私は神獣ではないです4
そいつは見た目は人間っぽいんだけど、ところどころに生えた手がうねうねとうねって気持ちが悪い化け物だった
魔物かとも思ったんだけど、魔力を感じない。普通魔物なら魔力の流れがあるはずなんだけどこいつは魔力じゃない何かを感じるね
そいつはたくさんある手をグインと伸ばしながら目についた生物を捕まえてはねじったりして殺しているみたい
見境なしだこいつ。早くなんとかしないと…。私はグルルルと唸りつつその化け物に近づいた
そのとたんグルンと首が真後ろに向いて血走った目が私の姿を捕らえる
「グガガガ、みつけぇたぁああああ」
え、しゃべった!?
「んにゃむ!」
私は高く跳躍して上からその化け物の腕を数本切り裂いた
「ぎゅげげげげ! いだいぃいい、いだいよぉおおお!!」
こいつの声、まるで少女のような声なのに耳にキーンと響いて少し眩暈がする
何なの? こんな魔物いるの?
「お前ええをおこおおろさなきゃああ、元にもどれぇえなああいいいいいのにいいい!!」
え? 今何か…。私を殺さなきゃ戻れない?
もしかしてこの化け物、いやこの子…。人間!?
元に戻れないって言ってるってことは無理やりこの姿にされたってことなの? だとしたら助けなきゃ!
その時またしても頭にスキルが浮かんだ。恐らく今最も必要なスキルが必要な時に出て来る。それが私の力なんだ
これも女神バステト様のギフトとやらなのかな? これは助かる。ありがとうございます女神様、と思いつつ私はそのスキル“解呪”をその子に向かって放った
するとどうだろう、真っ黒だったからだからドロドロとした何かが溶けだし、多く合った手がもげて通常の人間の姿に変わった
ドロドロから出てきたのは女の子で、その子は豪勢な服を着ていてきっと由緒ある家の子に違いないわ
私は念のためもう一度解呪で完全にその黒いモノを払ってから女の子が起きるのを待った
それから数時間後、女の子は目を覚ましてキョトンとしている
「あ、あれ、わたくし確か馬車を襲われて、攫われたはずですのに、どうしてこのようなところに?」
「んなっ!」
「まぁ! なんて可愛らしい猫ちゃん! あなたわたくしがなぜここにいるのか知っていますの?」
「んにゃおお!」
「知っていますのね! ああよかった。ここはどこですの?」
「んなぁ」
「やっぱり猫ちゃんの言葉は分かりませんわね。ねえあなた、もしかして街へ行く道を知っています?」
「んにゃ!」
「良かったですわ! では案内をお願いします」
「んにゃふぅ!」
その子の名前はシュシュア・モランドールといって、貴族、しかも公爵家という最高ランクの貴族の御令嬢らしくて、父親のいる王都まで護衛付きの馬車に乗って移動していたところを変な男に襲撃されたみたい
その男の右腕は奇妙な形をしていて、手には黒く光る宝玉を持っていたらしい
あっという間に護衛を皆殺しにすると、シュシュアちゃんを攫って行った
その攫われた場所で怪しげな黒い小さな宝石を体に埋め込まれ、私を殺すよう命令されてそこから記憶が無くなったそうで、急にこの場所にいて驚いたみたい
「ねぇもしかして、あなたがわたくしを助けて下さいましたの? でしたらあなたはわたくしの騎士ですわね。一緒にお家に帰らなければなりませんのよ?」
「んなな」
首をぶるぶると振って否定するとシュシュアちゃんは残念そうに「そう、あなたにはすでにご主人がいますのね。残念ですわ」と、貴族にしては理解のある子だ
いや貴族に対する偏見ってこの世界でだいぶ変わりそうだよ
何せ地球の漫画やアニメで見る貴族ってとにかく酷い奴が多いもんねぇ
まあそういうのも多分この世界に入るんだろうけど、これまであった貴族(まあまだ二人しかあってないんだけど)は皆優しかった
シュシュアちゃんを無事私の住む街まで送り届けると、彼女は安心していた
「良かったですわ。ここは王都からそう離れていないエスカーナの街ですわね。何度か来たことがありますの。ここならお父様にもすぐ連絡がつきそうですわ」
ひとまずシュシュアちゃんをギルドに案内した。攫われたから届け出が出てるはずだからね
そして案の定そのお父様からの捜索願が多額の金額で出されていた
冒険者も血眼になって探しているけど一週間は見つかっていなかったみたいね
それを私が連れてきたものだからギルド内は大騒ぎになっている
見つからなかったのも無理はないわね。だってこの子、呪いで化け物に変えられていたんだから
とりあえずギルドへの報告は喋れない私に代わってシュシュアちゃんがしっかりとしてくれる
見たところまだ10歳くらい? ミナモちゃんより小さいのにすごくしっかりしてる。きっと不安だったろうに泣きもしない
貴族の子ってみんなこんな感じなのかな?って思ってたけど、お父様が迎えに来て顔を見た瞬間シュシュアちゃんは安心からか大泣きし始めた
うんうん、子供はこうあるべき。お父さんに会えてよかったね
と言うわけで家に帰ろうとしたら、私はやはり公爵様に掴まってしまった
「娘の恩人だ。是非ともお礼を」なんて言う
ああ、平穏に暮らしたいだけなのにどんどんヤバい方向に向かってそうな気がするよ
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