、テンセン先生だけなんだよねぇ」

 口調が変わってる

 どうやらこの妖術を解放すると性格まで変わっちゃうみたい

「ほーらほら、こっちこっち!」

 声のする方へ目を向けると、一瞬先生の顔が見えた

 そしてそこから意識、記憶が途切れた


 ここからは私、クロハが説明するわ

 ハクラは先生に首の骨を折られ、草原に転がった

 私の大切な妹、ハクラが・・・

 はっきりと目に映った。首があらぬ方向へ曲がって、ハクラが倒れるのが

 死んだと思ったの

 だから、私は怒り、妖術を全力で解放したの

「獄黒」

 この時は分からなかったけど、先生も相当危なかったらしいわ

 獄黒は、対象の相手を黒い空間に永遠に閉じ込めてしまう

 先生はそこに吸い込まれて、草原から消えてしまった

「はぁ、はぁ、は、ハク、ラ・・・」

 ハクラはピクピクと瀕死の重傷を負いながらも生きていた

 急いでミズキ先生が治療してくれた

「また、危ないところでした。もう、ハーレイナ先生! やりすぎですよ!」

 獄黒の空間へと消えたはずのハーレイナ先生が後ろに立っていた

「申し訳ないですの。わたくしもやりすぎましたの」

 どうやら先生はギリギリのところで抜け出したらしい

「いやはや、わたくしの負けですの」

「え? でも、一撃も与えられていないですよ?」

「ここを見るですの」

 先生の脇腹に刀で斬られたような傷がうっすらとついている

「あなたの獄黒に閉じ込められそうになる直前に、あなたが無意識に斬ったものですの。びっくりしましたの」

 どうやら合格したみたいね

 それにしても、ハクラが無事でよかった

 今はまだ気絶しているけど、目を覚ませば元通り動けるはずだとミズキ先生が言ってくれたので一安心したわ


 それから数時間後

「えー、じゃぁあたしの狼がかみついたのは合格の証にはなんないんすか?」

「あれは妖術によるもので、しかも攻撃ではなく拘束ですの。傷一つついてないですの」

「えー、でも当たってるじゃないすか」

「あれはワタクシが手加減してあげただけですの。調子に乗るなですの!」

 先生は本当に手加減してくれただけで、本来ならあの程度ではかすりもしないとミズキ先生が教えてくれた

 さて、ハクラも目を覚ましたことだし、最後の試練、テンセン校長のところへ向かうか

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