第184話『竜殺し』との共闘

 ──◆◇◆◇──


「あらかた片付いた、かな?」


 浅田との電話の最中に大聖堂での襲撃を受けた俺たちは、すぐに戦闘に移りその場に現れた襲撃班達を鎮圧した。


 最初は銃撃で襲われ、次に爆弾でその次は銃撃。そんでまた爆弾がきて、後は戦士を投入しての乱戦となった。


 だが、普通なら全滅してもおかしくない攻撃だったが生憎とこちらは『普通』じゃない。


 特級や一級の集まりに対して、銃弾なんてエアガン程度の効果すらない。

 喰らえば痛いし眼や口に入ったら問題があるが、それ以外は煩わしいくらいなもんで、それは爆弾も同じだ。

 衝撃はあるし視界が遮られるが、人的な被害そのものはあまりない。……まあ、俺以外は、だけど。だって俺、三級だし。


 そんなわけで襲撃事態は終わったのだが……


「終わったと思うか?」

「終わってないだろうねぇー。簡単すぎるもん」


 だよなぁ。

 隣にきたジークに問いかけてみたのだが、返ってきた言葉に迷うことなく同意できてしまった。


 カーターが言うように今まで散々やらかして、それでもなお逃げおおせてきた奴らが計画したにしては、随分と〝成果〟を出せなさすぎている。


「カーター……は忙しそうだし、どうすっかね……」


 これで終わるわけがないとわかっているので、軽く周囲の確認をすると手早く道具の補充をしていく。


「ん?」

「どうかした?」


 だが、ちょうど補充を終えたところで、階下から魔力の反応を感じた。

 それによって漏れた俺の声をジークが聞き留め、すぐさま右手に下げていた剣を両手で握りしめて構え、周囲へ警戒を向けた。


「あっちの隅から魔力を感じ——」


 そこまで言ったところで、建物の隅の方に感じていた魔力の反応は膨れ上がり、危機感を抱くほどのものへと変わった。


 それがわかったのか、ジークは周囲に巡らせていた警戒をその方向のみへとむけ、それと同時にいつでも動き出せるように腰を落とした。


 突然の魔力の反応に気づいたのは俺たちだけではないようで、すぐ近くにいた騎士たちも反応をしめし、カーターは即座に指示を出して騎士達を動かしていった。


 そうして俺たちが準備を終えると、それとほぼ同時に目の前の空間が歪みだし、ゲートが出来上がった。


「んー、ゲートの出現が増えてるってのは聞いてたけど、ここでくるのかー」


 ジークはそんなことを呟いたが、どう考えてもタイミングが良すぎる。


「ってより、あいつらがゲートを開く手段だか技術だかを手に入れたって考えるべきじゃないか?」

「ま、だよね」


 誰かが意図的にゲートを呼んだ、もしくは作ったんだと俺は考えたんだが、ジークもその意見には賛同してくれるようだ。

 もしそれが本当なら非常にまずいことになるので、賛同してもらったとしても嬉しくもなんともないけどな。


「これがあいつらの奥の手かな?」

「多分な。じゃないとこの状況で使わないだろ」


 おそらくはゲートを発生させることで、そこから現れたモンスターに俺たちを倒させようとしたのだろう。

 それがうまくいけば、騎士達だけではなくこの地にいる人々も殺すことが——奴らの言うところの『浄化』することができる。


 だが、相手が悪いとしか言いようがない。


「まったく……よりによって竜か。舐められてるのかな?」

「随分と落ち着いてんのな」

「そりゃあね。これでも何体も竜を狩ってきたから、この程度なら問題ないよ」


 ゲートから出てきたのは、ドラゴンだった。


 それが七体。


 普通なら一体だけであったとしても騎士達、覚醒者がいたとしても苦戦するであろう相手。

 奴らの狙い通り、騎士達を倒して、さらに街まで浄化するのは容易いことだろう——本来ならば。


「ゲートの方はどうする?」

「竜って個体が強いからそれほど数はいないし、多くても十体くらいだと思うよ。それに、竜を狩っててわかったんだけどさ、あの時みたいな大物は稀なんだよね。他は雑魚だよ、雑魚」

「だから、全部倒してからゆっくりと散歩でもすればおしまいだ」

「んじゃあ、やることは出てきたやつを潰せばいいのか」

「だね。あとは安全を確保したらちょっと様子見のためにゲートに入って、それから部隊を編成して駆除に向かえばいい。流石にこんなところにできたゲートを——それも竜のやつを確保なんてしないだろうしね」


