脅威4
洞窟に着くと中から苦しそうな声が聞こえてきた
うーともあーとも言葉にならない声が私の耳に届いてくる
まず一緒に来た冒険者たちを外に残して私だけで中に入ってみることにした
中はすごく広くて、さっきの村の人達なら全員が入ってもまだ収容できそうなほどの広さだね
それに食料品などの非常時への備えが備蓄されてるみたいで、奥の方にたくさんの木箱が置いてある
そしてその中央に倒れ込むようにしてキメラにされてしまった人の姿があった
凄く苦しそうで、体中を掻きむしっている
そっと近づいてみると、そのキメラが少女であることが分かった
ボロボロの布切れを着ていて、顔がボコボコにはれ上がって、鼻が曲がっているのは多分折れてるんだろう
恐らくここに来る前に暴力でも受けていたんだ。明らかに虐待の痕だと見て取れた
その小さな体には相応しくないほど巨大な右腕、そして頭にある鹿のような角、鋭い牙の生えた小さな口、背中からは蠢く触手
どんな魔物を合成させられたのか分からないほど色々なものが混ざっている
その合成させられた魔物が少女の意思を奪おうとしているのか、それに少女は抗っているように見える
「うー、あう、ああああああ!! いだい、いだいよぉおお、もう人、おそいだぐ、ないぃよぉ」
泣いている。彼女は人を襲う気なんてないのに、体で魔物が暴れるために人を襲ってしまうんだ
だからここで一人で戦ってるんだ
私はこの不憫な少女を絶対に助けたいと思った
しばらく見ていると少女は落ち着いたみたいで眠りについた
洞窟から外に出ると当たりが薄暗くなってきていた
報告では彼女は昼間にしか目撃されていない
夜はあんな感じで眠ってるんだろう
「どうだったミーニャちゃん」
「・・・。思ったより酷だにゃこれは」
私が中にいる少女について報告をすると、今回のリーダーであるエグズさんという男性冒険者が憤慨した
「何だよそれ! 幼い少女を実験体にしてるだと!? 帝国の奴ら悪魔なのか!?」
怒るのも無理もない。私だってかなり怒ってるんだから
でも、どうしようもない
彼女を救う術は残っていないって言うのは分かってるんだ
私は皆を連れて中に入った
少女は息も荒く眠っている
気づかれないよう少女に近づくと酷い臭いがした
排泄物と肉の腐ったよな臭い。魔物との融合が上手くいかなくてその部分が腐って来てるんだ
悲しい。この子を助けられないんだろうか? 本当に無理なんだろうか?
助けたい
そう思った時また頭に浮かんだ。そう、スキルだ
分離と再生・・・
分離は何かと何かを正確に分けるためのスキル。合成されていても有効みたい
再生は失った部位、あるいは駄目になった部位をその名の通り再生させるスキル
これなら!
少女に泣きながら剣を突き刺そうとするエグズさんを慌てて止めて私は事情を説明した
「そうなのか! それならやってみて欲しい。少しでも救える可能性があるのなら救いたい」
彼がここまで少女に構いたいのは彼は孤児院を経営しているからだ
優しく子供好きで、不運な子供を見過ごせなくて、稼いだお金のほとんどをその孤児院のために使っているらしい
「それじゃあ始めるにゃ。見守ってて欲しいにゃ」
成功するかどうかは分からないけど、私は不思議と大丈夫だって思えた
寝ている少女に近づくと私はまず分離のスキルで少女の体から少しずつ魔物の部分を取り除いていった
魔物部位は取り除いたとたん塵になって消えて行く
無理に合成したから形を保てないんだ。このままだったら素体となったこの子も塵になってしまっていたかも
そう思うと私はさらに帝国に対する怒りが込み上げてきた
人を人とも思わない、ましてやこんな小さな少女に危険な実験をしている
許せない
全ての魔物部位を取り除くことができた
次は腐り始めた手足と内臓を再生のスキルを使って治療していく
魔物部位と完全に合体してしまっていた右腕は再生スキルによって綺麗に戻って行った
そしてあれだけ腫れ上がって曲がり、片目も塞がっていた顔が段々と綺麗になって行く
完全に元に戻った顔を見ると、驚くほど可愛い女の子だってことが分かった
先ほどまで荒かった呼吸も今は安定していてスースーと寝息を立て始める
「おお、なんとすごい! ミーニャちゃんはやっぱり神獣なんだな!」
少女を治したことで疲れ切った私をエグズさんが抱き上げて、高い高いの要領でくるくると回る
疲れてるから勘弁してほしいにゃぁ
「取りあえず後は栄養を取らせてゆっくり休ませるにゃ。まだ安定してないからもうしばらくここで様子を見た方がいいにゃ」
そのまま私達は少女が目覚めるのを待った
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