白黒 鬼姉妹の冒険7

 翌朝、私たちは寝ぼけ眼のまま首根っこを掴まれてずるずると運ばれていた

 あれ? なんで廊下を運ばれてるんだろう?

「あの、これは一体」

「やっと目が覚めましたか。ほら、早く行きますよ」

 テンセン先生? うそ、私達二人を軽々運んでる!

「あの、先生、放してもらえれば自分で歩きますので」

 お姉ちゃんも困惑しているみたい

 そりゃ首根っこを掴まれて引きずられてたらびっくりするよね

 私も現在進行形で驚いてるし

「そうですか、それなら自分で歩いてきてください。場所は昨日と同じ広場です」

 そう言うと先生は視界から消えた

 恐らくすごい速さで走っていったんだと思う

 昨日あれだけ動いて元気な先生だなぁ

 あれで五百歳を超えてるらしいし・・・

 あ、でも天狐族の五百歳って人間でいう25歳くらいだったかな?

 それじゃぁまだ若いのね

「はぁ、今日の修行を思うと憂鬱ね。ハクラ、死なないようにしましょうね」

「う、死ぬほどきついの?」

「そうね、昨日のがまだウォーミングアップの手前の準備体操くらいかしら」

「げっ!」

 うぅ、変な声出しちゃった

 姫たるものこんな声出しちゃダメ、コクウが見てたらまた怒られてたよ

 広場までの道のりを重い足取りで歩いて到着

 そこでは今度は鉄の棒をくみ上げた建物のようなものができていた

 当然壁も屋根もなくて、ただの骨組みだけ

 その頂上に先生がいた

「遅いですよ。今日はこの骨組みの頂上まで登って来るだけの簡単な修行です。まぁ攻撃はしますがね」

 先生、楽しそう・・・

 よし! ここは頑張って先生にみとめてもらうのです!

「先生、行きますね!」

「お、やる気満々ですね。大変よろしいことですよ。いいでしょう、かかってきなさい」

 登り切るのが目標だからかかってきなさいはおかしいと思いますはい

「テヤァアアア!」

「ハァアアアア!」

 私とお姉ちゃんは気合を入れて骨組みへ飛び上がった

 一気に半分近くまで登ると、先生の持っている竹槍が何本も降り注いできた

 尖っているから当たればただじゃすまない

 でも、昨日の修行のおかげかな? その軌道が流れるように見えた

「ふむ、ちゃんと形にはなっているようですね。では」

 先生が竹槍に妖力をこめているのが分かった

 そして槍を投げる先生

「うわ、うそでしょ」

 槍は自在に動き、四方八方から襲い掛かって来た

 これを避けるには・・・

「妖力を纏って防御!」

 先生の声が響く

「解放!」

 妖怪族は体にある妖力を解放して周囲の妖力を取り込む

 逆に鬼人族は体内の妖力は弱いため周囲の妖力を取り込むためにそれ専用の器官を解放する必要があるみたい

 私とお姉ちゃんは今その器官の力を開放したわけ

 まわりから妖力を取り込んで自分に纏うと飛んできた竹やりを素手で弾いた

 それと同時にどんどんと上に登っていく

「いいですよ。ではレベルを上げますね」

 竹槍がさらに増えて、四方八方縦横無尽上下左右、全方位から一斉に襲い掛かって来た

「うわ、無理!」

 絶望するくらいの量に思わず体が固まってしまった

「ハクラ!」

 一斉に竹槍の攻撃を受けて私は落ちていった

 いくら妖力で防御していたとはいえ、その衝撃はすさまじく、さらに落ちていった先で左腕を鉄骨に強打してあり得ない方向にねじ曲がった

 そのまま妖力も解けて数十メートル先の地面に激突した

 体中が痛くて動けない。左腕の肘から先の感覚がない

「う、ぐぶっ」

 口から血の泡が吹き出た

 多分内臓が傷ついたんだと思う

 そんな冷静な判断が出来たのは後になってからだけど

「ハクラ! ハクラしっかりして!」

 お姉ちゃんの声がずいぶんと遠くに聞こえる

 そのまま私は意識を失った

 目を覚ますと、広場の横に倒れていた

 折れてあちこちに引っ掛け、ちぎれかかっていた私の左腕は元通りになっていた

 死ぬかと思った。本当に・・・

 鉄骨にぶつかり続けたときにそのショックで恥ずかしながら失禁までしてしまったみたいで、お姉ちゃんが変えの服を持ってきてくれてた

「おねえちゃん、ありがとう」

「もう大丈夫なの?」

「うん、どこも痛くないみたい」

「すいません、やりすぎました。傷はミズキ先生が治してくれたのですぐにでも動けるはずですよ」

 テンセン先生の横には青くて長い髪の狐耳の女性が立っていた

 白衣を着てて、たれ目の穏やかそうな先生

 このミズキ先生は治療の妖術が得意で、死にさえしなければどんな傷でも治してくれるらしい

 私の状態は結構危なかったらしくて、折れた骨が心臓や肺に突き刺さってたって言われてゾッとしたよ

 しかもあと少し治療が遅れてたら本当に死んでたって言うからさらにゾッとした

「もう大丈夫です! 修行を続けてください!」

 でも私は強くなるためにめげない

 このくらいじゃないと強くなんてなれないもん

 「大丈夫なのハクラ・・・? まだ休んでていいのよ?」

「えぇ、あれだけの重症です。しばらく休んでてもいいですよ」

 テンセン先生も心配そうにそう言ってくれるけど、もう体も動くし痛みもない

 私は立ち上がって鉄骨の方へ歩いた

「そう・・・。ハクラもやる気みたいですし、もう一度お願いします!」

 私とお姉ちゃんは再び鉄骨の下に来た

「分かりました」

 テンセン先生は一気に飛び上がって頂上に

 また竹槍を妖力で操った

 それから数時間後、傷だらけになりながらも頂上に登り切った

 その頃には私もお姉ちゃんも精密な妖力コントロールができるようになり、これで妖術を使いこなす土台が出来上がった

 後で聞いたけど、通常はこの修行を一年かけてゆっくりするらしい。でも私達の力ならすぐにでも身に着けられると先生の判断だったそうだ


 そしてその頃のアカネたちはと言うと

「いいですな、これで鉄球の直撃を受けても耐えうるだけの妖力は身についたわけですな」

 コヅチ先生は満足そうにうなずく

「何笑ってるっすか!」

「ハァ、ハァ、アカネ、元気ね」

「アカネちゃん~、一番早く~、コントロール出来てましたもんね~」

「そこが悔しいわ。あの子、脳筋のくせにこういうことは器用にこなすんだもの。 ある意味天才じゃないの?」

 無事コヅチ先生の修行を終えて、妖力の操り方をマスターした

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