最強の猫になってしまいました

香草(かおりぐさ)

猫になりました1

 今日も天気は良くて日向ぼっこ日和

 日がな一日のんびり過ごして、食べたいときに食べ寝たいときに寝る

 そんな私は元人間の猫である


 思い返すこと数ヵ月ほど前、私は大好きな猫を追いかけて草むらをかき分けたところ、崖から足を滑らせて滑落死した

 まさかあんなところに崖があるなんて思わなかったんだけど、その後が問題だった

 死んだはずの私は見知らぬ場所に立っていたのである

 とりあえず現状を確認するために自分の体を見てみると、体自体は私のままだけどなんだか透けてた

 これってやっぱり死んだんだろうなぁ

 死ぬときって一瞬なんだね。頭が岩にぶつかって痛いって思う間もなかったもん

 まぁ死んだあとの世界で頭が花のようにぱっくり開いちゃってなくてよかったかな

 痛々しいし自分で見てたら卒倒間違いなしだよ

 それにしても死因が猫を追いかけてたからって言うのも何というか間抜けかも

 天涯孤独だし、友人もいないから悲しむ人もいないし、別にいいんだけどね

 あーあ、こんなことなら猫カフェで溜まってたポイント使っておくんだった

 あ、レンタルDVD返してない! 延滞料、は、もう考えなくていいのか

 思えば猫を追いかけて触るだけの味気ない人生だったなぁ

 猫が好きすぎるのに一度も猫を飼ったことがない

 住んでいたアパートはペット禁止だったし

 もし生まれ変わりがあるって言うんなら猫になりたいよ猫に

「その願い聞き入れた」

「はえ!?」

 突然私の頭に直接声が流れ込んできた

「だ、だれ!? もしかして神様とか!?」

「話が早いな。吾輩は猫神バステト。そなた猫愛に感服し、そなたに今一度生を与えたいと思う」

「え!? それって転生できるってことですか!?」

「まぁそういうことになるな。どれ、このままでは話もしにくいじゃろう。しばし待たれよ」

 少しの間があって猫神バステトさん?様?が私の前に降り立った

「ふむ、人の姿を取るのも久方ぶりよの。どうじゃ? 可愛いかえ?」

 私はその姿を見たとたん一瞬のうちに彼女のお尻を触っていた

「ヒャはぅん! 何をする! 吾輩の尻尾の付け根を触るとは何たる不敬、これ! 止めぬか! 手を、手を離せ、あふん、離せと言うに! あひぃ、やめ、はひゅぅ…」

「よーしよしよしよし、モフモフだぁああ! ぬああああ! スフーーーーックンカクンカ」

 悶えるバステトさんを押さえつけて猫吸いの要領でお腹を吸う

 この時の私は興奮しすぎて我を失っていた

 何せ猫ちゃんだったから! バステトさんは人型の猫なのである!

「はぁああ、堪能、したぁ」

「お、お主、神である吾輩を、こんなにして…。はふぅ、もっとぉ、じゃなかった。不敬! 不敬であるぞ!」

「でも気持ちよかったでしょう?」

「それはもう最高じゃった!って何を言わせるのじゃ!」

 バステトさん正直だねぇ

「それよりもじゃ! お主に新たな生を与えるにあたって何かリクエストなどはないか?」

 そう言われて私は少し考えこんだ

 生前の私は売れないイラストレーターで、お絵かきサイトなんかのリクエストで小銭を稼いだりアルバイトで生計を立てる毎日だった

 当然暮らしなんてそんなにいいもんじゃない

 一日一食なんてのもざらだったし、そりゃあ裕福な暮らしをしたいとは思うけど…

 私の思いはすぐに決まった

「のんびり自由気ままに、猫みたいに暮らせればそれでいい、かな?」

「フハハ、吾輩の思った通りじゃな。そうかそうか、なればそのように計らおうぞ」

「それって具体的にどんな感じですか?」

「ふむ、お主がこれから行くセカイは魔物もおるし治安もそこまでよくはないが、のどかな田舎なら本当にんびり暮らせるじゃろう。それで他には何か望むかえ?」

「いえ、のんびりできるならそれでいいです」

「ふむ、高望みせぬが長息の秘訣、それも良かろう。じゃがそれだけでは心もとないじゃろうに。そこでじゃ! 吾輩からギフトをいくつかやろう。それで大抵のことは何とかなるじゃろ」

「そんな、悪いですよ」

「なに、猫を愛するお主に吾輩から贈り物じゃて。とにかくだ、これからのお主の生に幸多からんことを願う」

「ありがとうございました。それで、私はそこで何かやることがあるんでしょうか?」

「特にない! 好きに生きよ!」

「はい!」

 バステトさんが手をバッと上げると視界が真っ白になって


 そして私は転生を果たした


 まず体を見てみる

 わぁモフモフがいっぱーい

 毛が、いっぱい

 ん? 私、立てない

 あとなんだか手がぷにぷにしてる気がする

 ジッと手を見る

 わーい肉球だ~

 そうです私は猫になってしまいました

 いやでもこれは素晴らしく気ままな生活が遅れそうな予感

 猫大好きな自分自身が猫になるとは思わなかったけど、それでも私はこれで幸せ

 でもなぁ、今子猫なのよねぇ

 明らかにこの体じゃ鴉につつかれただけで死んじゃうでしょ

 と言うわけでまず街を目指す!

 街なら猫好きの人とかいるでしょ

 そう定まったことでなぜか街の方角が感覚でわかった

 そっか、これがバステトさんの言ってたギフト…

 街の方角も分かったことだし、いざ出発!

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