第122話生還成功
「——う……あ゛――――……」
くっそ気分悪いな。
なにがどうなってこんなんに……ああ、自分で呪いかけたんだったな。
……こりゃあ、随分といい部屋だな。
俺が寝ているのは病院のベッドみたいな感じだが、それ以外がなんかすごいことになってる。
部屋の中のそこらじゅうに呪い関連の道具が置かれている。
多分俺が自分に掛けた呪いの解呪のためだと思うが……よくここまでやったな。
「なーす、こーる……」
押せねえや。ってか体が動かない。
良く見ると体に何本か管が繋がってる。それほど重症だったんだろうな。
まあ納得だ。結構無茶やったし、術の途中で死ぬかも知んねえなんて思ったくらいだからな。
仕方ない、寝てるか。どうせやることも……そもそもできることもないしな。
と思ったのだが、部屋の扉を叩く音がして顔をそっちに向けようとしたが動かず、諦めて視線だけ向けると、ガラガラと扉を開けてヒロが入ってきた。
「コウ。起きてんだろ」
「……ひろ?」
ヒロのその言葉からしてなんらかの方法で俺が起きたのを察して来たようだ。
多分この管だろうな。胸にもついてるし、心拍数とかそんな感じのやつを見てるんだろう。
「ああ。っとああ、無理して喋んなくていいぞ。まだだるいだろうからな」
呂律がうまく回っておらずかすれている俺の声を聞いて、ヒロはそう言いながら隅においてあった椅子を出したて座った。
「まず俺がここにいるのは、俺がお前の関係者でだからだな。『上』はお前に死んでもらっちゃ困るってことで助けることになったんだが、その担当が俺になった」
ああ、一応こいつは冒険者関連のお役所仕事だったな。
まあそれを言ったら俺もなんだけど、全然公務員って感じがしないのは気のせいか?
「まあその辺はあれこれと色々ある感じだが、お前としては自分がぶっ倒れた後のことが気になってるだろうからそっちを話すな」
ああそうだった。そういやああの後どうなったんだろうな。
多分クラゲどもは全滅させたはずだし、宮野たちも途中であのダンジョンに最初っからいた土竜型のモンスターに襲われるようなヘマをしないだろうから、全員無事だと思うが……。
で、話を聞いてみたんだが、どうやら普通に無事だったようだ。
所々怪我はあったものの、それも北原が治癒できる程度の軽いもので、むしろ一番酷かったのが俺だったそうだ。
まあ、酷い状態になったってのは俺自身よくわかってるけどな。
「で、だ。お前、今回どんな術使った? 解呪しようとしたやつまで呪われて大変だったんだぞ」
そう不満を込めて聞かれたが、ヒロは俺がまだうまく言葉を話せないことを知っているんだから、答えなんて求めていない単なる軽い冗談みたいなもんだろう。
「素人が色々混ぜたせいで、その道のプロでも下手に手を出せないようなごちゃごちゃ具合だったそうだ。解呪にきたやつが何人か一緒に呪われたぞ」
そりゃあそいつのせいだろ。よく分かりもしない呪いに手を出して——あ、いや、手を出さざるを得なかったのか。
国の命令だってんなら、原因がわからなくても助けるしかないもんな。
「ついでに——お前や解呪にきた奴と同じ呪いに、お偉方のうち何人かがかかった」
そう言った瞬間、ヒロの表情が真剣なものへと変わった。
……まあ、そうなるだろうな。
全く関係のないはずのやつが俺の呪いにかかったってんなら、それはどっかで関係があったってことだ。それも、魔力の繋がりができるほどの深い関係が。
今回のは放っておけば日本が——いや、世界が危険に晒されたかもしれないほどの異常だった。
最悪の場合はニーナが手当たり次第に燃やして、ダンジョンもぶっ壊せばなんとかなっただろうが、それまでにどれくらいの被害が出た?
