第121話感染する呪い
「——ったく、聞こえてんだよ」
俺たちの使っている通信機は、片方が通話を切ったとしても、自分の方で通話を切らないと相手に音が聞こえるようになっている。
それはケータイのように受け手が反応しないと伝えられないような仕組みだと、いざって時に情報を伝えられないからなんだが、浅田は通話を切り忘れた状態で最後に不満を口にしていた。
「佳奈ちゃんから、ですか?」
「ああ。原因を見つけたらしい」
「やった!」
さっきの話は聞こえていただろうが、俺からはっきりと聞いたことで安心できたらしく、北原は喜びを露わにしている。
「だからこれから俺は役立たずに——まあ元々そんな感じだったが、足手まといになるから後は頼んだ」
「ん。任された」
「ま、任されました」
呪いをかけた後はろくに動けなくなるだろうけど、元々対して戦闘では役に立ってなかったし大して変わらないだろう。
「——来た!」
しばらく待っていると、渡したナイフの反応が活性化した。
思ったよりも遅かったが、繋がったってことは問題なくできたってことだろう。
「後は任せる!」
俺は安倍と北原の二人に向かってそう叫ぶと、すぐに術へと移った。
まずは起動されたナイフの位置を特定して、それと接続——できた。
ここは雨だか飴だかになるほど魔力に溢れた空間だから、それほど大変じゃなかったな。
これが魔力の少ない空間だと接続するだけでも自前の魔力が余分に削られるから大変なんだが、まあ上手くいったならいい。
ナイフに接続した後は俺自身に呪いをかけて、それをさっき繋げたナイフを通してクラゲどものボスにその呪いを流し込む。
「ぐうっ!」
わかってたことだが、きっついな……。
今やってんのは、相手の繋がりをたどって繋がってるやつ全てに呪いをかける方法だ。
これならクラゲの大元だけじゃなくてそこから分裂したやつも、クラゲに魔法をかけて改造したやつも、そしてナイフを通じて繋がった俺も。
全員が等しく呪いを受ける感染型のもの。
本来は恨みのある相手の家系を根絶させるための呪いだが、俺がやってるのはその呪いをベースに薄めて他の呪いや魔法と混ぜて濃縮して……まあそんな無茶をやって出来上がったものだ。
例えるなら和洋中の……いや、それだけではなく全ての国の全ての技法を混ぜて作った創作料理みたいなもんだ。
大成功すれば美味しいものができるが、それ以外は大失敗して目も当てられない。
そんな普通ならやらないような賭け事じみたバカなやり方。
だが呪い関連に適性のない俺が効果を出すには、無茶をやるしかない。
繋がっている全ての魔力の流れをグチャグチャに乱して暴走させて殺す。
この方法は保有してる魔力が多ければ多いほど効果がある。
空飛ぶクラゲなんて物理法則無視した魔力の塊は死ぬだろうし、モンスターを改造できるほどの腕前のやつも大ダメージを負うはずだ。
俺は三級に相応しい魔力量しかないし、この術を使うのに結構魔力を使ったから、魔力があるって言っても致命的ってほどの影響は出ない……と思う。
まあ死ぬことはないだろう。
多分しばらく魔法がうまく使えないのと、術を終わらせた後にはぶっ倒れるってことくらいじゃないだろうか?
そんなわけで苦しいのは覚悟してたが、思ってたよりきつい。
高熱の時のふらつきが常に感じられ、吐き気を催した時の何かが逆流するような不快感が食道だけではなく全身の至る所から感じられる。
「い、伊上さん!?」
なんだ? 北原が叫んでるが、何か問題でもあったのか?
「血がっ!」
ち……血?
「全身から血がっ! 目や鼻からもっ!」
ああ、なるほど。俺の体から血が出てるから驚いたのか。
体の中の不快感を耐えながら呪いを維持してるせいで、他の感覚は鈍くなってるが、血が出てるほど俺の体に影響があるってことは、成功してるみたいだな。
でもまさかこんなに早く影響が出るとは……失敗しないようにって力入れすぎたのがまずかったか?
いや、それで失敗した方がまずい。
宮野も浅田も危険を承知で敵の中に突っ込んでいったんだ。このくらいは耐えるべきだろ。
「い、今治します!」
「や……め……」
まずい。治そうと思うほど俺の状態はひどいんだろうが、今俺が行っている呪いは、体内の魔力を暴走させるものだ。
治癒なんてかけられたところで、それも暴走しておしまい。むしろそのせいで死ぬかもしれない。
それに、これは相手と魔力的に繋がったもの全てにかける呪いだ。
今の俺に治癒なんてかけたら、北原も呪いの対象になる。
そのことを説明してなかった俺のミスだが……まずい。なんとかして止めないと。
「晴華ちゃん!?」
「ダメ」
「どうして!? このままじゃ伊上さんがっ!」
「わかってる。でも、ダメ。逆効果」
こうなるとわかっていると止められるかもと思ってまともな説明をしなかった俺もいけないんだが、どうやら安倍は気づいて止めてくれたようだな。良かった。
だが、後少し……。後少しで、この呪いは完成する。
そうしたら接続を切って、術を解除する。そうすれば死ぬことはない。
それを伝えたいんだが、そんなことに余力を割くくらいだったら一秒でも速い呪いの完成を急ぎたい。
だって、あいつらは今もモンスターの群れの中で戦ってるだろうから。
「——できた」
そうこうしている内に呪いが完成しナイフを通じて敵に流し込んで——よし、できた。
これで後は接続を切って、術を解除して……ああ、これで、終わりだ。
「あ゛、ど……まか、せ……」
後は任せた。そういうつもりだったのに最後まで言い切ることができずに俺は意識を手放した。
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