 しかし、今この場所には『竜殺しの勇者』がいる。

 これまで単独で何十を超えて百以上ものドラゴンを狩ってきた特級がいるのだ。


 むしろ、下手にモンスターの群れなんかを呼び出されるよりも逃す心配をしなくて良い分対処は楽になる。


 ジークは一度深呼吸をすると、ゲートをこえてこちら側にやってきたドラゴンに向かって走り出し、懐に潜り込んだかと思うと、ダンッ、と音を立てて飛び上がり、ドラゴンの首を切り裂いた。


 ……一瞬か。やっぱすごいな


 首を切り落とすまではいかなかったから切られたドラゴンは暴れているけど、それでもあれだけの傷ができたら後は死ぬだけだろう。


 けど、それでも残りはまだ六体もいる。今のは初撃だったから上手くいったんだろうが、残り全部がそう簡単にいくわけじゃない。


「手伝ってくれるかい?」

「まあ、しゃーないだろ」


 手伝うべきだ、とそう考えた瞬間にジークが俺に問いかけてきたので、返事をしてからため息を吐き出した。

 おそらくはこれが奴らの奥の手。だからこいつらを片付けてしまえばこの騒ぎも終わるだろう。


「そっかそっか。それじゃあ、約三年ぶりの共同作業になるわけだ。いやー、楽しいね!」


 俺の返事がそんなに嬉しかったのか、ジークはドラゴンを前にしているというのに楽しげに笑っている。


「前回も今回も、俺たち以外にもいるだろうが」


 俺たちの周りには、俺たち以外にも騎士達がいる。共同作業だってんならそいつらもそうだろうに、何言ってんだか。


「それでもさ、やっぱり心躍るって言うのかな? こう、意気込みが違うよね」


 意気込みねぇ……正直なところ、ドラゴンを複数相手どるなんて今からでも逃げ出したい。こいつに任せておけばどうにかなるだろうし。


 ただまあ、出来る限り早く終わらせたいし、乗りかかった船だ。最後までやるしかないよな。


「まあ、雑談ばっかりしてないで、さっさと倒すことにしよっか」

「前と同じように、補助はお願いね。隙さえ作ってくれれば、僕が終わらせるから」


 前回は俺が色々やって隙を作ったところにカーター達騎士やジークが攻撃を仕掛けていた。

 さっきの様子を見た限りだと、あの頃よりも成長したジークならばカーター達の攻撃がなくても倒し切ることができるだろう。


 と言っても、流石に六体同時に相手取るのは難しい。だから……


「カーター! 一体ずつ片付けるから他を押さえてろ!」


 俺はそれだけ告げて向こうの返事を聞くことなく動き出した。


 まずは先頭にいたドラゴン——ではなく、一番後ろにいたやつだ。

 先頭のやつが倒されたことで、ドラゴン達は動揺しているし、その動揺は二番目にいたやつが一番大きい。

 当然だ、目の前で仲間が死んだんだからな。だから動揺しながらも警戒もしている。


 それに対して、一番後ろのやつは動揺しているが、警戒はしていない。多分やられるのなら前から順番だとでも思っているんだろう。


 だからその心の隙をつかせてもらう。


 俺はジークに狙いを告げるとすぐさま攻撃に移り、ジークもそれと同時に走り出した。


「あははっ! まるで本当にあの時みたいだ! 今度は情けないところを見せるわけにはいかないし……」


 一番後ろにいたドラゴンの口の中に催涙弾を投げ込み、それを腹の中で破裂させる。

 すると、それを食らったドラゴンは口から痛々しいくらいに赤い煙を口や鼻から噴き出して咽せている。


 何が何だかわかっていないのか、まるで警戒がなくなってしまっている。


 そんなドラゴンの様子に笑いながら、ジークは先ほどと同じように思い切り踏み込んで、飛んだ。


「これで終わりだよ」


 ……一撃か。すごいなぁー。


 またも一撃でドラゴンの首を切り裂いたジークの攻撃を見て、俺はそんな呆れたような感想しか出てこなかった。


「なあ、これって俺必要なかったんじゃないのか?」

「え? やだなー、何言ってんのさ。流石に僕も竜の相手は慣れたって言っても、戦いながら力を溜めるなんてできないし、こんなに早くは倒せないよ。だから、周りに大した被害を出さずに倒せたのは君のおかげだ」


「さ、残りもやっちゃおうっか」


 ジークはそう言って獰猛に笑うとドラゴン達へと視線を向けたが、生まれながらの強者であり、人間なんて敵ではないはずの種であるドラゴン達に動揺はない。


 だが、何も感じていないわけではない。

 ドラゴン達は動揺する代わりに、怯えたような色を瞳に宿していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る