そんな事件とお偉いさんが関わってたんなら、そりゃあどう考えてもまずいだろ。
「お前が使ったのは、件のクラゲ型モンスターに改造の魔法をかけたやつまで伸びる術だったんだろ?」
頷くが、正確には魔力によって繋がりのできていた全ての存在を呪うことだ。
流石に繋がっていても、その繋がりが離れすぎていたら効果は出ないだろうが……まあクラゲのボスに魔法をかけたやつと、それからそいつに魔法をかけたもの、あるいはかけられたもの程度までだったら十分に届くはずだ。
「ってことはだ、そいつらも異常に関わってるってことでいいんだよな?」
それは、はっきりとは言えないな。
繋がりがあるって言っても、ただ単に一方的に魔法をかけられただけって可能性もある。
まあそれはそれで繋がりがあるんだろうし、公共の場で魔法をかけるなんてことはしないだろうからなんらかの形で関わって入るだろうな。
それも繋がりが薄れないような数日……最長でも二日以内には犯人と会っているはずだ。
「——っはあ〜〜〜〜……めんどくせ」
「そい、つら、は……?」
ヒロ達としてはめんどくさい状況だろうが、俺には何もできることがない。
とりあえず俺の呪いにかかった奴らがどうなったのかってことを聞きたかったので、ヒロにそのことを尋ねた。
「『お話し中』だ。これはまあ、お前のおかげだな。普通ならできないが、お前の呪いが移ったせいで、それを解除するって名目で集めて頭の中をいじくり回してる。多分もう『お話し』自体は終わってるだろうから色々とわかってるだろうけどな」
「てつだ、うか?」
「手伝う? いやいいよ。まあ、お前は休んでろ。まともに喋れない状況じゃ、手伝ってもらうにしてもなにもできないからな」
できることは何もないとわかっていたが、それでも今回関わったんだし、手伝った方がいいんだろうかと思っていったんだが、すぐに断られてしまった。
「それにな、お前んところの安倍ちゃん。あの子にも疑いがかかってる。まあそれはあの子ってよりも、正確にはその家ってか本家だな」
安倍が? なんであいつの家が疑われてんだ? あいつだって今回の被害者だろうに。
確かに今回安倍晴華って少女が関わったのは偶然だし、本家が末端のことを気にしてないってことはあるかも知んないけど。
「考えてもみろ。今回の件はモンスターの使役と改造だ。陰陽道の専門家である安倍の家は似たようなことができんだろ?」
その言葉でなんとなく察することはできた。
式神。それは日本ではそれなりに知られた方法だ。
自分の望む人造生物を作るか、既存の生物を使役するかって二つの方法があるけど、そのどっちかの方法で自分の従者を操る技術。
海外風に言ったらゴーレムとかそんな感じのだな。
まあ確かに怪しいっちゃ怪しいな。
ただ、必ずしも犯人と繋がりがあるってわけでもないと思う。
安倍の家は陰陽道で有名だが、だからと言って他に式神を使う古い魔法使いの家がないわけでもない。
それに、陰陽師なんて昔にはそれなりの数がいたんだから、その血筋で表に出てきていない奴らがいてもおかしくない。
まあ、その程度はヒロ達も理解してるだろうけど、それでも可能性としては考えているのだろう。
そしてその安倍の娘を放っておくわけにはいかないから俺を離せない……いや、もしかしたら俺も疑われてる?
その可能性はないわけじゃないな。『上』は俺の価値を認めてるみたいだけど、全員が認めてるってわけでもないはずだし、自作自演として疑うやつだっているだろう。
俺から言わせて貰えば、自作自演でこんな死にかけるかよって言いたいが、それだけの覚悟があったって言われればそれまでだしな。
「っつーかだな、疑い云々を抜きにしても、お前はこれまで頑張りすぎだ。お前のためだって思って冒険者でいることを押し付けたのは俺たちだが、それでもお前は頑張ってるってか、無理しすぎだ。少しくらい休んでもバチはあらたねえさ。だから、ちったあ大人の言うこと聞いて休んどけ」
頑張ってる、ねぇ……何言ってんだか。
大人って言っても、そんな変わんねえだろうが。
俺もお前も、もういい歳したおっさんだ。大人子供を言い合うような歳でもねえだろに。
「おとなって、いっても……っ」
そう言ってやりたいが、うまく声が出ないのがもどかしい。
「はっ、一秒でも早く生まれたら年上だ。年上イコール大人だ。いいから黙って休んどけ。必要な裏作業やなんやかんやはこっちでやっといてやるからよ」
だが、それでも俺の言いたいことが理解できたのか、ヒロは軽く笑うと立ち上がって椅子を片付け始めた。
年上で大人ねぇ。ま、なんにしても良いって言うんだったら、いいか。
俺はダラダラ過ごしてればいいか。
「だから、お前はこっちのことより、あっちに気を使え」
そうしてこんな時くらい休むことに決めた俺は椅子を片付け始めたヒロを見て、なんだもう帰るのか、なんて思ったのだが、ヒロは自分が入ってきた部屋の入り口の方を指差した。
そんな動きにつられて視線を向けると、そこには僅かにドアを開けてその隙間から顔を見せている宮野達がいた。
「まて……」
「待たねえよ。なんか情報を伝えられそうなら伝えっから、体を治せ。それから……気いつけろよ」
あ……まずい。
そう思ってヒロを引き止めるが、ヒロは止まろうとはせずに歩き出した。
「んじゃあ、また学祭ん時には会いに行くからな〜」
そして最後にそう言うとヒロは部屋を出て行き、外から話し声が聞こえてからわずか後に部屋の中に浅田を先頭にして宮野たちが入ってきた。
——んだが、どうも顔が怖い。なんだか怒ってるような……てか確実に怒ってるなこりゃあ。
多分俺が呪いの副作用について詳しく言わなかったことなんだろうけど……。
まあ仕方ない。年下の女の子に叱られるのは情けないが、叱られるだけの理由を作ったことは理解してる。
それに、まあ……叱ってくれる相手がいるだけ有難いと思わないとだよな。
「ちょっとあんた。話があんだけど?」
でも、確かに俺のせいだし仕方ないんだが、これからカツアゲとか、なんか不良に絡まれるようなセリフだな、なんて思ってしまい、声が出ないまま笑った。
そのせいでさらに怒られたが、まあいい経験だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます